「同級生」だった季節

久方ぶりに「同級生」を読み返した。
私が今までに出会ったあらゆる漫画のなかで、一番大好きな作品だ。
いわゆるBL漫画なのだけど、私はこれはむしろ青春漫画とでも言うべきではないかと思う。
二人の男子高校生の、長いようで短い、甘酸っぱい青春の一ページ。一番最初の本は2008年発行で、もう9年も前なんだけど、そうとは思えないくらいみずみずしい、若葉のようなきらきらが詰まっている。

草壁光と、佐条利人。名前に光を宿すふたり――リヒトはドイツ語で光だ――は、名前の通り光に包まれている、と思う。いや、青春真っ只中の高校生なんて、きっとみんな光に包まれているんだろう。それでも、それ以上に、きらきらなのだ。いっぱい悩む。衝突もする。どうしたらいいかわからなくなって、意図せず相手を傷つけてしまったりもする。時には、暗い夜の淵に沈むときもある。そういうの全部含めて、美しくて、きらきらしてる。

中村明日美子先生の絵は、とても艶っぽい。唯一無二というか、独特で、色っぽくて、良い意味で癖がある。最初こそ、あまり触れたことのない絵柄にちょっと怯んでしまった。でも一度、この世界で生きている彼らを見たら、もう、全部引き込まれてしまっていた。
最初はどこか冷たさを感じていたのに、びっくりするくらい熱があって、生きていた。ただの絵じゃなかった。生身の人間の熱が、確かに紙の上にあった。

加えて、言葉だ。明日美子先生の他の作品を未だ触れられていないので、「同級生」のなかのことしかわからないけど、この世界で生きる彼らの言葉は、凄くみずみずしくて、今この世界で生きてる生身の高校生の言葉をそのまま冷凍保存したみたいな、そんな感じなのだ。なんていうか、仰々しくなくて、繕ってなくて、ああ、高校生ってこんな感じだ、って思う響き。
あえて格式張った言葉を使う感じの、仰々しい言葉を駆使した漫画も好きだ。むしろ私はそっちのほうが好きだったりする。
でも、この作品では、そんな繕いすぎて無い等身大な言葉の色が、明日美子先生の艶っぽくも生命力に溢れた絵に相まって、萌ゆる若葉のように命を燃やしているのだ。それが最高に、美しい。

だから
言いきかせてるんだ
大丈夫大丈夫って 自分に
…だから お前に
大丈夫って聞かれて 大丈夫ってこたえるのは
すごく……いいんだ 僕は

どこを引用しようかとずっと考えたのだけど、あえてここを。
そのとき色々抱えていた佐条に対して、つい「大丈夫?」と何度か聞いてしまったことを恥じた草壁に、佐条はこう言う。
ああ、わかるなあと思った。よく、「大丈夫?」って聞いたらいけない、「大丈夫」って答えてしまうから。ということを言われる。でも私は、大丈夫じゃないかもしれなくても、「大丈夫」って答えるのは、そんなに悪いことじゃない気がする。「大丈夫」って言うことで、本当に大丈夫になれることもあるんじゃないかって。
この台詞に触れたとき、今まで何となく考えていたぼんやりとした思いにようやく輪郭ができて、心の奥ですとんと落ちたような気がした。

そういう、すとんと落ちてくるような言葉にたくさん出会えたのもこの作品だった。
もう一個、大好きな台詞を紹介する。

だって俺 お前のこと好きになっちゃったみたいなかんじなんだもん

詳細を語るのは無粋だと思うので省くけれど、「好きになった」でもなく、「好きになっちゃった」でもなく。「好きになっちゃったみたいなかんじ」なのが、もう、最高に愛おしい。
実際には焦ってしまったが故の言葉なんだろうけど、恋に落ちるということをあまりにも的確に一言で表現している、と唸ってしまった。

ここまで長々と好きなところを語ってみたけれど、明日美子先生が語るこの作品のテーマが、きっと全てを表している。

「まじめにゆっくり 恋をしよう」

恥ずかしくなるくらいピュアで、もどかしいくらいゆっくりで、眩しいくらいきらきらの恋が、「同級生」には詰まっている。
男子高校生の青春真っ只中に浸りたい方は、ぜひ。

勢いで思いつくままに書いてしまったので、いつか、もっと魅力が伝わるようにリベンジする。つもりだ。

#コラム #エッセイ

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