アンケート

社員旅行のアンケートがきている。コロナ禍により社員旅行はおろか運動会、ボーリング大会、遊園地でのイベント、ソフトボール大会、飲み会が開催されないぬるま湯に浸かっていた私には憂鬱なアンケートだ。このような催し物を歓迎しない輩は少なからずいるものだ。参加しなければ変わり者に思われるかもしれないし、参加すればとてつもない疎外感に苛まれることは目に見えている。私には会社で仕事以外の話をする人などいないからだ。自分を社会に繋ぎ止めるため、笑顔を作りながらも内心汗水垂らしたサービスをしている。どこかで読んだことのあるフレーズだ、太宰だったか夏目だったか思い出せない。
前回の社員旅行は基本的に自由行動だったので今回もそうであって欲しいものだ。
アンケートの内容はというと、2泊3日なら北海道、沖縄、九州から選ぶ。行くなら断然九州だ、北海道も沖縄も一人で行動するにはさみそそうだ。華やかな街、にぎやかな繁華街をただ一人彷徨う、店に入ろうとして躊躇する、その繰り返しをしている私を想像することは非常に容易い。
一方、九州ならどうか。北方謙三先生の武王の門の舞台だ、どこに行っても思いを馳せることができる。征西将軍宮になったつもりで各地を歩くのもいいだろう。
1泊2日なら東京、京都から選ぶ。京都は魅力的だが寺で他の社員と鉢合わせるのは気まずいので東京がいいだろう。東京なら博物館も美術館もたくさんある、ぼっちが社員旅行で
時間を潰すなら博物館と美術館しかない。というより、他にどこに行っていいかわからないのだ。
ここで前回の社員旅行でいった大阪のことを思い出す、私は電車に乗り仁徳天皇陵古墳を見に行ったのだ。でかい、とにかくでかくて古墳かどうかわからない。34度の炎天下、影もなくとにかく暑かった、行く前は一周回ろうと思っていたがとてもできそうにない。正面が円いところが四角いところかわからない場所にいたとき、神主崩れな格好をしたおっさんに声をかけられた。声が汚くてよく聞き取れない、曖昧な返事でやり過ごすことにする。とにかく暑いので近くにある古墳博物館に早く行きたいのだ、だがおっさんの話は終わらない。おっさんは胡座を組み話し始める、古墳の歴史から始まりこの国のあり方、そして毎日、仁徳天皇とここで話をしているのだと汚い声で私に語る。とにかく聞き取りにくい。おっさんも私も汗だくだ。私はとにかく、そうなんですか、すごいですね、大変ですね、とおっさんの話に合わせて繰り返す。30分も過ぎた頃、あまりの暑さに私は仁徳天皇のことをあちらの博物館で勉強させてもらいますと早口で言って小走りでその場を切り抜けた。おっさんに対して申し訳ない気持ちもあるがこれ以上は私の体が持たない。
すぐ隣りにある博物館の前で私は悩む、
こんな汗だくで入っていいものだろうか。着替えやタオルはもちろん、ハンカチも持っていない。ここで待っていたところで汗が引くことはない、旅の恥は掻き捨てということで(なんか違うような気がするが)入ることにした。
長くなったのでこの続きは次回書くことにする。

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