幸せを買ってきた

今月から学期が改まり、月曜日は全休日になった。すべて空きコマ。最高だ。昨日は模試に苦しめられたから、ゆっくり眠れたのが嬉しい。ただ、眠りすぎて起きる頃には逆に疲れが溜まっていた。寝疲れというやつだろうか。
今の状況を思えば、おちおち寝ている暇もないのだけど。それでもだらけてしまう私はテレビをぼんやりと見ながら、今日一番の用事を思い出し、11時がすぎる頃に本屋に向かった。
目当ての雑誌はやや無造作に平積みされていた。表紙に映る姿を見て、思わずにやけてしまう。
大好きなアイドルが、ある季刊誌で大々的に特集される。そういう情報を耳にして、私はこの日を今か今かと待っていた。

今日は雨が降っていた。
何が何でも濡らすわけにはいかない。
私は袋に入った雑誌を抱きかかえ、わずかばかりでも舞い込んでくる雨粒に眉間の皺を寄せながら、なんとか家路についた。

家につくなりいそいそと雑誌を取り出す。表紙で柔らかに微笑むイケメンと目が合い、にやける。雑誌を開く。またまた男前が現れる。やっぱりにやける。繰り返し。傍から見るとだいぶ気持ち悪いやつだ。オタクとはそういうものだから仕方ない。
クリスマスデートというテーマで撮られた写真はどれも夢のように素敵だった。クールに着こなしたスーツ姿。おうちでゆったりと過ごすニット姿。全部がかっこよくて、かわいい。
私は彼の紡ぐ言葉がとりわけ好きなのだけど、それもきちんと享受できた。オタク心を驚くほど理解している編集者の方々におひねりを渡したいレベルだ。



アイドルは私に、幸せをくれる。
ほんのひとときの夢に過ぎないのかもしれない。だけれど、その瞬間――例えばアイドルがテレビに出たときだとか、コンサートを見るときだとか、今日のように雑誌を見るときだとか――確かにその瞬間、私は彼、彼らから幸せをもらう。しかもその幸せは一瞬で消えるものじゃない。定期的に思い出を開けば、たちまちそれは蘇ってくる。それを泡沫の夢にすぎないと言う人はいるのだろうが、それでも別にいいのだ。

アイドルもいつかは、誰かのものになる。クリスマスデートを、きっとどこかの素敵な方と過ごしている。そう思うとちょっとだけしょっぱい気分にもなるが、それでもいいや、君が幸せならば。なんて思えるようになったくらいには、私は何より彼の幸せを願っている。だって彼はうんと素敵な人なのだ。努力家で、いつだってファンのことを思ってくれている、最高のアイドルなのだ。きっとたくさん苦労もしただろう。そんな彼が幸せにならなくて、誰が幸せになるべきだというのか。実際のところ、誰か特定の人と結ばれることが彼の幸せなのかは私にはわからないし、わかり得る領域にいないけど、もしそうだというなら、その選択をしてほしい。彼が一番幸せだと思う道を選んでほしい。それがファンである私の幸せにもなるから。
……なんて、大層なことを言っておいてなんだけど、多分その報せをいつか聞いたら、私は3日くらいはショックで寝込んでしまうのだろう。何度もいうが、オタクなんてそういうものなのだ。
そうしてなんとか立ち直った後で、おめでとう、どうか幸せに、なんて言えたら、いいな。

そのためには、私も私で幸せにならなくちゃいけない。
今は彼らから幸せをもらっているけれど、いつかは、ちゃんと自分で掴まなくちゃいけない。私の場合、それは必ずしも結婚をして家庭をつくることだとは思わないけど。

幸せは買ったり、もらったりするだけじゃなくて、時には自分でつくることも大切なのだろうから。

でも今だけはまだ、君から幸せを買わせてほしい。
20も年上だとは思えないほどに可愛らしい笑顔に癒されて、私はなんとか生きているから。

集めに集めた雑誌の切り抜きを綴ったファイルの横に、新たな幸せを並べて置いた。

#エッセイ #アイドル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?