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新海誠『秒速5センチメートル』(2007)を久しぶりにみた


23/6/24土 午前中
秒速をいちばん好きな映画に挙げる人とこの後会うので、めっちゃ久しぶりに観た。3回目くらい?

新海誠、マジで映像演出が上手すぎる。庵野秀明をさらに煮詰めたような高速の風景カット割り。モノローグに合わせて絶妙に捉え切れない鮮烈なスピードで切り替わっていく美麗な画面。走っている列車の車両内を一瞬で通り過ぎる光の帯たち。


天才的な映像作家だよほんと。新海誠の作品に関して、最後に男女が再会するだしないだ、三角関係やら鬱映画やらセカイ系やらといったお話とキャラクターしか主に語られないがちなのは本当に勿体なすぎる。もっと映像の話をしようよ。

やっぱ第1章「桜花抄」が至高で、じぶんのなかでの秒速はここで終わってるなーと再確認した。


・水平方向から垂直方向へ
1章は電車を乗り継いで東京から栃木(岩船)まで行くという水平方向の運動性をもった話で、2章「コスモナウト」は種子島でロケットが垂直に、上へと上がっていく話(早苗のサーフィンや原付での登下校は水平だけど)。そして3章「秒速5センチメートル」は垂直に下へと落ちていく話。舞い落ちる雪や桜もそうだけど、それらよりエレベーターのシーンがもっとも象徴的。

ごていねいに鍵も落ちる

そもそも『秒速5センチメートル』なんだから、最初から垂直に落ちていく話ではある(時速5キロの種子島のロケット運搬列車とはちょうど対照的だ)けど、貴樹くん達が子供から大人へとなっていく過程で、だんだんと水平方向の運動から垂直方向の運動へと志向を移さざるをえなくなっていく物語として読める気がした。そうなってくると、最後にふたりのあいだに、電車が水平に横切っていく、あの一見して無慈悲な運動も、じぶんにとっては何か寿ぐべき、子供時代の再来であり、もう決して届かないことを示す、とても気持ちのよい演出に感じられてくる。また、貴樹くんが憧憬を抱いていた宇宙空間というのはそもそも水平も垂直もない、等方向的な空間であることもまた解釈し放題バーゲンセールだろう。

水平から垂直へ、というのは演出のトーンにも現れていて、ようはだんだんと派手になっていく(からぼくの好みに合わなくなってくる)ということだ。


2章の「優しくしないで」後に後ろでゴオオオオオオとロケットが打ち上がるシーンで笑っちゃったし、3章の山崎まさよしが大音量で流れ出した瞬間に爆笑した。1章が非常に抑制的なトーンで、なにか派手で大きな物事の運動とか、大音量の挿入歌だとかが一切ないのが余計に引き立つ。だからぼくは桜花抄が好きで、1章で秒速は終わっていいと思っているともいえる。少年時代のピュアで切実でシリアスなトーンから、だんだんとコメディめいてくる物語として受け止めた。シリアスからギャグへ。子供から大人へ。



『空の向こう、約束の場所』から比べて、直接的に物語でセカイの終わりとかヒロインの命や運命だとかを扱わなくなったのはえらいなーと思うけど、とはいえあの常世みたいなド派手謎空間は随所に登場して、おまっ……まだ全然そこから抜け出せてないやんけ!! 抽象的でスケールのデカい話をするな新海誠!! って思った。それは新海誠には無理な相談ですね、はい。
やっぱ、3章とか自分にはどうでもいいんだよな~~ 明里とは関係が続いてなくて悲しい、BSS、鬱、とかはぜんぜんなくて、最後の踏切でふたりが振り向いて再会できるかできないか、というのも正直そんなに重要ではないな、と思った。だから『君の名は。』も好き。(最後に再会できたから、では全くなくて、別のところに新海誠作品の大事な評価軸がある、ということ。)
ふたりがくっつくにしろ別れるにしろ、それをああした大音量挿入歌でMV的にド派手に仰々しく演出してしまうのが根本的に合わない。もっとこじんまりと、つつましくあれ!!! 『海がきこえる』を観返してみろ!!! って個人的には思いますね。



で、いちばん人気がある章であるとことのコスモナウトに関しては、1章から地理・風景がガラッと変わって種子島の田園風景というロケーションはめちゃくちゃ好き。だし、早苗ちゃんはとてもかわいいんだけど、やっぱり大好きになりきれないのはひとえに「貴樹がムカつくから」に尽きる。しゃらくせぇ~~~。いや、早苗の恋する乙女の主観ショット演出だというのは承知の上で、だよ?? あと、いま見ると、早苗さんは家の縁側で下着のシーンもあるし、サーフィン用のウェアとかも、とてもこう……エッチで……さっきまで「桜花抄」を見てピュアピュアになった心にはとても刺激が強いです。びっくりする。セクシュアルな気配がムンムンに漂っていて、そこにあの間隔ではアジャストすることが難しい。ヒロインを性的に描くな!!なんて馬鹿げたことを思ってしまう。
打ち上げシーンがウケるのは上述の通りです。
あと、進路選択という要素がガッツリ物語に出てくるのもうんざりする。結局、高校生なんて将来のことは全然わからなくて、目の前の恋で精一杯だよ~というのを肯定する着地ではあるんだけど、着地がどうこうじゃなくて、「進路」要素が作中に入ってくるだけでイヤだ。……ワシはここ(桜花抄)から一歩も動かん!!!!! 大人になんかなりとうない!!!!!




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