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Romy / Lifetime 輝かしい時代を取り戻すためのメッセージ

KKV Neighborhood #45 JUST LISTENING - 2020.10.02
by 与田太郎

The xxのロミーのソロ・デビュー曲”Lifetime”が公開された。春から発売が噂されていたソロ・アルバムからの先行シングルで僕はこの曲を今年一番楽しみにしていた。DJとして出演が決まっていたフジロックも延期となり、このままリリースも来年になるかと思った矢先の公開だった。

サウンドも映像も、イギリス中のだれもが週末のパーティーのことしか考えてなかった90年代そのもの、ドラムのサウンド、シンセの音、蛍光に彩られた映像とロゴのスタイルまで徹底していた。今の20代から30代、ロミーやThe xxの同世代にとって90年代がいかに憧れの時代だったのかがよくわかる。それは90年代をフルに体験した僕にとっての60年代に対する思いと同じだろう。

当時の熱狂を踊り続けて過ごした僕にとっても90年代から00年代は素晴らしい時代だった。とにかく週末のパーティーと音楽だけを追いかけて過ごしたのだけど、明るい未来を疑いなく信じることができたからだ。”Lifetime”にはそういう気持ちを取り戻そうという、はっきりとしたメッセージが込められている。また、コロナでパーティーはできないけれど、この時期を乗り越えてまたみんなで踊ろうと言い切っている。これはディスクロージャーの新作からも感じられたことだし、デュア・リパはもっと振り切った気持ちを伝えてくれる。イギリスはトップのアーティストが力強いパーティー・マインドを真剣に音楽に乗せてくる。

夏にアムネスティー主催のLGBTを支援するチャリティーでのロミーのDJセットが公開されている、これを見ると彼女のパーティーやクラブ・ミュージックに対する思いがよくわかる。

彼女は1989年の生まれなのでもちろん90年代のパーティーを体験しているわけではないが、まだクラブに行けないティーンエイジャーのころからラジオで流れてくるダンス・ミュージックの熱心なリスナーだったはずだ。たぶん毎週金曜日の夜のエッセンシャル・ミックスはかかさず聴いていたのだろう。なぜならこのミックスで使われてるトラックには90年代中旬の大名曲が満載なのだ。日本でBBC RADIO 1を聴くことができなかった僕自身もMUZIK、MIX MAG、DJなどに掲載されるフェイバリットDJのエッセンシャル・ミックスのトラック・リストをかたっぱしから買っていた。今回のロミーのセットにはそれほど当時の名曲が入っている、まるでエッセンシャル・ミックスのパーソナリティーであるピート・トンの曲紹介が聴こえてくるようだ。

Ultra Nate / Free
Nalin & Kane / Beachball
Delerium / Silence
Kylie Minogue / Can’t Get Out My Head

このあたりは僕自身もプレイしまくっていた曲で(それこそつい最近もプレイした曲もある)エンディング近くにはハッピー・ハードコアまでプレイするほど90年代テイストだ。今年オンエアされたジェイミーのエッセンシャル・ミックスにも要所要所で90年代の曲が使われていたことから感じたことだけど、彼らは当時10代でクラブには行けないけれど、クラブ・ミュージックから多くのメッセージを読み取り、感じていたことは間違いない。それほど当時のシーンはポジティブだったし、たぶんパーティーやレイヴの熱気はラジオから10代にまで届いていた、それほどダンス・ミュージックがポップスとしてもリアルだったのだ。そしてその10代が音楽を作り始めた時に迷うことなくダンス・ミュージックを選び、そしてまた次にThe xxやディスクロージャーを聴いて育った10代が10年後に新しいダンス・ミュージックを作るだろう、イギリスには確実にそういう循環がある。それほどパーティーは人生に必要なものだと思う、僕もまた来年こそはフリー・パーティーをやろうと思った。

まもなくリリースになるであろうロミーのソロ・アルバムがいまから本当に楽しみだ、DJで来日してくれないだろうか?

与田太郎

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