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ICCのピッチで優勝するまでの道のり

はじめに

こんにちは!株式会社ハイヤールー代表葛岡(@kkosukeee)です。

スタートアップ界隈の人なら誰しも一度は耳にしたことあるであろうICC(Industry Co-Creation)、起業家のみんなの熱量が恐ろしく高く、ピッチのクオリティも間違いなく日本トップクラスです。

本記事では、そんなICC FUKUOKA 2023のSaaS RISING STAR CATAPULTに登壇し、優勝するまでの道のりについて、準備から本番までを執筆します。

これからピッチイベントに登壇される起業家の方にとって本記事が少しでも参考になりますと幸いです。

TL;DR

  • 創業者の私のキャリア(エンジニア@DeNA, メルカリ)から分かる通り、ハイヤールーは非常にテックドリブンな会社

  • ピッチ大会は実は今回が初めてではない。既に二回(B Dash Camp, ICC KYOTO)過去にピッチをしていて、予選負け、4位入賞となかなか成果が出ていなかった

  • 過去二度の敗戦を通して学んだことをもとにスライドを組み直し、抑揚をつけるトークの練習をし、最後にスライドに魂を注ぎ込む

  • 準備を十分にしたこともあり、当日のピッチに余裕が生まれ、台詞を間違えても容易に軌道修正、結果として優勝を勝ち取ることができた

  • 優勝の過程を振り返ると、自分の力だけではなく、仲間の力があってこそ達成できた目標であり、かつハイヤールーのバリューを最大限に体現した結果勝利につながった。ハイヤールー最高!!

自己/事業紹介

ピッチの内容を説明する前にまずは弊社の事業についてある程度理解する必要があるため、簡単に自己紹介を交え事業の紹介をします。

株式会社ハイヤールーは、エンジニアを採用する際に生じるミスマッチを防ぐSaaSソリューションを展開している、設立二年と少しのスタートアップです。社員数は10名程度の会社で、内8人がエンジニアであり、プロダクトドリブンな会社となっています。

私はそんなハイヤールーの代表をしており、バックグラウンドとしてはこれまで、Photoructionというスタートアップでエンジニア、その後DeNAでAIエンジニア、メルカリでテックリードを務め、在籍中に仲間と会社を創業しました。

きっかけとなったのはDeNAからメルカリに転職する際、ビッグテックと呼ばれる会社の選考を経験したことでした。詳細は後ほど説明しますが、日本企業のエンジニア採用方法とは大きく異なり、とにかくコーディング試験を行うという選考に衝撃を受け、これは日本でもやるべきでは?という疑問から事業を開始するに至りました。

これまでの戦績

実はハイヤールーとしてピッチに登壇するのはこれが初めてではありませんでした。一番最初のピッチイベントは2022年6月のB Dash Camp、その後同年9月にICCサミットに参加していました。

B Dash Camp(2022年6月 in 札幌)

シード・プレシリーズAのファイナンスが無事終了したこともあり、少し露出を増やしていこうということで2022年は参加できるところは全て参加しようと思っていました。まず初めてB Dash Campに応募し、無事にピッチができることになりました。

先に結論を申し上げると、結果は大敗、ファイナルラウンドに出ることはなく、ファーストラウンドで惨敗しました(B Dash CampのPitch Arenaではファーストラウンドを勝ち残った数社が、ファイナルラウンドに出場します)。いわゆる予選負けというやつです。

ピッチ前日にプレシリーズAでの2億円調達プレスリリースを出したという仕込みもあり、それなりに自信を持っていた私は非常に悔しい思いをすることになりました。後から振り返ると、敗因は以下であることは自明でした:

  • プレゼンの準備不足(前日ホテルで通しで少し練習したくらい)

  • 質疑応答の準備不足(Pitch Arenaは質疑応答があります)

  • 抑揚をつけたトークが全然できなかった

一言でまとめると準備不足です。自信の現れが逆に作用する形となり、当日は非常に悔しい思いをすることとなりました(弊社の投資家も来ていて、その後一緒に現地で反省会をしました笑)。

ICCサミット(2022年9月 in 京都)

3ヶ月後のICCサミットにもすかさず応募し、ICCパートナーズ代表の小林雅さん(以後雅さん)との面談後、無事登壇することになりました。前回の失敗からの学びで、とにかく事前に準備をするということを心がけ、社内メンバーと一緒に入念に準備しました。

カタパルト登壇者向けに事前に開かれる、ワークショップがあるのですが、これが非常に参考になり、スライド・トーク共に入念に準備をした結果、結果として4位入賞しました。私としてはもちろん優勝、最低でも3位以内入賞を目指していたので、またもや敗北でした(最終日3位以内入賞すれば観光して帰ろうと思っていたのですが反省して直帰しました笑)。

実はカタパルト登壇者向けのワークショップで優勝をしていたのですが、当日はどこか優勝は難しいだろうから、3位以内入賞を目指そうというどちらかというと弱気モードでした。おそらくB Dash Campで自信がなくなってしまっていた部分があったと思います。それ故の敗因は以下でした:

  • 抑揚をつけたトークが全然できなかった(二回目)

  • ピッチに自信を持ちきれないまま登壇

前回の敗因である準備不足に関してはある程度準備したため課題にはなりませんでしたが、優勝できる自信がなかったが故にどこか弱気なプレゼンになっていたのだと思います。スライドは分かりやすくて好評でしたが、トークが単調で最後の山まで眠たかったというフィードバックまでいただきました。

これら過去二戦を終え、私のピッチに足りない部分は明確でした。そして雅さんに二度目のチャンスをいただく際にはそれらをきっちり解決しようと誓ったのでした。

準備がすべて

真剣に向きあえば向きあうだけ成果が期待できます。審査員の評価を獲得することは波及効果が高い。
そのためには内容のわかりやすさが重要である。理解されて初めて次に進みます。
リハーサルではいろいろフィードバックしましたが、難しいことをいかにわかりやすくシンプルに伝えるか?です。
「準備がすべて」です。
素晴らしいプレゼンテーションを期待しております。

カタパルト登壇者への雅さんからのメールの内容

これは雅さんから登壇までに送られる最後のメッセージです。ここにもあるように、ピッチは準備がすべてです。これまでの敗戦を糧とし、今回はこれまで以上に準備に時間を使い、その中でも特に自分の苦手意識がある部分に焦点をあてました。当日までに行った準備は時系列順に以下です:

  • スライドの組み直し

  • 抑揚をつけるトークの練習

  • スライドに魂を乗せる

スライドの組み直し

前回と全く同じプレゼンをするつもりは最初からなく、とはいえイチから作り直すのではなく、前回の良かったところは残し、悪かったところを捨てるような形でスライドを組み直しました。例えばフィードバックを元にでオーディエンスに刺さらないなと思った、解像度の低い海外展開の話を捨て、その分刺さったと思った事業を始めたきっかけの尺を伸ばしたりといった形です。

Speakerdeckにビフォースライド(以後v1スライド)アフタースライド(以後v2スライド)をいずれもアップロードしたので、ページを追いながら特に意識した点と変更点をご説明します。

冒頭の入り(v2スライド p3-p4)
v1スライドではビッグテックの選考プロセスの話をしてから課題の説明に入っていたのですが、プレゼンの達人である三輪さんに三幕構成を意識すると良いというアドバイスを頂き、一つ目の山であり、三幕構成でいう設定を事業のきっかけとして冒頭に持ってくることにしました。

印象に残る中卒という私の学歴と、実際のストーリーを掛け合わせ、事業のきっかけを説明することで、Why Us?の質問に答えると同時に、オーディエンスの興味をそそるような冒頭を意識しました。

前回の反省点としては、最後のエモーショナルな部分が印象が大きすぎて、はじめの内容を忘れてしまうなど、うまくストーリーラインが引けていませんでした。その反省を活かし、今回はエモーショナルな部分は残したまま、最初と最後に山を設定し、アテンションを落とさないというところを意識しました(二つ目の山は後ほど紹介)。

トラクション(v2スライド p14-p15)
前回はスタートアップカタパルトに登壇したのですが、今回はSaaSのカタパルトということもあり、SaaSの事業成長性を図る上で重要な数字を見せるようにしました。v1スライドp15-p16では有料顧客社数と累計選考数のみを数字として見せていましたが、最重要KPIになるMRRとMoMを見せることにしました。

三輪さんのワークショップの内容として、オーディエンスを知るという教えがあります。カタパルトの場合、本気で優勝を目指すなら審査員からの投票を得る必要があります。ICCサミットは基本的に全て情報が公開されているため、審査員の情報もすべて開示されています。その中でスタートアップカタパルトと比較すると、投資家割合より、SaaS事業の経営者が多いことは一目瞭然で、そんな人達が毎日追っている数字を見せることで事業の成長性を伝えることが目的でした。

今後の展望(v2スライド p16-p18)
今後の展望で一番伝えたい内容は今後の事業の伸張性、TAMをどのくらい広げられるかということです。目指している世界観を伝えた上で、今後どのように大きな山を登るのかという話をしたかったため、大きく3つのステップに分けました:

  1. 採用時のコーディング試験サービス(これまで)

  2. 採用後の社内人材評価サービス(これから)

  3. 採用前の母集団形成段階のサービス(その先へ)

「これまで」の話では、事業が着実に課題を捉え、顧客に認めてもらえるプロダクトを作れるという証明をし、「これから」の話では、既存事業の伸張性を話し、「その先へ」ではTAMの大きさを伝えることを目的としました。

幸いにもタイミングよく、新しい事業の柱となる、社内人材評価のサービスがピッチ登壇翌月の3月にリリースを控えていました。前回のピッチの時点ではまだ構想段階であったため、見せられるものがあまりなく、絵に描いた餅になることは避けたかったため、触れなかったのですが、今回は実際のデモをみせ、より今後の展望の解像度を上げました。

締めくくり(v2スライド p19-p21)
前述の三幕構成でいうところの最後の山、クライマックスのパートです。完全に三幕構成を再現したわけではないですが構成それぞれ1:2:1となり非常に似ています。これまでの流れは以下です:

  • 事業のきっかけ(設定)

  • 課題とソリューション(対立・解決)

  • 成し遂げたいこと(クライマックス)

v1スライドでは、クライマックスパートが長すぎたという反省点がありました。クライマックスパートの印象が強すぎてそれまでの話を覚えていないという人がいたくらいです。なので今回は前回の印象に残るクライマックスパートを前半の設定に持ってくることで、新たなクライマックスパートを用意しました。我々の事業にかける熱い思いを話すことです。

まずは我々が変えたい厳しい現実から入り、その後にどのようにそれを変えるのか、そして我々だけで変えるのではなく、オーディエンスのみんなと一緒に変えたい、そんな強いメッセージを残しました。これにより比較的単調である二幕目の課題とソリューションの話で離れかけていたアテンションを再度捉えることで、ずっと聞き入れるような構成にしました。

抑揚をつけるトークの練習

実は4位入賞時のスライドも高評価だったため、スライドの組み直しは必要ないと言われるくらい一番課題意識を持っていたのはトークでした。中でも抑揚をつけて話す部分、ここに大きな課題を感じていました。抑揚をつけて話さず淡々と話していると、オーディエンスは退屈してしまい途中で離脱してしまうため、非常に課題意識を持っていました

自分のトークを録音して聞き直し、抑揚をつけようと試みるもどうもうまくいかない中、プレゼンの達人の三輪さんのプレゼンを改めて拝見したその際に「私にはこれはできない」と確信しました。これは諦めではなく、自分の方法を模索するきっかけでした。

その中過去カタパルト登壇者の吉藤オリィさんのプレゼンを見て、抑揚がすごくあるわけではないが、凄く熱量を感じるプレゼンを見て、自分にないスキルで戦うのではなく、あるスキルで戦おうと戦略を変えます。これが後に優勝できた一番のきっかけになったと思います。

ここで少し戦略を変え、抑揚をつけるのではなく、自分のスタイルで戦うという戦略にシフトしました。具体的には以下2つが行った内容です:

  • 自分の言葉で話す(言霊)

  • 一番熱量を感じる部分を強調する(プロダクト)

自分の言葉で話す
過去のプレゼンは実は最初から最後まで全て自分で作ったわけではなく、社内のメンバーがある程度骨組みを作り、スクリプトを書いてくれた状態で最後の微調整をして、当日話していました。そのせいか、どこかスクリプトを読み上げているだけのような話し方をしてしまっているように感じました。

例えば以下の部分です。セリフに「さぁ、今すぐ学歴や職歴ではなく、本当の技術力に目を向けましょう。」とありますが、これは社内メンバーと認識をすり合わせた上、私ではなく、他のメンバーが決めてくれたセリフでした。なのですがいざ話してみるとどうしても言葉に魂が宿らない、そのままプレゼンをしたため優勝できなかったと感じていました(多忙な私を見てスライドやスクリプトを埋めてくれたメンバーには大変感謝しています)。

今回のピッチはスクリプトを一語一句自分で考え、スライドも細かいデザインはデザイナーに任せましたが、ほぼほぼ自分で骨組みから考え作りました。普段社内でよく使っている言葉をスライドに使い自分の言葉でピッチを作っていると、練習をしていても自分らしいプレゼンになることを感じ、自信が持てるようになりました。

例えば前述の締めくくり部分のスライドにおけるスクリプトは以下です:

かつてこの国は、モノづくりで一番になりました。
ですが、情報革命において、モノづくりの形は代わり、今では世界に大きく遅れを取っています。
私はもう一度日本はモノづくりで一番になれると信じています。
そして次世代のモノづくりを担うのはエンジニアなんです。
学歴・職歴がない、上司との相性が悪い、そんな理由で正当に評価がされないエンジニアはたくさんいます。
私はそれを本気で変えたい、だからこの事業に人生をかけているんです。

当日のピッチ締めくくり資料よりスクリプトを抜粋

弊社のミッション・バリューにも使われている「正当な評価」や社内でよく使う言葉である「モノづくり」という言葉を使い、自分の言葉で話していることがわかるかと思います。

ピッチの参考にさせていただいた、Oh my teethの西野さんのnoteには「借り物の言葉ではなく、日頃から使っている言葉・フレーズを使う」と書かれています。これはその通りで、バズワードを使って話したり、キャッチーな言葉を使うのではなく、社内でよく使う言葉、自分の言葉にスクリプトを変えるだけで大きな効果を練習でも感じました。

一番熱量を感じる部分を強調する
ICCでは登壇決定後、ワークショップを含むと最大で3回に渡るリハーサルを行います。2度目のリハーサルである程度ピッチは仕上がっていたと感じましたが、それでも正直優勝できる自信はその時点ではありませんでした。そして最後の3回目のリハーサルを雅さんと行っている時にふとこう言われました:

葛岡さんはプロダクトの話をしているときが一番楽しそうだよ。

カタパルト登壇前リハーサル、雅さんからのコメント

自己紹介にある通り、私は起業するまでずっとエンジニアとしてキャリアを積んできました。それもあり、正真正銘プロダクト大好き人間です。会社のカルチャーデックの最後のメッセージを見ていただくと、私がどのくらいプロダクト好きかというのは伝わるかと思います。

雅さんと一時間のピッチのリハーサルをするつもりが、時間を大幅にオーバーして、気がつけばスライドではなく、実際のプロダクトのデモを雅さんにICCパートナーズのオフィスで熱心に見せている自分を後から見て「もっとプロダクトの話をしよう」と思い経ちました。

この時点でピッチ本番の二週間前、余裕は一切ありませんでしたが、過去に外注して作ってもらったデモ二つを全て捨て、イチから自分で作ることにしました。そして二倍強の約1分から2分半にまで伸ばしました。そうすることで、自分が一番熱量を感じる部分にもっと焦点を当て自信をつけることで、自然とトークに霊が宿るだろうと思いました。

そうして出来上がったメインのデモが以下です:

前回のピッチは外注して納品してもらった動画に対してスクリプトをあとから付けるという工程に対して、一秒単位でこまかくスクリプトと合わせることができたため、結果として動画をイチから作り直したのは功を奏しました。今思い返すと、このステップを通し、ただのスライドから愛するプロダクトに変わる瞬間でした。

スライドに魂を乗せる

スライドもトークも練習をし、後はやりきるだけ、そう感じたのは本番2,3日前でした。スクリプトをイチから考え、スライドも自分で作り、そして唯一外注していた動画も最後の最後で全てイチから作り直すプロセスを通し、気がつけばただのピッチスライドから、愛するプロダクトに変わっていました。後はやりきるだけ、最後の数日はこの言葉を何回言ったかわかりません。

動画をイチから作る中で私は凄く大事な事実に気づきます。我々のプロダクトはなんて素晴らしいんだろう、そしてその時からこのプロダクトを一緒に作った仲間がいつもにまして誇らしくなりました。普段は相当タフで厳しく、面白くない代表ですが、この時ばかりは感謝の気持をプロダクトづくりに関わっている全員に伝えたくなり、福岡行きの飛行機に乗る数時間前にチームミーティングを開きスピーチをしました。

みんなで作ったこの最高のプロダクトは今の日本社会に大きな意味があり、インパクトを残すはずである。モノづくりで過去一番になった国が、モノづくりで衰退している、これからの未来を支えるのはエンジニアであり、そんなエンジニアを正当に評価させることが我々のプロダクトを通してできるはずだ。これからみんなが作った最高のプロダクトを背負ってピッチに行ってきます。そんな最高のプロダクトを作っている自分たちを誇りに思おう。勝ってきます。

カタパルト出陣前の社内に向けたスピーチ

と言葉を残し福岡行きの飛行機に乗りました。自分のプロダクトだったはずが気がつけばみんなのプロダクトになるように、自分のスライドが自分だけのものでなくなり、会社全員の思いを乗せたスライドになった瞬間でした。この時点でスライドに魂が宿り、自信に満ち溢れていました。

前日福岡入りをし、ホテルに帰る際のタクシーの中で私と一緒に何度も練習をした取締役COOの高柴がぼそっと「明日優勝する絵しか浮かばない」と言いました。たくさん練習をし、みんなの思いを背負ったスライドに魂が宿ったからこそ滲み出た自信ではないかと思います(最後の最後まで謙虚にいきましたが、全く同感でした笑)。

本番のピッチ

当日いつもと同じルーティンで朝早く起き、5km福岡市街を走りリラックスして挑みました。自信の現れか、全く緊張はしていませんでした。トップバッターだった私は、一番最後に接続確認をし、本番を迎えました。この時知り合いや先輩起業家の方にたくさん会いましたが、口を揃えてリラックスしてるね、と言われました。準備を十分にしたからこそ現れる余裕でした。

個人的には前回のICCで自分の前のプレゼンターがピッチをしている中、壇上で待つ時間と、名前が呼ばれるまで舞台裏で待つ時間が一番緊張したと感じたので、トップバッターはその点楽でした。壇上で温かい拍手を受け、本番の7分間が始まりました。自分の思いだけでなく、仲間達の思いを背負った勝負の7分間です。まずは実際のピッチをご覧ください:

ピッチが終わった後にまず感じたのは、やり切ったという感触でした。これでダメならもうしょうがないと思えるほど、本番は練習より断然良いピッチができたと感じます。タイムマネジメントもほぼ完璧で、緊張も全くしませんでした。緊張してなかったせいか、途中何度かスクリプトを見失ったのですが、全く問題なく軌道修正をすることができました。

冒頭の入り(~1:11)

一つ目の山、三幕構成における設定の部分です。実は44秒時のスクリプトですが、用意していたものとは異なっていました。用意していたスクリプトは「中学卒業後、自分の手でモノを作りたいという思いからエンジニアを志し〜」でしたが、実際には「中学卒業後、自分の手でモノを作りたいとエンジニアを志し〜」のようになっており、微妙にスクリプトが異なっています。

普段私はGoogle Slideを使い作業するのですが、本番のピッチはGoogle Slideではなく、Keynoteを使用しました。Keynoteはあまり使い慣れておらず、実際にピッチが始まると思いの外スピーカーノートの文字が小さくて全然見えないという問題に気づきました。そのせいか、冒頭いきなりスクリプトを見失い、セリフを間違えます。ですが、緊張がなかったためか、それによる焦りを全く感じず、すぐさま軌道修正します。一つ目の山を超えます。

三輪さんから、抑揚が苦手な場合でも、間を意識するとトークは断然変わるというアドバイスを頂き、意識して一呼吸置きました。具体的には「中卒という私の学歴でした」の後と、「私には応募する資格がないという現実です」の前の数秒です。このように間を少し意識するだけで、単調なプレゼンに少し波をつけることでアテンションを取れました。

課題(1:11~2:33)

冒頭の山を越えた後に課題の話をします。ここでの目的は課題の深刻さをオーディエンスに伝えることです。実際の私の経験に照らし合わせ、何故これまでの日本のエンジニア採用方法がよくないかを説明しました。

注目してほしいのは、書類選考に対する問題意識をトークで強調した点(1:46辺り)です。既存の選考手法(1:16辺り)に対して物申す形で、理想の採用方法についての話に入ります。このピッチは弊社のミッションである「エンジニアが正当に評価される世界」をどのように実現するのかを説明する場です。我々は書類選考に対してもっと良い方法、代替ソリューションがあるということを提起する形で、ソリューションの話に入ります。そのための課題意識の強調としてあえて強調し、アクセントを付けました。

ソリューション(2:33~4:18)

大好きなプロダクトの話が始まりました。私の口調からもプロダクトデモから少しギアが上がることがわかるかと思います。一段ギアを上げ、この後に続くトラクションや今後の展望等、次の山である事業に掛ける思いまでは少し単調目のフラットな話が続くため、少しギアを上げて次の山に繋ぐことが目的で、アテンションを失わないことがこれらの目的でした。

余談ですが、慣れていないKeynoteで再生するデモが今どこかを把握するため、ずっと下を向いて喋っています。これは今後の改善点として明確で、当日Keynoteで話すなら間違いなくKeynoteで、そして二画面で話す場合は全く同じ環境設定にして準備することを強くおすすめします。そうしていれば前を向いてもっと自信を持ってプロダクトデモができたと今になって振り返っています。

顧客の声・トラクション(4:18~5:04)

前述の通り、今回のSaaSカタパルトにおいては、SaaSで重要となる数字を取り入れるようにしました。これまで課題やソリューションの話をしておきながら、数字が着いてきていないと絵に描いた餅になってしまいます。MRRの数字はSaaSの事業性を考える時、共通認識を持つ上で一番わかり易い指標になるので、具体的な数字は非公開なものの、MoMを見せることで、勢いと、着実に事業が伸びているという印象を残しました。

全体の七分のスライで一番アテンションが低くなると思ったのは実はここの部分で、課題ソリューションで少し冷めたアテンションをデモで戻す、顧客の声トラクションでまた少し冷めたアテンションを後述の今後の展望で戻すといった形で、オーディエンスを退屈させないプレゼンを心がけていました。

今後の展望(5:04~6:24)

オーディンスにはたくさんのSaaS企業の経営者がいることが事前にわかっていたので、市場の話は避けて通れませんでした。我々が現在狙っている市場は実は国内だけで見るとそんなに大きくないのですが、今後2027年までに狙っている市場は非常に大きな市場です。それを前提に今狙っている市場だけでなく、今後どのようにビジネスを伸ばしていき、TAMを広げるのかを知ってもらうことで、ハイヤールーはユニコーン企業になるポテンシャルを持っているということをオーディエンスに伝えるのがここの目的です。

またよくありがちなミスとして、描いた絵はでかいが、実現性にかける、いわゆる絵に描いた餅状態をさけるため、何故我々がその市場を狙えるのかというところも説明する必要があると考えました。そこで2027年のことはわからなくても、今年や翌年位であればある程度解像度も高いため、そこに焦点を当て、二本目の柱の話(5:34辺り)をしました。幸いにも既に開発が進んでいたこともあり、デモ付きで説明ができたことから、絵に描いた餅問題を避けられたかなと思います。

締めくくり(6:24~6:58)

ここからの締めはv1スライドにはまったくなかった点です。前回の締めくくりは中卒の下りだったのですが、今回はそれを入りの掴みとして使いました。そうなると最後の締めくくりに何を持ってくるのか?という疑問が上がるのですが、これに関しても三輪さんからアドバイスをいただき、事業にかける思い、未来の話をするのが良いという結論に至りました。

この構成を考える時に非常に参考にさせていただいたのが、Quandの下岡さんの優勝ピッチ(ICCで二度, B Dash Campも合わせると三連覇されてる猛者です笑)で、最後に決して長くはない、未来の話をするという点でした。

Industry Co-Creation、新たな産業を創る、という名の通り、そんな思いを持った起業家の人たちが称賛される素晴らしいサミットです。そこで事業やプロダクトの話だけではなく、最後にこれらを通して成し遂げたい大きな夢を語る、そんなことを意識して、我々は「沈みゆく国日本」に焦点を当て、使命をオーディンエスに訴えかけました。

後に振り返るとここで凄く大事であったのは、再喝になりますが「自分の言葉で話す」という点でした。実は雅さんとの三回目のリハーサルで、「バイアスを排除する」等の、キーワードを使ってみてはどうかというアドバイスを貰い、取り入れる予定だったのですが、実際に社員に夢を語る時、私は過去に一度でも「バイアス」という単語を使ったことはありませんでした。

前述のOh my teethの西野さんのnoteにもあったとおり、借り物の言葉ではなく、自分が社内でよく使う「モノづくり」と「エンジニア」を主語にして、最後の締めくくりを行いました。後から見返しても静かに燃える何かを感じるピッチになっているのは自分の言葉で話したからこその結果かと思います。そして途中で一度もタイマーを確認することなく、残り時間二秒を残して運命の七分間を終えました。

まとめ

結果として二位との差を二倍ほど開き優勝できたプレゼンでした。一言でまとめると、やり切ったプレゼンでした。数ヶ月前から準備をし、本番はたったの七分、その七分のために本当にやりきれたと感じ、優勝をした瞬間は仲間への感謝の気持ちしかありませんでした。

雅さんにマイクを渡され優勝者のコメントの時、心より仲間、そして会場に一緒に来てくれた高柴に伝えたかった言葉を伝えました:

最高のプロダクトを作ってくれたみんなのおかげ。本当にありがとう。

結果発表後の優勝者コメント

福岡に飛び立つ前にみんなとした約束を守ることができ、普段日頃はなかなか伝えられない感謝の気持をみんなが見ている前で伝えることができ、僕にとっては起業した中で一番嬉しいといっても過言ではない経験をICC FUKUOKA 2023で積みました。

弊社のバリューは三つあります:

  • Fail Fast(失敗を恐れるな)

  • Aim High(高みを目指せ)

  • Pull Together(共に勝つ)

これまで二回の敗戦でFailをし、そこからQuikに学ぶことでFail Fastを体現し、ICCカタパルトという最高峰のピッチ大会で優勝をするというAim Highな目標を掲げ、そして自分だけでなく、社内メンバーみんなの気持ちを背負い、Pull Togetherした結果、見事優勝することができました。早速ですが投資家コミュニケーションや、採用候補者とのコミュニケーション、スカウト返信率等含め大きく変化を感じています。

たかが七分、されど七分。その七分には自分だけの力ではなく、プロダクトを作ってくれたエンジニアみんなの努力や思い、当日のために突貫工事でTシャツやパーカーを作ってくれたデザイナー、スライドの改善、練習に何度も付き合ってくれた高柴、そんなみんなの思いを背負っていたからこそスライドに魂が宿り、結果として最高の形で幕を閉じる事ができたのではないかと思います。これを期に、「エンジニアが正当に評価されるされる世界」を実現するために、更にギアを一弾上げて猛進します。ハイヤールー最高!!

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