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ショートショート 「つまらない漫画」

「なんだよこの漫画、ちっとも面白く無いじゃないか」

友人から勧められた漫画の1巻を読み終え、僕は不満げに言った。

友人は、分かってないな、といった様子で僕の持っていた漫画を取り上げた。

「いいか。この漫画のすごいところは、ストーリーじゃないんだ」

「ストーリーじゃないって。別に絵が特別すごいようにも見えないけど」

「絵でもない。こんな絵なら俺にだって書ける」

「じゃあ、こんなのただの駄作じゃないか。なんでこんな漫画を勧めてきたんだよ」

「この漫画はな、どうやら俺の人生らしいんだよ」

友人の的を得ない答えに、だんだんと苛立ちを感じてきた。

そんな僕を尻目に、友人はこう続けた。

「ほら、この漫画のタイトル、俺の名前と同じだろ」

「ただの偶然だろ」

「俺も最初はそう思ったんだけど、興味本位で読んでみたら、内容が俺の人生と全く同じなんだよ」

「そんなわけあるかよ。どんだけ自意識過剰なんだよお前」

「本当なんだって。読み進めればお前も出てくるから。3巻の真ん中あたりかな。とりあえず今日は貸すから読んでみてよ」



友人が帰った後、半信半疑で漫画を読み進めた。

すると確かに、これは友人の人生であることに気づいた。

三巻になると、高校時代の僕が登場した。友人目線で書かれているこの漫画には、僕に対する第一印象がありありと書かれていた。

「ははは。そんなこと思ってたのかよあいつ」

何も知らずに読むと、ただの平凡な日々が描かれた漫画だが、友人の人生だと知って読むと、確かに面白い。

僕は気づくと夢中で漫画を読んでいた。

「ああ、もうこれで最後だ」

少し寂しい気持ちになりながら、最新の巻を手に取った。

「これ、今日の話じゃないか。ついさっきの事まで書いてあるなんて。流石に気味が悪い。そもそもこんな漫画、いったい誰が描いているんだ」

背表紙に目をやると、そこには僕の名前が書かれていた。


「ああ、そうだった」

僕は、ふと我に返ると、作業台に戻り、存在しない友人の話をまた描き始めた。

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