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細田守『時をかける少女』(2006)を久しぶりに観た


※この文章は2022年5月31日にFilmarksに投稿したものです。


アマプラで今日まで配信だったので久しぶりに観た。ちょうど最近、今作の前に細田守が撮った『ONE PIECE オマツリ男爵と秘密の島』(2005)を観たことだし、監督の足跡を追うのにはちょうどいいかと思って。
それに、昨日『たまこラブストーリー』(2014)を観てもいるので、山田尚子の演出と見比べたいという思いもあった。特に学校空間の撮り方。

で、単純にまず風格がすごいわ〜となった。まぁ自分が何度も小さい頃から観ているだけなのかもしれんけど、全編を通して演出がキマりきっている。ストーリーというより、演出で泣ける。

とにかく真琴がよく走る映画で、特にラストの長回し風全力疾走とか、以降の本邦の夏の青春映画のフォーマットをこれで決めてしまった感がある。

千昭に時を止めてもらっているときの不穏な画作りとか普通に『オマツリ男爵』みが色濃く残ってて、やっぱり細田守って本質的にホラーというか、危ない空気を映像に纏わりつかせて表現するのが好きで得意な人だと思った。
『サマーウォーズ』でも『バケモノの子』でも『竜とそばかすの姫』でもそう。(『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』で狂った暁生がバルコニーから落ちるビデオのシーンも橋本カツヨ絵コンテだと睨んでいる)
影響元を辿れば『台風クラブ』の例のおそろしいシーケンスに代表される相米慎二などがいるのかもしれないけど……。

千昭にはそんなに魅力を感じない(声優の演技はとても良いが)ので、功介の存在意義をあれこれ考えながら観た。
まったく記憶に無かったけど、「待っててくれてありがとう」のシーンが好きだった。
まあベタに、「千昭=未来/非日常/追いかける対象/理想」に対する「功介=現在/日常/待っていてくれる対象/現実」という図式になっちゃうのかな。(にしては現実が理想的すぎるだろうというのは乙女のフィクションなのであった。)
もちろんそれが時間を象徴する画面内の左右のポジションに振り分けられる。

千昭の告白リセマラが意外と序盤にあることに驚いたが、ストーリー上の都合として最後の未来人ネタバラシの衝撃を減らさないために、中盤は功介が好きな後輩パートをガッツリやっている。つまりはミスリードというか、場繋ぎ要因でもあるよなぁ功介……。
千昭と友達をくっつけて、功介と後輩眼鏡ちゃんをくっつけて、その流れ(踏切自転車のリフレイン)で再び千昭が話の中心に還ってくる、振り子的な美しい構成。
この話って三角関係っぽいけど実体は(功介の気持ちがよくわからないし)かなり違う。ホントに三角関係なら3人でのキャッチボールとかできない(換喩としてもそぐわない)しねぇ……。

調理実習の真琴のヘマをなすり付けられて転落してしまった消火器の男子生徒(川瀬君だっけ)の扱いの酷さを糾弾する人はときどき見るけど、あれは真琴の傲慢さ故に(そして「青春」の名の下のヘテロ恋愛礼賛に)踏み躙られるものを描くために必要な要素だし、本作はその、目の前のイケメンしか顧みない傲慢な若さこそがテーマなのだから、彼が下手に救われてしまっては何もかもが破綻すると思う。


あとは同級生の友梨も印象に残った。怪我したあとの保健室のシーンの存在感すごいし、理科準備室に入ってくるのも彼女だし、悟りを開いた真琴が千昭への想いを彼女に打ち明けたあとの喋り方はベタ過ぎておもろいし、time waits for no one言っちゃうし。。。

結局あの絵は何なのか全然わからん。平和への祈りを聖母的なものに仮託している? 保守主義の権化こと細田守だから納得はしやすいが……。
これだけ映像演出に卓越している作品内での特異点として静止画の芸術が鎮座していることには意味を見出したくなってしまう。


山田尚子と比べたときの学校の撮り方だけど、やっぱり個人的には細田守に軍配が上がるかな〜。比べるもんじゃないとはいえ、いわゆる「エモい」学校のスナップショットを並べていく見せ方は本作でも『たまこラブストーリー』でも出てきたし、やってることはほぼ同じなのでそりゃあ似てるんだけど、でも何がが決定的に違うんだよなぁ……山田尚子が決して悪いわけではない。奥行きの有無とか、影の付け方になるのかな。山田尚子はカメラの手ブレ風演出とか、ピンぼけ・ハレーションがかかったような画作りをよくやるけど、細田守はもっと平面的で明暗もクッキリしている。(逆光大好き)
それでいうと、本作では図書館の壁に寄りかかって本を読んでいる女生徒の画(二度ほど映る)がすごい好きだった。一介のモブだろうけどそういうところに映画の魂は宿る……とか言っておけばそれっぽくなるぜ。



『おおかみこども』の感想はこっち。


『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』(細田守の長編アニメ映画第1作)の感想はYouTubeで始めたラジオで語っております。



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