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サミュエル・ピープスの日記を読む

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革命と動乱のイングランド17世紀。この時代を生きたサミュエル・ピープスが10年にわたって残した「日記」は、日記文学として価値を持つ一方、「天下の奇書」としても読まれてきた。本連載…
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サミュエル・ピープスの日記(2)

サミュエル・ピープスの日記(2)

翻訳・解説:原田範行(慶應義塾大学教授)

【1660年のつづき。すでにピープスは、オランダへ国王を迎えに行く船の中。ただし、まだロンドンにいる。】

4月3日 夜遅く、就寝。朝3時頃、私の船室を激しくノックする者がいた。だいぶ苦労して私の目をさまし(とは仲間の話)、私は起き上がる。なんのことはない、郵便が来ただけのこと。だから私はまた寝た。朝、その郵便をご主人さまに渡す。

 今朝、アイシャム艦

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サミュエル・ピープスの日記を読む(0)

サミュエル・ピープスの日記を読む(0)

解説:原田範行(慶應義塾大学教授)

連載開始にあたって

 革命と動乱のイングランド17世紀。この時代に、生涯の大半をロンドンで過ごし、国会議員にして海軍大臣、王立協会総裁を務めたのが、サミュエル・ピープスである。だが、ピープスの名が一般によく知られているのは、むしろ、1660年から69年にかけての10年間に彼が綴った膨大な日記によってであろう。日記文学といえば、日本にも、例えば平安時代の『土佐

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サミュエル・ピープスの日記(1)

サミュエル・ピープスの日記(1)

翻訳・解説:原田範行(慶應義塾大学教授)

1660年
 神に祝福あれ。昨年末、私はたいへん健康に恵まれた。例の痛み*も、冷えた時以外はない。

 私はアックス・ヤードに、妻とお手伝いのジェインとともに住んでいる。他に家族はいないから、三人暮らし。

 ここ七週間、妻に生理がなかったので子どもができたかと期待したが、大晦日になって始まった。国の状況は次の通り。ランバート卿*の騒動の後、臀部議会*が

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