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山崎ナオコーラ「むしろ、考える家事」パンクスたるもの家事すべし

KKV Neighborhood #94 Book Review - 2021.7.30
山崎ナオコーラ「むしろ、考える家事」(KADOKAWA)
review by 小野寺伝助地下BOOKS/v/acation/ffeeco woman/haus)

NO WARを掲げ、生産性で人を図るような消費社会にはNOを突きけるーーそんなパンクスに憧れてきた私の家においても容易に戦争の要因となるどころか、私みずから生産性を追い求めてひたすら効率的にこなそうとしてきたもの。それが、家事だ。

家事がなくなれば我が家の家庭内戦争は相当減る気がするし、生活の中にゆとりが出て生産性とは無縁の人間的な暮らしができるように思う。ならばパンクスたるもの家事を放棄せよ!と言いたいところであるが、そういう訳にはいかない。料理をしなければ飯食えないし、飯を食えば洗い物がでる。服を脱げば洗濯物はたまり、洗濯をしなければ履くパンツがない。何もしなくてもホコリは溜まる。カビは生える。家事をずっと放棄したら、そのうち死ぬ。

家事代行サービスを頼んで全ての家事をやってもらおうなんて金はないし、男が社会にでて働き妻に全ての家事をやってもらおうなんて古い価値観も過去に葬り去りたい。ひたすら時短を追求したりやロジカルに家事をこなすのは、仕事の延長線みたいで疲れるし楽しくない。かといって、スローライフで丁寧な暮らしを実践しようとも三日で「無理じゃボケー!」となる。

モヤモヤした思いを抱え、時に家庭内戦争が勃発しながら、仕事と家事で日々が過ぎていく。平和で人間らしく生きるパンクスを目指すなら「家事」に対する姿勢を真剣に考えなきゃならんのでは? それは生活や生き方に関わる部分なのでは? そう感じていた矢先に「むしろ、考える家事」を読んで唸った。これはパンク的家事の指南書だと思った。

二人の子供の育児をしながら作家としてはたらく著者の山崎ナオコーラは本書の中でこう言う。

これまでの人間は、家事に革命を起こして家事から解放されようとしてきた。だが、これからの人間は、家事で革命を起こして経済の概念を変える(P.171)

時短のアイディアを紹介したり、ロジカルに家事をこなす思考法を紹介して「家事から解放」されるための指南書は数多くあれど、「家事で革命」を起こして経済の概念を変えるという壮大なビジョンのもとに記された本は他に知らない。

著者は家事を通じて現代社会の問題点を考え、家事を通じて労働の概念を捉え直し、経済の概念を変えようと試みる。そればかりか、家事を通じて平和な世の中を希求し、家事を通じて人間らしさを取り戻し、家事によってよりよい社会づくりにコミットしようと試みる。

確かに、資本主義社会でのブラックな働き方や家父長制的な古い価値観は家事の問題に直結するし、買い物という行為は消費という経済活動であり、買い物時の選択一つ一つが環境問題にもつながっていく。

著者は効率最優先で心をゼロにして家事を行うのではなく、家事をしながら考えることで、家事の価値観を転換し、自分の生活を豊かにし、社会に革命を起こせないかと思案する。大きな力でもって、巨大な何かを変革しようとするのが一般的な革命の定義だとすれば、著者の唱える革命は異質だ。家庭で、一人、小さな声で思案し、毎日の家事を通じた行動と思考を通じて、少しずつ進めていく革命。これだったら、自分にもできる気がするし、誰もが社会に参画できる。

著者は本書の最後に、読者に向かってこう投げかける。

家事は、社会作りだ。(…)遠回りのようでも、予定通りでなくても、「道」は社会へ繋がっている。一緒に社会を作りましょう(P.167)

戦争がなく、平和で、人間性を肯定し、だれもがより良い社会づくりに参画していると実感できる世界にするための家事。賛同した私はまず家庭内NO WARの状態を目指そうと思いつつ、先日は仕事の疲れから飲酒後ソファで寝落ちし全ての家事を放棄、開戦間近の状態になった。それでも家事で革命を起こす想いで日々を過ごしていたところ、この原稿の提出がすごく遅れた。革命に近道はない。試行錯誤を続ける。

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