高等学校「漢文」、連体詞など

高等学校国語科の「漢文」分野は、漢文の基本的な読み方を学ぶ「訓読法」、漢文の典型的な句法・形式を学ぶ「句形」、そして漢字や漢語の意味を学ぶ「語彙」の3分野に大別することができますが、今回は「語彙」分野の大詰めともいえる、連体詞や接続詞などの慣用表現について少しばかり解説していきたいと思います。

① 所謂(いわゆる)

これは現代語でも使われている通り、「世にいう」という意味です。「所謂」は当て字で、元々「いうところ」の漢字にあてられていましたが、「いうところ」と「いわゆる」は意味が同じだということで、いつの間にか転じたそうです。

② 以為(おも-ヘラク)

こちらは現代中国語に残る表現で、たとえば「我以為○○」だと、「○○だと思った」という意味になります。「以って」に、能動的な思考動作を意味する「為」が合わさった形だと考えれば分かりやすいでしょう。

例  文:左右以為広名将也。
書き下し:左右以為(おも)へらく広は名将なりと。
現代語訳:そばに控えている家来は李広を名将だと思った。

③ 聞道(き-クナラク)

これは解説不要でしょう。何のひねりもなく、「聞くことによると」という意味です。

例  文:聞道漢家天子使。
書き下し:聞道(き)くならく漢家天子の使ひなりと
現代語訳:聞くところによれば漢の天子の使いであるということだ。

④ 於是(ここニおいテ)

漢字の「是」に「これ」の意味があると知っていれば、「これにおいて」、「こうして」という意味だとわかります。東京都府中市の「是政」は、「これまさ」と読む難読地名として有名ですよね。が、読みでは原義を優先し、「ここにおいて」と読むことに注意が必要です。

例  文:於是王就車。
書き下し:是(ここ)に於いて王車に就きて去る。
現代語訳:こうして王は馬車に乗って出発した。

⑤ 以是(こレヲもつテ)

上の「於是」の「おいて」が、「もって」に変わっただけの形です。訳は「このことによって」。こちらの「是」は場所を表すことが文脈上ありえないため、「これをもって」と読みます。

⑥ 是以(ここヲもつテ、こノゆえ二)

文頭で使う表現で、「是」は前に述べられた内容を指します。⑤の「以是」の語順が入れ替わった形ですが、そちらは「このことによって」と訳すのに対し、この「是以」は「それゆえ」と訳します。例文を見てみましょう。

例  文:然子之意、自以為足。我是以求去也。
書き下し:然れども子の意、自ら以て足れりと為す。我是(ここ)を以て去らんことを求むるなり。
現代語訳:それなのにあなたは、自分でそれでいいと満足している。私はそれであなたのもとを去りたいのです。

「それで」という表現を使うことで、より原因を強調したニュアンスになっていることがお分かりいただけると思います。語順を入れ替える(倒置を起こす)ことで意味を強調できる効果は現代語にも継承されており、感覚的に理解できるでしょう。

⑦ 庶幾(こひねがハクハ、ちかシ)

これは初見の方も多いでしょう。通常は「こひねがハクハ」と読み、「どうか~してください」という訳をします。「庶」という字は下衆を表すことが多く、「こひ(乞ひ)」という読みも納得です。

例  文:王庶幾改之。
書き下し:王庶幾(こひねが)はくは之を改めよ。 
現代語訳:王様どうかこれを改めてください。

また、「ちかシ」という読みもあるそうです。同じく「庶」を「ちかい」と読むのも納得はできますが、参考書曰く、あまり重要でない読み方のようです。

⑧ 何為(なんすレゾ、なんすル)

「為」の意味は②と同じで、能動的な思考動作を意味します。それに「何」が合わさり、「どうして~か」、または「どういう~か」と訳します。

例  文:何為不去也。
書き下し:何為(なんす)れぞ去らざるや。
現代語訳:どうして立ち去らないのか。

⑨ 為人(ひとトなり)

「人柄」という意味で、現代語にも「人となり」という表現が残っています。

⑩ 所以(ゆえん)

こちらも現代語に残っている表現で、解説不要でしょう。文脈に合わせて「理由」、「手段」などと訳を変える必要があるため、前後の文脈がとれていないと正確な訳は厳しいかもしれませんが。




以上10個になります。専門外の内容でしたので、少し内容の薄い記事だったかもしれません。ご了承ください。とはいえ、漢字の意味だけでも把握しておくと、何となく文を訳したり意味を掴んだりすることができますよね。

以下余談。今回難解な漢字の読みを扱いましたが、現代語では「所謂」や「即ち」、「是非」など余計な漢字表記には注意が必要で、公用文などの正式書類では厳密に用法が区別されています。たとえば、漢字の「下さい」は物などを乞う、すなわち「give」の用法しかなく、「○○してクダさい」など丁寧語で使う場合はひらがなで表記する必要がある、など。読みにくい文章、とりわけ漢字の密度が高すぎる文章は、読み手に不快感を与えてしまいます。みなさんも気をつけましょう。

公用文の書き方について詳しくは、こちらをご覧ください(文化庁のページに飛びます)。

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