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ノイズベテランによる落合Soup支援のための最新作は、洗練の極み Government Alpha『Pathogens』

KKV Neighborhood #28 Disc Review - 2020.07.30
Government Alpha『Pathogens』
review by 長谷川文彦

このご時世、音楽に関わる者には受難な状況が続いている。言うまでもなく新型コロナウィルスの影響だ。一番直接的な影響のひとつはライブハウスやクラブがほぼ営業停止に追い込まれていることだろう。配信などを積極的に行っているハコもあるし、一部では7月以降に限定的に営業再開し始めているけど、以前の状態にはほど遠い。 自分はいち音楽好きに過ぎず、月に4~5回はライブハウスに行く人間というだけである。とりあえずこういう状況も我慢すればいい。しかし、ライブハウスやクラブ、プロモーター、音響や照明の人、もちろんアーティストも、直接的にそれで生活をしている人たちはそんな話では済まない。特にライブハウスやクラブは家賃等の固定費が重い。自分の生活を支える以上の資金調達が必要だ。この状況が長引けばどうなるか、想像したくない。 これは本当に深刻な状況で、要するに文化がひとつなくなるということだ。アンダーグラウンドからメジャーまで、音楽という文化は大きな総体でできていて、その土台が揺らぐと音楽という文化そのものが揺らぐということになる。

そんな状況で自分にできることは限られている。ライブハウスやクラブを支援するドネーションの取り組みや、クラウドファンディング、配信への投げ銭、物販でのなにがしかの購入など、そういった形でサポートするぐらいしかない。平時であれば月に数万円はライブハウスにお金を落としているのだから、その分ぐらいは支援しようと思って3月ぐらいからあれやこれややっている。おかげで今年の夏はライブハウスのTシャツばかり着て過ごすことになりそうだ。

そんな中で多いのが、ライブハウスを支援する目的での音源のリリースだ。売上はライブハウスへのドネーションになる。十三月のリリースした難波ベアーズへのドネーションのコンピレーション・アルバム『日本解放』やアースダムに縁のあるアーティストによる『2020, Battle Continues』など、ものすごい内容のものがいくつか出ている。 そういう取り組みを積極的にやっているのが落合のライブハウス/イヴェント・スペースSoup。 Soupに関係の深いアーティストの音源をBandcampで配信して、その売り上げをSoup存続のための資金にしている。 これも内容がさすがに濃くて「おっ!」と思うようなものが多数ある。 とは言っても、やはりドネーションということなので、内容としてはライブ音源や未発表テイクみたいなものが多い。それはそれでよいのだけど、その中でGovernment Alphaの音源が際立っている。なんとフルレングスのアルバム1枚のボリュームでの提供で、一切手加減なし。もともと非常に多作なユニットではあるけど、5月にもフランスのレーベルからもアルバムを出したばかりでこの気前の良さである。まずはこれだけですごい。

内容の方も全くの手加減なし。 基本はハーシュノイズなんだけど、音の粒が立っていて表情がとても豊か。ウォール・オブ・ノイズという感じで埋め尽くしてしまう単調な音ではなく、音に関する手管が多彩で全く飽きさせない。もちろん音圧は圧倒的で、小手先のテクニックに逃げたりせずにノイズのど真ん中をしっかりと押さえている。そして全編を貫くスピード感がすごい。リズムやリフがあるわけではない。でも音の持っているつながり方と重なり具合でスピードを感じさせるのだ。さすがベテラン。すごくいい。 ノイズというものが「病的」なもので「極めて特殊な種類の表現」と思われていた1980年代から、2000年代以降のある意味で「表現として洗練されたノイズ」へと繋がっていく流れを90年代から作っていたのがGovernment Alphaだと思っているのだけど、今をもって最前線の実力派だなぁと改めて認識した。

少し変な感じがするかも知れないけど、聴きようによってはテクノやダンス・ミュージックを聴く人たちに受け入れられる音なんじゃないかと思う。ノイズへの偏見や警戒心を少し緩めて聴いてみて欲しい。

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