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Beach Fossils 『Bunny』全11曲の新曲で構成されたBeach Fossilsのベストアルバム by Kent Mizushima(to'morrow music / records)

KKV Neighborhood #178 Disc Review - 2023.7.27
Beach Fossils『Bunny』review by Kent Mizushima (to'morrow records)

Beach Fossils / Bunny

2010年代に〈Captured Tracks〉からリリースされた音楽からの影響で、インディーミュージックの沼から抜け出せなくなってしまった音楽リスナーも多くいるのではないだろうか?完全に僕もその一人だ。Beach Fossils、DIIV、Wild Nothingが発明した音楽に魅了され、学生の時から彼らがBrooklynで毎年開催していたカウントダウンライヴに足を運んだりした。お陰で人生で3回もNYで年越しをしているが、未だにタイムズスクエアのカウントダウンは未体験だ。彼らの音楽のおかげで出会った友人もいるし、ハマりすぎて失ったモノまで本当に色々ある。

Beach Fossilsによる最新作『Bunny』は彼らとの出会った初期の作品から今の成熟したバンド人生を振り返るかのような作品であり、それはそのまま自分の人生を振り返っているような気分にもさせられる一枚だ。彼らの初期の作品である『What a Pleasure』や『Clush the Truth』を彷彿させる〈Captured Tracks〉が発明した音楽性を感じる一方で、前作『Somersault』のようにバンドとして勢い任せではなく成熟した作品でもある。僕たちが熱中したあのサウンドを取り戻し、そして作品は大人になっているのだ。

アルバムは90sのギターポップやネオアコといったどこか懐かしいサウンドを感じさせる2曲からスタートする。「Run to the Moon」では父親になったフロントマンであるDustin Payseurが自分嫌悪で押し潰されそうなときも、自分自身のマインドを取り戻させてくれる愛おしい娘に対しての想いを書いている。美しく鳴り響くサイケ風味でドリーミーなギターサウンドと、甘くとけるような歌声が心地良い時間を作り出す。初期からのファンにとっては、Dustin Payseurのヴォーカリストとしての成長には想いが溢れて涙が出てくる。

『Bunny』の最初のシングルとして公開された「Don't Fade Away」はBeach Fossilsらしいギターサウンドと80sなムーディーな音色が重なったまさにBeach Fossilsの新旧を完璧にミックスした楽曲だ。”寝れないから夜に曲を作ることが多い”と不眠症である事も明かしてきたDustin Payseurが”消えないでくれ”と嘆く曲。僕はある時からこの”Don't Fade Away”というフレーズは、活動初期からメンバーが入れ替わりしているバンドの中で比較的安定し、いつもInstagramのストーリーとかでも仲が良さそうな現在のメンバー、Jack Doyle Smith、Tommy Davidson、Anton Hochheimへ向けたDustin Payseurから思わず出てきた言葉に聞こえてきてグッと来てしまう。

LAの一夜を歌った「Dare Me」という曲は、個人的にBeach Fossilsの楽曲の中でも一番好きな曲だ。この曲も「Don't Fade Away」同様に初期のBeach Fossilsに通じる部分はありつつも、勢いだけではなく成熟した心地良さと少し感傷的なメロディーが一番前面に出ている曲。MVのようにダンスを誘う楽曲でもあるが、心にストレートで突き刺さる一面も持っている。憂鬱で落ち込んでいるときから死ぬほど馬鹿げたイタズラをしているときまで、楽曲からだけではなく、SNSなどでも様々な一面を見せるDustin Payseurだが、サビの歌詞から本当に優しい人であることが伝わってくる。優しい人こそ自殺したり落ち込んだりする事が多いというが、まさに彼は優しすぎるから落ち込んで曲を作れなくなったりするのだと思わされる楽曲だ。10年以上バンドが人気を得ているのは間違いなく彼の人間性が関係している。この『Bunny』という新曲揃いのベストアルバムのような作品で改めて感じる。

Beach Fossils

ここまでシングルとして公開されてきた楽曲を中心に話してきたが、アルバムには今作の一つのポイントである”サイケ”が色濃く感じ取れる「(Just Like The) Setting Sun」や「Anything Is Anything」のような楽曲からより初期の楽曲に近い「Tough Love」からBeach Fossils流のシューゲイズ「Numb」のような楽曲まで幅広く収録されており、これまでのBeach Fossilsを振り返るだけではなく、新しい一面を感じ取ることができる。完全セルフプロデュースでレコーディングなどもBrooklynにある自身のスタジオでDustin Payseurを中心に完結させたのもこのアルバムの大きな特徴だろう。最終的にはとにかくBeach Fossilsの10年間の奇跡が詰まった全曲新曲のベストアルバムという言葉が相応しい素晴らしい作品になっている。

『Bunny』というアルバムは2010年代をBeach Fossilsの音楽と共に過ごしてきた僕たちへのご褒美だ。

Beach Fossils『Bunny』
Release Date:2023.6.02
Label:Bayonet Records

Tracklist:
1.Sleeping On My Own
2.Run To The Moon
3.Don't Fade Away
4.(Just Like The) Setting Sun
5.Anything Is Anything
6.Dare Me
7.Feel So High
8.Tough Love
9.Seconds
10.Numb
11.Waterfall

Stream Album
Beach Fossils:Instagram

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