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「ミスターQ 」と1997年ソウル、そして香港

 一昔前に韓国ドラマにはまったという人の中で結構多かったのが、元は香港映画や中国映画のファンだったというケース。私も同様で、1999年にスカパー!の香港系のチャンネルで放送されていた韓国ドラマ「ミスターQ 」を見て、「韓国ドラマって面白い!」と思ったのがきっかけでした。主役カップルが美男美女で、特にヒロイン役のキム・ヒソンの美貌にびっくりし「綺麗だし可愛い、可愛いし綺麗〜」と友人に話したのを覚えています。

 物語の舞台は下着メーカー・ララファッション。やる気満々の新入社員のイ・ガント(キム・ミンジョン)が配属されたのは、リストラ対象の社員を集めた開発課だった。会社を我が物にしようと目論む専務を出し抜こうと、開発課の社員たちは一致団結して奮闘する。そこに、ガントとデザイン室の社員ヘウォン(キム・ヒソン)、専務の娘でヘウォンの上司ジュリ(ソン・ユナ)が繰り広げる三角関係が絡み……。

 ざっとこんな内容で、後に“韓国版「ショムニ」”と紹介されたりもしたドラマは、韓国のオフィスの様子やそこで繰り広げられる恋模様が楽しく、最初は長いと思った18話もあっという間。今となっては記憶が曖昧な部分も多いですが、女性のメイクが結構濃くて、特にどす黒いと言っても良さそうなワインカラーの口紅が印象的でした。不況になると女性のメイクが濃くなる、という話を聞いたことがあります。実際、韓国では1998年5月〜7月に放送されたこのドラマが作られた背景には、前代未聞の大不況がありました。韓国が深刻な経済危機に見舞われて97年秋以降、落ち込んだ社会を元気づけようと作られたのが「ミスターQ 」だったのです。

1000ウォン札

 そのことを知って、1997年12月に初めてソウルに行った時のことを思い出しました。当時韓国では、IMF(国際通貨基金)から資金援助を受けるまでに陥った状況を受けて、そのまま「IMF」という言葉が大流行。街中では至る所にこの文字が踊っていたように思います。食堂で見かけた「IMF定食」の中身は不明ですが、化粧品店で「IMFパック」なるもの(塗って洗い流すタイプ)を買って帰りました。

 ただ、世界情勢に特別敏感だったわけでもない私と友人は、「自販機のカップコーヒーが300ウォンは安い!」などと驚きながら(今も値段がそう変わっていないのがびっくり)、普通に2泊3日の観光旅行を楽しんだのでした。東大門で入った喫茶店でテーブルごとに電話が置かれているのが不思議でしたが、その後ドラマで昔はその電話を使って男女の出会いが演出されていた、ということを知りました。今ではもう見ない風景かと思います。そういえば、喫茶店を出たところで、おじさんがなぜか道ゆく人に「持ってけ」といった感じで1000ウォンを配って歩いていて、私もその勢いについ受け取ってしまいました。なんとなく記念として今も取ってあります。

1000ウォン札裏

 ところで、香港が中国に返還されたのが1997年7月。香港が大好きで80年代後半から散々通いつめたのですが、返還後に訪れたのは数えるほど。韓流ブームにより仕事でも韓国に行くようになって、いつしか渡韓回数がすっかり上回るように。最後に香港に行ったのは2012年。「本当にこの街が好きだったなぁ」と、昔の恋を思うような気持ちで独り街を歩きました。とにかく97年は、今振り返るとある意味大きな節目の年になったのかもしれません。


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