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吉里吉里農園クラウドファンディング応援コラム vol.1 by 中村明珍

KKV Neighborhood #132 Column - 2022.06.01
吉里吉里農園支援コラム by 中村明珍

子どもと一緒に信号待ちをしているときに、こんなことを言われることがたびたびある。

「あれ、青じゃないよ、緑よ」

そういえば自分も小さい頃そう思っていた。青は進め…か?青じゃないじゃん、緑じゃん。結構そう思った人多いのではないでしょうか。なんで「緑のことを青」と言う、日本語なんだろう。

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安孫子真哉、あびちゃんと呼んでいる。たしか19歳の頃に彼が住む成増で会ってから、もう生きている半分以上を定期的に会話しながら過ごしている。それぞれベースとギター、互いのパートを考えるのが好きで演奏することも繰り返していた。腐れ縁。友達だ。

彼はずいぶん前から、音楽で大事にしていることを言葉にするときに、ほぼ必ずといっていいほど「ロマン」と口にする。もう聞き飽きたぐらいに。これがあるかないかが大事なのだ。
そして同じように「青さ」ということもよく口にしている。音楽で大事にしている、というか、バンドを離れたあともしょっちゅう言っている気がする。

彼が農業を本格的に始めたと聞いて、喜んだと同時に驚いた。驚いたと同時に焦った。僕はさんざんおもしろおかしく、楽しいと思った農の魅力を語ったけど、ちょうどいい塩梅を通り越して語りすぎたのか。巻き込んでしまったかと思った。僕は面白いと思っているけど、みんながみんなそうではないかもしれない。魅力と同時に大変さもちゃんと伝えられていないかもしれない。

そう思ったのは杞憂だった。彼はむしろ、喜んで僕よりも完全に農業一本のプロフェッショナルの道を自らずんずん進んでいった。
そして、この前ピンチだというので手伝いにいった。農の現場では「援農」という手助けの方法があるので、そのつもりで瀬戸内海から埼玉と群馬の県境まで電車で向かったら、彼の農園はめちゃくちゃ遠かった。そしてたいへん畑がデカかった。採れたてのネギを焼いて食べた。びっくりするほどおいしかった。一緒に食べたみんなそう言っていた。
後日キュウリもネギと一緒に島に送られてきたのだけど、あまりにしっかりしたもので、それを食べたらまたおいしかった。島の友達は、今まで食べたなかでお世辞抜きで一番おいしいといっていた。

***

彼は、人間が変わったのではなくて、ベース弾いているときとレーベルやっているとき、ライブハウスにいるときと同じテンションで畑にいるのが、滞在中にわかった。

吉里吉里農園を観に行ったとき、2つのことが印象に残っている。
一つは、手伝いの際に何人かで作業をしたのだけど、代表である安孫子くんは作業前の僕たちに向かって、

「えっとね、吉里吉里農園では『無理』したら、怒るから」

と宣言した。笑いながらだったので僕たちも釣られて笑った。そして実際に「休憩」も自由で、よく休んだ。逆にキリのいいところまで作業を続けようとすると、

「ハイ、そこそこー!やめる。休憩!!」

と。休憩時のおしゃべりがまた楽しかったりするのだけど、これは以前のバンドでのことを考えると真逆だと思った。一緒にやっていたころは無理して無理して、さらに無理してというような状態だったからだ。それも一つの形ではあるとしても、それを続けることはできないという反省が僕にもある。
ビニールハウス内は暑く、体力は急速に奪われていく。そんななかでも、彼のつくり出す農園での空気感が心地よかった。

もう一つは、彼の子どもたちと会った時のことだ。
休みだという2人が農園にきた。お姉ちゃんは小さいころに会っただけだったし、弟は生まれてから初めて会った。

子どもたちが、のっけから物怖じせずに、よくしゃべる。
「絵がうまいんだよ」「何の食べ物が好き?」「学校ではね」「保育園ではね」
しばらくすると、大人たちに交じってネギの出荷前の下処理を手伝い始めた。とにかく、めちゃめちゃいい子たちだったのだ。その親子の関係を横目で見ていると、お父さんである彼がよく話を聞いているんだと気づいた。親だけでなく、僕たちのような初めて会う大人にもいたって普通に話してくれる。子どもたちは畑にいるのが楽しそうだ。
会話の端々には奥さんのしゃべり方も感じられたので、奥さんがやっぱり子どもたちとよく話して、子どもたちの声を聞いてあげているんだなと思った。大人と子どもの、そういう回路が自然できていた。

それら2つの印象を通して、農園、レーベルともに彼が自分自身の、そして誰かにとっての「居場所」を作ったんだなと思った。

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植物をみたときに「青々している」とつい表現する。青々しているというけど、本当は「緑々している」ということだ。「青=緑」と表現してしまうことの由来は、植物にあるのだろうか。「青春」という言葉ももしかしてそういうこと?人間も植物も、春の勢い、新緑の勢いには勝てない。

「キュウリはよぉ、間違って切ってもじゃんじゃん生えてまた実がなってくるから」
「ここから先に花が咲くから、下から節を数えてヒモを結んで…」

農業を始めた彼の、キュウリの誘引の仕方を教える姿を初めて間近で見て、思わず笑ってしまった。

僕たち人間、年相応に年を重ねていくとしても、心だけは自由に。青々としていたいなと思う。

なんで彼がピンチに陥ったのか。スタートして早2年でここまでいくのはすごいし、でも不確定要素がこの2年間にかなりあったのだとも想像する。設備と大きさが僕よりも格段に違っている。
今回のことはシンプルに友達が困っているから助けたいという気持ち。できることを自分なりにできたらと思っている。

中村明珍
1978年東京生まれ。2013年までロックバンド銀杏BOYZのギタリスト・チン中村として活動。2013年3月末に山口県・周防大島に移住後、「中村農園」で梅などの果樹をはじめとした農業に取り組みながら、僧侶として暮らす。また、農産物の販売とライブイベントなどの企画を行う「寄り道バザール」を夫婦で運営中。2021年3月に著書「ダンス・イン・ザ・ファーム 坊主と農家と他いろいろ」(ミシマ社)を刊行。


吉里吉里農園支援クラウドファンディング・ページ
https://camp-fire.jp/projects/view/589258


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