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NEHANN『TEC / Ending Song』生きたポストパンクを鳴らすということ

KKV Neighborhood #46 Disc Review - 2020.10.14
NEHANN『TEC / Ending Song』BLACK HOLE (BHR-028)
review by 津田結衣

国内パンクレーベル〈Black Hole〉のもと7インチ『TEC / Ending Song』をリリースした、ポストパンクバンドNEHANN。結成されたのは2019年とかなり最近で、バンドのリファレンスのひとつでもあるDIIVがZachary Cole Smithの療養を経たのちに『Deceiver』をリリースした年でもある。そして7インチのジャケットは、そのDIIV作品にデザインを提供するBharata Danuが手がけ、マスタリングは昨年の来日公演で共演したTotal ControlからMikey Youngが担当という豪華仕様。収録曲である“TEC”のMVは結成当初から共演の多いWaater、Usによるパーティー/コレクティブ〈SPEED〉が制作に携わっている。と、羅列した情報だけみても、NEHANNというバンドが短期間であらゆる人びとを虜にして巻き込んできたということがわかるだろう。その魅力は今作が端的に表している。

収録された“TEC”と“Ending Song”にはリズムや音色のアプローチが異なりつつ、どちらも「今ここで生きる選択をとること」への葛藤が描かれている。20代半ばの彼らにとって、気がついたら終末に向かっていた時代でどう生きるのかを考えるのは急務なのだ。リズミカルなドラムと、浮遊感を保ちつつも歪んだ3本のギターが体を揺さぶる“TEC”は、「Don’t sleep on the volcano」という歌詞から始まり、燃える足元に気づかないために何かを捨ててしまった方がいいのかと問いかける。一方でB面の“Ending Song”はバンド随一の美しくメロディアスな楽曲で、リヴァーブがかったギターが見事に絡み合うなか、まだ見ぬ平和への道のりを歩む方法を手繰り寄せようとする。

「Interactive force makes me wonder / Should I keep it or just throw it away “TEC”」

「Look up the sky / turning red /still I can’t find peace / We are afraid / And we need to fight “Ending Song”」

NEHANNはポストパンクサウンドの記憶がイメージさせる厭世観を表現しようとしているのではない、ということを悟らせるにはあまりにも充分な2曲だ。東京という土地から滲み出る退廃的な景色をバックに、そこから抜け出すための旅を彼らは始めようとしている、そんなストーリーまでも脳内に浮かばせる。その旅には新しいスタイルのポストパンクが必要で、それは世界で同時多発的に起きているムーブメントが示すところでもあると言えるだろう。

カナダからCrack Cloud、METZ、ロンドンからWorking Men’s Club、Sorry、IDLES、ダブリンからFontaines D.C.やPILLOW QUEENS、とそれぞれがさまざまな要素を掛け合わせつつ、ポストパンクを主軸に置いた作品を生み出す2020年。もちろん突発的ではなくIceageやFat White Familyの登場を契機に起こったその流れにNEHANNは完全に気がついているはずだ。その上で彼らは、キュアーやバウハウスなどポストパンクのゴスな要素を軸に、DIIV、Wild Nothingsなどシューゲイズ色の強いインディロックを取り入れようと画策しているように見える。冒頭に挙げた『Deceiver』では、ジョン・ハーシーが「ヒロシマ」に書いていた日本語のワード「shikata ga nai」が歌詞に取り入れられている。そこでは神のような大きな存在に対して使われているが、それは我々にとって未だ生活レベルで散見される常套句だ。しかし、私たちの目の前にある問題は神のようにひっくり返すことができない、「しかたがない」ことなのだろうか?自国への違和感や怒りをそれぞれが打ち出すなか、NEHANNは東京で生きるものとして「生きたポストパンク」を鳴らさんとし、今後さらに試行錯誤を繰り返していくだろう。今作『TEC / Ending Song』はその序章だ。


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