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DRAHLA 『ANGELTAPE』 フィジカルで持っていたい一級品のアルバム by 長谷川文彦

KKV Neighborhood #220 Disc Review - 2024.6.18
DRAHLA 『ANGELTAPE』 review by 長谷川文彦

DRAHLA 『ANGELTAPE』

海の向こうではもうCDはあまり作られていないのだろう。輸入盤だと、たとえ新譜を事前に予約しても発売日にはなかなか入ってこない。日本でも洋楽のCDはもうそれほど売れていないだろうから、お店も確実に売れるもの以外は仕入れない。日本盤が出ないマイナーなバンドのCDを手に入れるのはもうあきらめた方がいいののだ。そんな話は今さらだろうが、フィジカルに固執する古いタイプの人間には少し寂しい話だ。
このDRAHLAというイギリスのバンドの新しいアルバムも発売前にタワレコで予約したけど、だいぶ待たされて到着した。

イギリスのポスト・パンクのバンドで、アメリカのノー・ウェイヴ→オルタナティブの影響も受けていると聞き大変心ひかれたのだけど、このDRAHLAというバンドのことは不勉強にして知らなかった。セカンドに当たる新しいアルバムを待ちながら、ファーストを聴いてみた。
悪くない。でも、すごくいいということもないような気もする。うーむ。
そんなこんなしているうちに、ようやく新しいアルバムが到着。早速聴いてみた。

これがもう本当にいい、ファーストよりずっといい。少し気の抜けたようなサックスから始まって、ん?と一瞬思うけど、すぐに曲が展開して彼らの世界が始まる。
いわゆるスタンダードなロックのフォーマットに乗っ取ったことはほとんどしていない。でも独りよがりの変なだけの音になっていない。ものすごくポップである。そこが素晴らしい。彼らが影響を公言するワイヤーがひどくシンプルな曲なのに不思議にポップであったのと似て、彼らの音もとても変わっているんだけど、変に拗れたアヴァンギャルドな方向に行かずに聴きやすい音になっている。
ファーストも基本的に同じなんだけどやや頑なで尖ったことろがあり、それに比べてセカンドはよりスケールアップして変に尖ったところを吸収してしまった。結果、いいところだけが増幅して残った、そんな印象がある。もちろんポップな感じだけだなく、スピード感もひねくれ感も最適なバランスで注入されている。アメリカの70年代のノー・ウェイヴから80年代のオルタナティブだけでなく、80年代のイギリスのニューウェイヴも飲み込んだポスト・パンクの一級品だ。ジャケットも美しい。この冷たい質感は明らかにイギリスのセンスだ。音だけでなくビジュアル面でのこだわりも上々である。
サウス・ロンドンってとてもおもしろいシーンになっているんだろうな。

しばらくは毎日聴いていた。まったく飽きない。ファーストとシングルのコンピはディスクユニオンが日本盤を出してくれていたんだけど、今回は出ていない。もっと広く聴かれて欲しいのに残念だ。待ってでもフィジカルで手に入れた甲斐はあった。気に入った作品は形で持っていたいからね。


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