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YARD ACT『THE TRENCH COAT MUSEUM』誇り高き大英帝国のひねくれ者の末裔 by 長谷川文彦

KKV Neighborhood #184 Disc Review - 2023.9.12
YARD ACT『THE TRENCH COAT MUSEUM』review by 長谷川文彦

YARD ACT / THE TRENCH COAT MUSEUM

今年のフジロックで一番観たかったのはYARD ACTだった。昨年出たファースト・アルバム「The Overload」は本当に素晴らしかった。それまで出ていたシングルもよかったけど、アルバムは桁違いでよかった。一曲目の「The Overload」の爆発力と躍動感がそのままアルバム全体を引っ張って最後まで走っていく。その中に彼らの独特の一筋縄ではいかない感じが埋め込まれているのだけど、全体通してはとってもポップ。イギリスのインディーのバンドらしいセンスが溢れていた。

フジロックの彼らの出番は3日目のお昼頃のレッドマーキー。微妙な時間だったけど、まずまずの人の集まり具合である。と、思っていたら、どんどん人が集まってきて身動きが取れないぐらいになった。それほど注目されてないかなと思っていたけど、なかなか期待感が感じられた。バンドはTHE SPECIALSの”Enjoy Yourself”に乗って登場。この出方からしてセンスがあり、やるじゃないかと思う。
演奏の方は最初はゆったり始まって、次第にギアを上げていく。それに伴ってフロアの熱の上がっていく。ライブでは音源で聴くよりずっと骨太の音である。もっとインドア系を想像していたけど、けっこうやんちゃで、悪ガキ風である。特にボーカルのキャラはそんな感じだ。
中盤ぐらいでいきなりmotorheadの”Ace Of Spades”を始める。いきなりでびっくりしたけど、この曲をやっちゃうところが少し笑ってしまう。しかし、これがけっこうサマになっていて、この曲をこなせるセンスと力強い音を持っているということがまた素晴らしいと思う。
ふてぶてしくで、ユーモアがあって、センスのある音、、、誇り高き大英帝国のひねくれ者の末裔である。THE KINKS以来の伝統ときっちりと引きついでいるバンド。そんな風に思っていなかったけど、ライブを観てますます好きになった。12月の単独来日を発表してライブは終了。

8月に新曲がリリースされた。”The Trench Coat Museum”という8分以上の長尺のダンス・ナンバー。とは言っても一筋縄ではいかないひねくれっぷりを存分に発揮している。こういう幅広い音のアプローチもとてもしっくりくるし、どんどんおもしろいことをやりそう。

12月、東京で会おう。とても楽しみにしている。


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