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SOLVENT COBALT『PRIVATE GLOAM』懐古主義ではなく、2021年に鳴らすべきパンキッシュなニューウェイヴ

KKV Neighborhood #95 Disc Review - 2021.8.3
SOLVENT COBALT『PRIVATE GLOAM』(Asylum Party)
review by 長谷川文彦

SOLVENT COBALTのアルバムがリリースされた。「待望」「満を持して」という言葉が本当に相応しいアルバムだと思う。ライブを観るようになって数年経つけど、最初に観た時にすでに独自の世界と音は出来上がっていて、早くそれが音源という形になって欲しいと思い続けてきたのだ。本当に出たんだな、とっても嬉しい。

今のところアナログ盤のみのリリースで、あっという間にソールドしちゃったみたいだけど、8月の終わりぐらいに再プレスするとのこと。きっと近いうちにBandcampでデジタルのリリースもあるんじゃないかな。もっと多くの人に聴いてもらうために是非そうして欲しい。そうしたらデジタルでも買っちゃいそうだな。そのぐらい好き。

実際、期待の数段上を行く内容になっていると思う。マシーナリーなビートが醸し出すインダストリアルなテイスト、深い森の奥で木霊するように空間を覆い尽くすギター、その上に波状攻撃のようにアグレッシヴかつソリッドに暴れるギターが重なる。それに加えてビートを刻むでもなく低音を支えるでもなく自由にベースが動き回る。自分はこういう音で育ったからね、本当に好き過ぎる音。

既発のシングルやコンピレーションでの曲は自分が知っている範囲では3曲しか収録されてなく、ほとんどが新曲なのも嬉しい。今までの音源をとりあえずまとめました、みたいな内容ではない。アルバムというフォーマットで彼らの世界を余すことなく伝え切っている。

全体的に非常に攻撃的で、ある意味パンキッシュな曲が多い。最初にライブを観た時の印象は、『LOVE』の頃のCULTとか初期のECHO & THE BUNNYMENに近い感じだったのだけど、このアルバムはもっとパンキッシュ。彼らは以前FILTHY HATEというハードコアパンクのバンドをやっていて、そのルーツの部分が出ているのだと思うけど、それがちゃんと出ているのがとてもいい。根っ子がパンクでハードコアというバンドに悪いバンドはいない。

「ポストパンク」という言葉で語られるバンドが最近は多いけど、SOLVENT COBALTは少し違う場所にいると思う。例えばNEHANNみたいなバンドは、パンク以降のいろいろな音(グランジからヴィジュアル系まで幅広く)を上手く吸収して自分たちの音にしていて、それがたまたま「ポストパンク」と呼ばれているのだけど、彼らは多分「ポストパンク」な音を狙っているわけではないと思う。それに対してSOLVENT COBALTの音はもっとストレートに80年代半ばの「ニューウェイヴ」と呼ばれていた音に近い。これは懐古主義なんかではなくて、確信的に「自分たちが鳴らしたい音」としてそれを2021年に鳴らしている。その「確信」が彼らの強さであり、格好良さだと思う。

あと、ジャケットが綺麗。限りなく黒に近いんだけど、実はそうではない色合いと紙の感触。それと歌詞カードが入っていて、英詞と日本語訳が記載されているのもいい。あまり歌詞に重きを置いているバンドではないと思っていたのだけど、アルバムの世界観をトータルで捉えるためにも歌詞カードがあるというのはいい。

これは本当にアナログ盤で持っている価値がある作品だと思う。

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