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暴虐と虐殺の世界史

『暴虐と虐殺の世界史』 村山秀太郎 (2024年1月刊) 二見書房

本書、今年読んだ歴史関連の書物の中で、抜群の面白さだった。
副題には「人類を恐怖と絶望の底に突き落とした英傑ワーストイレブン」とあり、歴史上、人類を狂気の時代に貶めた11人が、サッカーの4-3-3システムになぞって、紹介されていた。

フォーワードには、ヨシフ・スターリン、毛沢東、アドルフ・ヒトラー。
ミッドフィルダーは、ポル・ポト、フランクリン・ローズベルト、カーティス・ルメイ。
ディフェンダーは胡適、ジャン・カルヴァン、クリストファー・コロンンブス、フランツ・フォン・パーペン
そして、ゴールキーパーはジャン=ジャック・ルソー。
コーチにカール・マルクス。監督はチャールズ・ダーウィンとなっていた。

まず、衝撃の事実として、単純に死者の数でいえば、戦争よりも多くの人命を奪ってきたものがあるということだ。

そして、それは疫病でも、自然災害でもなかった。

戦争よりもたくさんの命を奪ってきたもの、それは「革命」であり、軍が他国民を殺害した数よりも、革命家が自国民を「反革命」罪で殺害した数の方が人類史上、多数ということであった。

そして、その戦争や革命という名の虐殺と略奪に大義を与えたのが、思想、および宗教であり、本書ではその狂気のメカニズムとそれを生み出した思想家たちを列挙していた。

なかでも印象に残ったのが、ジャン=ジャック・ルソー。
マルクスやダーウィンの思想、理論がスターリンやヒトラーに深く影響を与えたことは知っていたが、ルソーの思想がこれほど、現代に至るまで、悲劇の源となっていたことに驚き、なぜ、また自分が今までルソーを嫌悪していたのかに、改めて納得もした。

ルソーは1762年に発表した「社会契約論」の中で、人民主権を説き、「民主主義」と「平等」の概念を世間に広めたと言われている。

自分は、現代の社会で至上の価値とみなされているこの「民主主義」と「平等」の概念をそれほど絶対視することが出来なかった為、行き過ぎた「民主主義」や「平等」の概念が多くの虐殺を生み出した原動力となったことを知り、非常に腑に落ちた。

また、本書で述べられてはいなかったが、ルソー、5人の自分の子どもを孤児院へと捨て去った人非人、人でなしであり、街の娘たちの前で下半身露出をして女性の連れの男性に捕まったこともある変態でもあった。

こういったろくでもない男の唱えた思想や理論に踊らされ、フランス革命が起こり、数々の悲劇が生み出されたというのだから、やるせない。

本書、他にも、ヨーロッパ人が奴隷制度や植民地主義正当化するために編み出した「ハム仮説」やアメリカを生み出したピューリタンの思想からアメリカ精神史の背景も紹介されており、有益だった。

以下、目次となるが、多くの人が歴史に学び、暴虐と虐殺の愚行を繰り返さぬことを願ってやまない。

目次

プロローグ 人類を狂気の時代へ貶めた11人
第1講 宗教と科学、そして思想の変異
第2講 設計主義
第3講 主権論争
第4講 思想のグランドデザイン
第5講 地上における「神の代理人」
第6講 「ハム仮説」というフィクションと悲劇
第7講 「神の国」アメリカの大義
第8講 イスラエルとウクライナ―ふたつの戦争と「死の商人」

「地のヒトの道はそのヒトに属していない。自分の歩みを導くことさえ、歩んでいるそのヒトに属していない」 (エレミヤ書10章23節)

旧約聖書






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