曲紹介としてのダンス
私は #vocanote が好きである。自分でも幾つか拙文を公開しているが、何より他の人がvocanoteで各自の好きな曲について好きなだけ語っている様を眺めるのが好きだ。たとえ語られている曲が好きになれなくても、「自分が好みでない曲をこんなにも好きな人がいる」という事実に、私はいつも救われている。
※vocanoteとは「ボカロに関するnote」くらいの意味です。最近じわじわ浸透してきています。私がnoteのアカウントを取得したのもとあるvocanoteを書くためでした。
さて、そんなvocanoteのライターは「ここの音が好き!」と、好きな部分をピンポイントに指定して語ることがよくある。
この、いわゆる「ここすき」は、楽曲紹介として最も手っ取り早い方法だと思うのだが、ひとつ難点がある。
それは「どの音かよく分からない」ことがある、ということだ。
その曲を流しながら文を読んでいても、様々な楽器パートの中から語られている音だけを選りすぐって聞き取ることは私には難しい。そもそも楽器経験のない私の中では「ここのバスドラの〜」などと言われても、楽器名と実際に出ている音がリンクしていない。
実際にその人の隣りにいて、辛抱強く何度も再生し直して説明されればいいのかもしれないが、文章で伝えるのはやはり難しいと感じる。
ここからが本題だ。
このような「どの音か分からない」問題に終止符を打つ解決策を私は知っている。
それは「その曲で踊る」ことである。
…え、ふざけるなって?少し待ってほしい、解散しないで。
正直に白状すると、ここまでの前フリは全て、このnoteの真のテーマを導入するためにひねり出した建前である。
このnoteの目的は、日夜vocanote執筆に励む皆さんをダンサーにすること…ではなく、皆さんの持つダンスに対する価値観をアップデートすることだ。
皆さんは、ダンスって何のためにするものだと思っているだろうか。
楽しいから?上手く踊れると格好いいから?目的なんて考えずに自然と体が動く?
ストリートダンスをやっている人なら「相手に勝つため」と答える人もいるだろう。
ボカクラに通っている人なら「好きな曲で高まって、音楽の神に祈りを捧げるため」なんて言うかもしれない。
これらはどれも間違っていない。踊る目的なんてなくていいし、あったとしても正解は一つじゃない。
それでも私は、上記の答えに加えてさらにもう一つ、ダンスの新しい見方を提案したい。
ここで前置きとつながる。答えはすなわち
「好きな曲の魅力を伝える」ためのダンス
である。
ダンスの主役って誰だろう?もちろん踊っている人、ダンサーだ。
でも、ダンスには(三浦大知の無音ダンスなど例外はあるけど)音楽がつきものだ。ダンサーは音楽に生命を吹き込まれて、やっと踊れるようになる。
ということは、ダンスのもう一つの主役は、他でもない音楽自体なのである。
実際、魅力的なダンスとは、踊っている人だけでなく、彼らが乗る音楽自体をも魅力的に感じさせる。
皆さんも、ダンス動画を見ていて「この曲めっちゃいいな…」と、曲のほうに感心してしまった経験はないだろうか。私は何度もある。
これはつまり、ダンスを通じて曲の魅力を伝えている、ということにほかならない。
なぜ、ダンスによって曲の魅力が伝わりやすくなるのだろうか。
私の持論では
「ダンサーとは指揮者のような存在」または「ダンサーは踊る曲のイコライザー」だから、となる。
説明しよう。
ダンサーは音楽に対してめちゃくちゃに踊っているわけではない。必ず、その曲の適当な「音」に合わせて体を動かしたり、逆にピタッと止めたりしている。
特定の音に合わせて踊ることを、その音に「ハメる」とよく表現する。
そして、ダンサーにとっての永遠の課題は「鳴っている曲の“どの音”にハメるか」ということだ。
音楽とは一般に、いろんな楽器のパートで構成されている。
それら、鳴っている全ての音にハメることは不可能だし、出来たとしても滅茶苦茶な踊りになってしまうだろう。
そこで、ダンサーはハメる音を自分で「選ぶ」必要がある。
もっとも簡単なのは、曲の基本となるビートに合わせて規則的に動くことだ。
4つ打ちのリズムに合わせてサイドステップを踏む、などはこの典型だ。
しかしそれだけでは面白くないと感じる人は、さらに貪欲に耳を澄ませ、他の音にハメようとする。
ボーカルパート、いわゆる主旋律にハメるとダンスの見栄えは良くなりやすい。
しかし、ボーカルにばかり合わせていても次第に冗長になってしまう。
選ぶパートの配分が大事なのだ。
このように、ダンスとは「とめどなく流れる音の洪水の中から、いかにバランス良く魅力的な音を拾って表現できるか」を目指す遊びだと捉えることができる。
本当は、他にも「選んだ音をどう表現するか」という第二段階があるのだが、とりあえず今回は「どの音を選ぶか」という第一段階に焦点を絞る。
「どの音を選べばよいのか」それは「聞いてほしい音」を選べばいいのである。
自分がみんなに聞いてほしい音、すなわち自分にとって魅力的な音。そこにハメていけば、自ずとダンスは魅力的になる。
つまり、「聞いてほしいと思う音でハメることで、視覚的に分かり易く、その曲の長所を他人に伝えることができる」のだ。
その曲だけを聞いている時よりも、ダンスを見ながら聞いている時は、ハメているパートが浮き上がって聞こえる。
皆さんもそんな経験をしたことがあるだろう。
え、ない?
ならばこのダンス動画(踊ってみた)を観てほしい。
sasakure.UKさんの名曲「カムパネルラ」は、ササクレ節とも言えるピコピコ音が曲中にたくさん散りばめられている。
それらの音をほぼ完璧にこの2人は拾っていく。
普通に聞いていればボーカルパートに気を取られてそんなに意識しない音も、彼らのダンスによって鮮明に浮き上がって聞こえるはずだ。
このように、ダンサーは曲を構成する特定の音を選んで、聞き手が受け取る音の強弱を操ることができる。さながら指揮者やイコライザーのように。
このことから、「この曲の魅力を分かり易く伝えたい!そのために好きな音に徹底的にハメたダンスをしよう!」という発想が出てきてもおかしくないだろう。(おかしくない…よね?)
べつに私はあなた方に今すぐダンサーになれ、と言っているわけではない。
ただ「曲紹介としてのダンス」という視点を少しでも持ってほしい。
きっと、ダンスに対する見方が少し変わるはずだ。
それはきっといい方向への変化だと私は信じている。
文章で語るだけがvocanoteではない、「踊ることで語る」ことも出来るのだという、その可能性に気付いてほしい。
最後にもうひとつ、ある小道具を使った音ハメがとても気持ち良い、尊敬するダンサーの動画を載せて筆を置きたい。
ネス / ロストエンファウンド(sasakure.UK)
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