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【小説ぺろ太郎】第2話:部屋の乱れは心の乱れ

おばぁの家は町のはずれにあった。
庭には草がなんの抑圧もなく欲望のままに生え育っている。
年季の入った木造の家は、玄関に蜘蛛の巣がかかっている。

おばぁは玄関のカギをあけると、ぺろ太郎を中へ招待した。
「おじゃまするでやんす」
ぺろ太郎がおばぁに続いて家の中に入る。

リビングには読み終わった雑誌が10冊ほど乱雑に積まれ、床はほこりがたまっていた。

「ぺろ太郎ちゃん、あたしゃ昔はきれい好きで掃除も毎日してたのよ。
でもね、この年になると、体の節々が痛くなって、気力も失せちゃって、なかなかきれいにできないの。部屋の乱れは心の乱れっていうでしょ?こんな散らかった家に住んでると、気持ちが落ち着かなくて。ぺろ太郎ちゃんにきれいにしてほしいんだけど、いいかしら?」
おばぁがぺろ太郎に顔をよせて言った。

先ほどみそ汁ぶっかけごはんをもらったことと、ここまでついてきてしまったこと、近づいた顔の迫力から、ぺろ太郎に断るという選択の余地は残されていなかった。

「やるでやんす」
ぺろ太郎は雑誌をまとめて、ひもで縛り始めた。掃除機で床の埃を吸い取り、雑巾掛けをした。寝室の布団を干し、寝室の散らかった鼻をかんだティッシュをゴミ箱に捨て、掃除機をかけた。掃除機をかけながら、その掃除機がパイソンの高性能掃除機であることに気づき、驚いた。
庭に出て、草むしりもした。どうやらおばぁが言うには、草むしりをする猫やうさぎがちまたでは人気で、若い女の子たちを中心にちやほやされているらしい。
みみずが出てきて、気持ち悪かったが、おばぁに「おなじ生き物。土いじりしていると、みみずもかわいく思えてくるのよ。」と言われ、そんなものかなと思いながら、黙々と作業を続けた。

「今日はこのへんでいいわ。ありがとう。お団子があるから、手を洗って食べてお行き」とおばぁがお盆に団子とお茶を載せて持ってきた。
ぺろ太郎は手を洗い、おばぁのもとに戻った。

「はい、今日のバイト代。」
封筒にお金が入っている。みそ汁ぶっかけごはんが報酬だと思っていたぺろ太郎は思わぬ臨時収入に心躍った。

団子はあんこが載っていておいしい。

「おなかがすいているときに食べるごはんはうまいだろ。
がんばって働いたあとに食べるごはんはもっとうまいだろ。」
おばぁは笑顔でそう言った。

ぺろ太郎はその後おばぁの家でお風呂に入らせてもらい、公園へ帰った。


つづく

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