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#01 「美少女ゲーム」と「演劇」を繋いでみるインタビュー(ゲスト:深沢豊)

5月12日(水)より上演予定のかまどキッチン「海2」では、上演作品をより深めるため、それぞれ異なった専門性を持つゲストをお招きして「海2のミ」という関連企画を行います。プレビュートークと題した本企画では、かまどキッチンの主宰2人がゲストの方に、題材や、本作のテーマ「分断につながる加害と消費」についてインタビューを行います。

♯01のゲストは幻の作品と謳われる『書淫、或いは失われた夢の物語』などの美少女ゲームを制作し、現在は長野県松本市を拠点とする劇団TCアルプにて俳優として活動されている深沢豊さんです。

このトークで話す人は? 
深沢豊:今回のゲスト。シナリオライター・俳優。
児玉健吾:かまどキッチン主宰。本作では脚本・演出を担当。
佃直哉:かまどキッチン共同主宰。本作ではプロデュース、ドラマトゥルクを担当 。


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児玉かまどキッチン公演#2「海2」の関連企画「海2のミ」と題しまして、様々な分野の方々と、題材や作品にまつわることをお話できればと思っています。今回は第一回。ゲストは深沢豊さんです。よろしくお願いいたします。

1.深沢豊のプロフィール

深沢:深沢豊です。いまは長野県の松本市の方に在住しています。高校卒業後に上京をしまして、インターネット等で自作のゲームを公開していた中で、たまたまゲーム会社に拾ってもらったというか興味を持ってもらって。そこでいわゆる「美少女ゲーム[1]」というジャンルのゲームの企画開発シナリオを担当していました。そこで最初に作ったのが1999年の「2nd Love[2]」です。その後2000年に、「書淫、あるいは失われた夢の物語。[3]」を作りました。

でも残念ながら会社がなくなってしまいまして。その後はいろんなところでプログラムをやったりとか、ウェブを作ったりしていたんですけれども、2009年頃にゲーム作りに再び興味が出てきたところで、ゲーム会社のウィザードソフト[4]に声をかけてもらいまして。そして2010年に、携帯用ゲーム機のPSP(プレイステーションポータブル)で「セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜[5]」を発売しました。いまはウィザードソフトも辞めて、実家のある長野県松本市に戻っています。

松本市は演劇が盛んな町なんですけれども、実家の近くにまつもと市民芸術館[6]というでっかい劇場がありまして。まつもと市民芸術館の芸術監督は串田和美[7]さんという方で、加藤直[8]さんという演出家の方もいまして。

そこで演劇の公演を観たときに、「こりゃすごいな」と興味を抱きまして。まつもと市民芸術館には市民の劇団があるんですけど最初そこに入りまして、あれよあれよという間に今度はTCアルプ[9]という劇団に入って、現在はその一員として活動しています。

脚注:

[1]少女との恋愛関係を主軸に構成されるゲーム。2000年代初期より国内を中心に発展した。

[2]美少女ゲームブランド「force」から発売された美少女ゲーム。現在では入手が困難となって
おり、プレミア価格で取引されている。

[3]美少女ゲームブランド「force」から発売された美少女ゲーム。一見繋がりが見えない
複数の物語を平行して展開した先に待つ展開が当時のゲーマーの一部で高く評価された。
『2nd love』同様に入手困難となっており、現在では20万円前後の相場で取引されている。

[4]石川県金沢市のゲーム制作会社。代表作は「セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜」。

[5]「日本一ソフトウェア」から発売されたアドベンチャーゲーム。
荒川工・大槻涼樹・深沢豊の三人が在籍するチーム「テクスト。」が開発した。

[6]長野県松本市にある公共施設。串田和美を館長/芸術監督として、2004年に開館した。

[7]俳優、演出家。1966年に自由劇場を結成。1994年に歌舞伎俳優の中村勘三郎と共同で開始した
「コクーン歌舞伎」は、現在でも人気シリーズとして上演が続けられている。

[8]劇作家、演出家。1970年より「黒テント」の創立に参加し、座付き作家や演出家として活動
した。現在はまつもと演劇工場の工場長に就任している。

[9]2007年にまつもと市民芸術館から誕生した劇団。演出家・俳優として串田和美も参加している。

2.「出演:深沢豊」の衝撃

児玉:ありがとうございます。僕たちの中では、深沢さんはゲーム史を語る上で象徴的なクリエイターの方なんですよ。なので僕たちとしては琴線に触れるものが多すぎて、何から触れていいのかみたいなところもありますけれど……。

僕たちは昔からゲームが好きで、もともと深沢豊さんのことも知っていて。さらに演劇のところでいうと、今回のかまどキッチンの公演に出演される緒方壮哉さんも長野県松本市出身なんですよね。

深沢:3年ほど前に松本市でシアターキャンプ[10]っていう串田さんが開催したワークショップがあったんですけど、そこで緒方さんと出会いまして。「深沢さんの作ったゲームをプレイしていた人が、僕が次に出演する劇団の人なんですよ」と伺いました。

それからは僕もかまどキッチンのことが気になっていたんですけど、ちょっと距離感があるっていうのと、ちょうどTCアルプが公演してるときにかまどキッチンも公演をしていてタイミングがなかなか合わなくて。去年のコロナのタイミングで公演の映像配信をやっていただいたので、そこで初めてちゃんと作品を見ることができました。

児玉:ありがとうございます。僕たちにとっての伝説の人が作品を見てくれたのかと、感慨深いものがありました。

佃:深沢さんのゲームでいうと、僕は先ほど話題に上がった「セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜」と、「忘れ物と落とし物[11]」をプレイしました。他に関してはちょっと価格の問題もあって入手できておらず……。

児玉:深沢さんの代表作は今ではプレミア価格がついているものもあったりして、なかなか手に入らないんですよね。

深沢:なんだかすごいことになってしまっていて申し訳ないですね。

佃:深沢さんの名前を演劇公演の情報欄で見たときはとても驚きましたよ。だって出演欄に「深沢豊」って書いてあるわけですよ!「その深沢豊さんはどの深沢豊さんなんですか」っていう。

児玉:僕もたまたま深沢さんのゲームを調べているときに知って……。

深沢:いやもう自分もびっくりみたいな感じ。

佃:あんなに僕が演劇を見に行ったKAAT[12]の大スタジオの舞台に、深沢さんは俳優として立っていたんですか!?みたいな。

深沢:いろいろ偶然も重なりつつみたいな感じで。松本という町が、演劇との距離が割と近いっていうところがあるのかなとは思うんですけれども。

[10]まつもと市民芸術館が主催している合宿型のワークショップ。串田和美が企画を務め、
演劇における表現者を育成する短期集中プログラムとして不定期に開催されている。

[11]1997年に発表されたアドベンチャーゲーム。現実の時間と連動した作品として
インターネット上で公開され、2005年には修正を加えたwindows版が発表された。

[12]神奈川県にある公共劇場。宮本亜門を初代芸術監督に迎え、2010年に開館した。

3.美少女ゲームと演劇の類縁性

児玉:少し温まってきたところで本題に入らせていただければと思います。

深沢さんの作品は、ゲーム独自の表現が非常に評価されてきたと思うんですが、そのような方が今、新たに演劇に関心を持って活動しているのがとても面白くて。ゲームと演劇の類縁性みたいなものがあればお伺いしたいです。

3.1 深沢豊のゲームとは?

深沢:もともと1人でゲームを作っていたこともあって、これが分業制だとちょっと難しいかもしれないんですけど、自分でゲームのシステムを作ってシナリオも書いて、ついでに効果音とか音も入れていってみたいなところをやっていたんで、そういうことをやっていると、ゲームのシステムそのものを俯瞰して、ある意味壊したくなってくるんですよ。自分で作ったものを壊してみたいなことをやりたくなってきて、そこら辺が自分で作ったゲームの特徴と言えるかなとは思うんですけれども。

特に、プレイヤーとの距離感を考えて作った作品が多いですね。ゲームというジャンルは、プレイ中の選択肢っていうものがプレイヤーに最も介入できるものなので、その選択肢を通じてプレイヤーにどうやって介入していくかみたいなことを考えて作っていたのが、自分のゲームなのかなとは思います。

児玉:深沢さんのゲームを初見でプレイしたとき、ストーリーの流れに乗っていったら、いつのまにかぐっと距離を詰められていたような感覚がありましたね。「現実に踏み込んできた!」と感じました。

深沢:当時の自分が好んでいた手法ですね。例えばゲーム上で選択肢があったときに、ゲームが提示する選択肢以外のものをユーザーが直接キーボードで入力したら新しいルートが出てくるといった感じです。

3.2 演劇を始めた理由

深沢:演劇に興味を持ったのは、演劇公演をやる側と観客の距離感がすごく面白いなって思ったんですよね。僕はもともとゲーム人間だったので、松本に帰ってくるまで演劇をほとんど見たことがなかったんですけれども。

そこで串田さんのお芝居を見たときに、演劇と役者、役者と観客の距離感がときによってすごく近づいたり離れたりするみたいなのが面白くて、どんどん興味を持っていきました。

児玉:なるほど。もともとゲームプレイヤーのことをかなり意識していたがゆえに、観客との接触がより直接的な演劇に類縁性を感じられたということですね。

深沢:そういう感じですかね。

佃:演劇に関して言うと、社会における様々な問題を観客と共有しようと思ったときに、ストーリーを描写して伝えるというよりも、観客への問いかけといった手法で観客の能動的な参加を促すシステムが演劇の演出の中には含まれているというような考え方があって。

演劇の観客に対する能動的な働きかけが、ゲームのプレイヤーにおける能動的な参加を促す装置とイコールになって、そこが深沢さんが演劇に対して関心を持つきっかけになったのかなと、お話を聞いていて思いました。

深沢:演劇はそれまでの自分の文脈にない新しいものだったので、演劇というものの中で、誰がどういうふうに動いて、誰がどうやってそれを作り出しているのかその秘密を知りたいぞ、みたいなところから演劇の現場の中に入っていきました。今もたまたま俳優としてなんとかやってるんですけれども、自分が舞台の上にたつなんて全然思ってなかったです。

4.近年の美少女ゲーム

佃:ありがとうございます。深沢さんの中でゲームのシステムとシナリオがかなり不可分だったのかなと思うんですけど。現在の美少女ゲーム周辺の状況や情勢についてお伺いしたいです。

4.1 美少女ゲーム黎明期:システムとプレイヤー

深沢:例えばコンセプトと作品の内容を見たときに、ここ10年ぐらいのゲームの流れで考えると、特にインディーのゲームに多いんですけれども、システムがプレイヤーに直接介入してくるようなゲームがちょこちょこ出てきたのかなっていうのが雑感ですね。

ざっとタイトルを挙げると、かつて「ゆめにっき[13]」というインディーゲームがあって、家庭用ゲームでは「MOTHER[14]」があって、それらをフォローするような形で「UNDERTALE[15]」がインディーゲームで出てきました。これらは、セーブをゲームとしてどう取り込んで表現するかみたいなところまで踏み込んだようなゲームだと思っていて。

美少女ゲームでいえばニトロプラス[16]さんが少し前に出した、「君と彼女と彼女の恋。[17]」っていうゲームがありまして、これ以上話すと思いっきりネタバレになってしまうのであんまり言えないゲームなんですけど……。これもゲーム側がプレイヤーの方に介入してくるゲームでした。

同時多発的に、海外の方で「Doki Doki Literature Club![18]」っていうゲームがあって、このゲームも「君と彼女と彼女の恋。」に少し似ていたりして。

昔はこうしたゲームがあったらプレイヤー側に引かれてしまう部分もあったのかなと思うんですけれども、割とインディーのゲームがいろいろ出てきたこともあって、プレイヤー側にも受け入れる土壌が出てきたのかなとは感じていますね。

児玉:個人的にはSNSの発展で、ユーザーが体験したアクシデントという風に共有しやすくなったことが一因なのかと考えています。「Doki Doki Literature Club!」や「君と彼女と彼女の恋。」もそうですが、やっぱりアクシデント的なスクリーンショットってすごく盛り上がるんですよね。ショッキングですよ、【作品ネタバレにつき伏字】されるシーンをSNSでシェアされたら。

非常に体験を発信しやすい状況が出来上がって、物語よりも、結局は自分が何を受容したか、あるいはどう変化したかみたいなところが重要視されているのかなと感じています。

4.2 近年の美少女ゲーム:物語の終わりと快楽化の進行

佃:深沢さんが先ほどおっしゃった「ゲームシステムがプレイヤーに介入するインディーゲーム」は僕の中では良い成長を遂げていったと思います。この流れで話すと反対の悪いものであると断定してしまいそうになるんですけれど、今の美少女ゲームの中で「こうなっちゃうんだ」って思った出来事があります。この場で口にするのには抵抗がありますが、性欲の処理を主な目的としている抜きゲーと呼ばれるジャンルのゲームがありますよね。

ある時期から、そういったゲームの中であらかじめ、コンフィグ画面かあるいはエクストラ画面で、全てのシーンをゲームの進行に関係なく開放できる機能[19]が出てきたときに、「これは、この美少女ゲームというシステムの中で語られる物語というものが終わってしまったってことなのか?」と強く感じて。

しかもその機能が、他の美少女ゲームで段階的に導入されていったことも含めて、僕はそこに一つの物語の終わりを強く感じたんですけど。

深沢:うん。

佃:現在の一般的な美少女ゲームが、共通ルート終盤に確定につながる選択肢を選ぶだけというものが出てきてしまった状況を深沢さんが単純にどう思っているのかっていうところと、例えば、いまその状況で深沢さんがゲームを作るとしたらどうしますかっていうことをお伺いしたくて。

深沢:うーん。選択肢がないゲームっていうのは本当に、ゲームをプレイしていても最初の一時間ぐらいは全然選択肢が出てこないんですよね。やっと選択肢が出てきたと思ったら、全然物語に介入しないような選択肢で、「これは何なんだろう?」みたいなふうに思っていた部分もありました。

システムに関して言うと、これはおもてなしと言っていいのかはよくわからないんですけれども、自分の作るゲームで一度見た選択肢は飛ばせるようにするみたいな、いわゆる既読スキップをつけるかどうかは結構悩んだ部分もあって。

これの難しいところは、商品として販売するときにはどうしてもユーザーから言われてしまう部分が結構あるんで、ユーザーフレンドリーをどこまで考えた方がいいのかみたいなところで、表現する自分と「これをやらなきゃ。いまはどこの会社もそういうシステムやってるんだから、うちが実装しないわけにはいかないぞ」みたいなところで結構せめぎ合いがあるんじゃないかなとも思いますし、実際に考えた部分でもあります。


児玉:近年台頭しているソーシャルゲームだったり、僕が最近プレイしているゲームでも思うことなんですが、そもそもホスピタリティが高くて長く遊んでいけることは前提にありつつも、余計なものは全部省けるものが多いですよね。いわゆる周回作業を単純化してしまうようなものであったりだとか、ストーリーを読みたくない人は飛ばして次へいけちゃう、みたいな。

深沢:そうですねえ。正確な時期はわからないんですけど2010年頃から、いわゆる美少女ゲームも、これはもはやゲームなのかどうかよくわからない作品が増えてしまって。自分もそうしたゲームをプレイした時に「これは一体どこに行ってしまうんだろう?」と思ったのは正直なところですね。

児玉:最近の傾向として、単純化・簡略化・ストレスフリーみたいなものがありますよね。プレイヤーが介入する余地のない漫画やアニメ作品などに関しても、直接的な快楽を提供することに秀でた作品が増えたように思います。

佃:創作者のシステムや狙い、テーマやコンセプトよりも、単純にユーザーの欲望を叶えることが第一になってしまったがゆえに、僕らが憧れていたストーリーとか、システムへプレイヤーが能動的に参加する、フィクションに能動的に参加することによって得られる独特の快楽みたいなものが失われていったのが、現在の美少女ゲーム業界なのかなと僕は考えています。

[13]ききやまが開発した、RPGツクール2003製のフリーゲーム。2004年に最初のバージョンが
発表され、その独自性から注目を集めた。プレイヤーは主人公の少女を操作して「夢の中」を
歩き回る。

[14]任天堂が1989年に発売した、ファミリーコンピュータ用のRPGゲーム。コピーライターの
糸井重里がゲームデザインを手掛けた。

[15]ゲームクリエイターのToby Foxが開発したRPGゲーム。個人製作で開発された
インディーゲームとして2015年に発売され、世界中で高い評価を受けた。

[16]日本のゲームメーカー。美少女ゲームを始めとして、アニメや映像作品も手がける。
所属シナリオライターに虚淵玄、鋼屋ジン、下倉バイオなど。

[17]株式会社ニトロプラスから発売された美少女ゲーム。

[18]チーム・サルバトによって2017年に発売されたゲーム。日本の美少女ゲームの影響を強く
受けており、世界中で高く評価されている。

[19]美少女ゲームプレイヤーの中には有志がアップロードするセーブデータをパッチのように当ててゲーム内
イベントを解放する者も存在する。

5.インターネットは最適化しすぎた?

佃:ゲームの話題から間口を少し広げさせていただければと思います。

ユーザーの欲望が社会のシステムやコンセプト、意義や意味のようなものを超越してしまうということが、ゲームに限らずありとあらゆるコンテンツ、あるいは政治的な発言でも起きるようになっていると僕は考えていて。特にその現象はインターネットで顕著にみられると思うんですけれども、現代のインターネット周辺の状況に対して、深沢さんは今どのように考えていますか。

深沢:インターネットには特徴的で大きな流れがあると思っていて。1995年にWindows95[19]が出たあたりから、インターネットを多くの人が使うようになってきて、2000年頃になるとどの家庭にもほぼ1台パソコンがありますよみたいな時代になって、その後スマホがでてきて2010年頃からはみんなSNSを見るようになってきたっていう。

インターネットが登場した最初の頃は、インターネットを使うことそのものが楽しくて、実験的な手法も含めてどんどんいろんな表現が出てきていました。現在はそれを使うのが当たり前になってきて、情報を得るにしても最適化されてしまうというか。SNSやGoogleの検索が特徴的だと思いますが、ある人が特定のワードを検索して特定の情報を得ようとしたときに、システム側はその人にとって心地よい情報だけを与えるようになってきているのかなと。

児玉:とはいえ嫌ですよね、近くのラーメン屋を調べたのにGoogleがそば屋ばっかり勧めてきたら。そういう意味で言えば、コンテンツ全般がある種Google検索化しているみたいな。

深沢:そうですね、その人にとって心地良いものはいくらでも出せるようになっているし、それを受け取るのが当たり前になっているような部分もあるのかなとは思います。

児玉:二極化してるのかなとは感じますね。「Doki Doki literature club」や「君と彼女と彼女の恋。」のような作品が受け入れられる流れもまだ存在していて、一方ではラーメンを注文したのに全然関係ないものが出てきたら怒るみたいな、最適化されてしかるべきだみたいな流れも強くなっている。

深沢:その話でいうと、僕はSNSのブロック機能をあまり使わないんですよ。インターネット上であるアカウントをブロックしちゃったら、もうそれはその人の存在を自分の目の前からなくしちゃってるんで、ある意味殺しちゃってるのと同じかもしれないなと思う部分もあるし。

児玉:ただSNSもツールとしての側面が強くなりましたから、ツールが自分にとって適切な挙動をした方がいいと考えるのも、ある考え方にとっては自然なことのように感じますね。

[20]マイクロソフトが1995年に発売したOS。インターネットの幅広い層への普及を推進した。

6.最適化から離れて

佃:演劇は最適化からはかなり離れたところにあると思うんですよ。演劇には基本的にわかりやすい快楽はなくて、作品を観るためには劇場に直接行かなければいけないし、決して良い椅子ではない椅子に長期間拘束されることもあるし、作品が面白いかどうかも上演前にはレビューが集まっていないからわからない。極端にアナログな文化である演劇を、深沢さんはどのように捉えていますか。

深沢:もうこれは完全に面白がっています、僕は(笑)。

児玉:「君と彼女と彼女の恋。」や「UNDERTALE」といった、ユーザーが能動的に作品に関与するようなものが好まれる空間は確実に存在していて、我々はそちらを好む人たちだと思うんです。ただ一方で最適化の流れも存在していて、我々は逆行しているのかもしれないと思うと、少し切ないですね。

佃:ある程度は売れる商品を作らないと活動を継続していけない側面もあるとは思うんですけどね。一方で現代演劇のような、商業に対するオルタナティブな活動や環境をどのように守っていけるのかは今後の課題になると思っていて。

その中でまつもと市民芸術館の劇団から派生したTCアルプがここまで精力的に活動して、公共劇場での巡業にもちょこちょこ顔を出してるっていうのは、一つの答えに近づいているんじゃないかと思っていて。一つの地域の劇団が、現代演劇的な文脈で上演を続けていくっていうのは面白いですよね。

深沢:そこはやっぱり、演出家の串田さんの存在が大きいかなとは思っていて。串田さんはもともと小劇場出身で、地下に50~60人入ればパンパンだっていうところから小劇場を始めていって、そこから松本に入ってきたという大きな流れがあって。聞いた話だとある時から「これからは地方だ」と長野に来たらしいですね。

僕が去年感じたのはコロナのことがあったときに、東京の劇場がうまくいかなくても地方なら何とかやっていけるっていうか、実際に公演をしていけるっていうのがあったんですよね。

大きなところではない、小さなところでできる表現をやっていけるっていう点では、地方の方が有利な部分があるのかなみたいな。昨年は単純に地方の方が感染者数が少なかったっていうのもあるとは思うんですけれども、こういう状況になったときに自分たちのやりたいことをやっていこうと思ったときには、有利な部分があったのかなとは感じました。

佃:ありがとうございます。その話でいうと、昨年のかまどキッチンの公演「人人人人人←波打って流れる川っぽい/人人人人人←根を張って聳える杉っぽい」も、マグカルシアター2020という企画の中で、神奈川県の公共施設をお借りしてやらせていただくことになっていたんですね。

ただ公演の実施タイミングが2020年の11月で、日本全体で感染者が再び増え始めた第三波なのではないかという時期だったこともあり、僕たちの公演でもし感染者を出してしまったらマグカルシアターという企画の今後にもダメージを与えてしまうのではないか。という風に文化が集う場所であることも考慮して企画を中止したところがあります。そういった意味では地方の自立していて自分たちのテンポで動くことのできる団体の方が、現在の情勢では活動を継続しやすいのかなと思いました。

児玉:ゲームのシステムについてずっと考えられてきた深沢さんが、演劇の場所性や文化の差異みたいなところも含めて、いま演劇に取り組んでらっしゃるっていうのが、すごく面白かったです。

深沢:僕も演劇をやってるときにまさか、ゲームのしかも結構エッジな話をするとは思わなかった。

佃:この度はありがとうございました。

プレビュートークは以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。ゲストの深沢さんが「海2」の作中作について架空のゲーム批評を行った寄稿文はこちらからお読みいただけます!

関連する演劇公演「海2」の詳細はこちらから。
今後ともかまどキッチンを何卒よろしくお願いいたします。

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