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見えない湖 15

 島に降り立つと、何軒か家がある。その背後には山がそびえ立ち、木々が生い茂っていた。浜辺もそんなに大きいものではなく、山までの距離は短い。
 ダンさんと僕は、船を水が来ないところまで運んだ。ダンさんは慣れた手つきで船を浜辺に立っている棒にくくりつける。幾度もこの島に来ているかのような手つきだった。しかし、ダンさんの表情は明らかにいつもと違い、緊迫感が出ていると気付いた。
「風が気持ちいいね。今日もいい日になりそうだ」と、ダンさんはいつものように言ったが、明らかに空回りしているように聞こえてしまう。
 家屋はほとんどが木造建築だった。屋根は瓦で、大きな農具を置いたり、洗濯機を置く場所はトタンで仕切られている。家々をブロック塀で囲まれた様子はなく、家屋がむき出しで地上に出ている。
 最初に見当たる一軒家に近づいていく。玄関まで行き、玄関の扉を開ける。不用心にも程がある。扉を半開きにして、その間からダンさんは「いらっしゃいますか」と大声で叫ぶ。しかし、返事はない。「もしかして」と言って、斜め後ろにある家に向かい、その家も同じように中の人を呼んだ。しかし、返事はなかった。ダンさんは「やはり」と言って、足を進めていった。右方向に道が続いている。山を迂回するように道が続いている。
木が生い茂る山に沿って歩いて行く。明らかに僕たちが住んでいる場所とは雰囲気が違う。賑わいがあまりなく、人が住んでいるようにも思わなかった。進んでいくと数件の家が見えた。沿道でマラソン選手を応援するように、まっすぐ続く道沿いに家々が並んでいることに気付いた。だが、歓迎されているという気持ちにはならなかった。歩いて進んでいく。
 肝心なことが僕には分かっていなかった。この島の中で何をするかだ。ただ、ダンさんの指示に従い来たはいいものの、何をするのか分からないとやはり不安は増す。
道沿いに進んでいくと、初めて道が二手に分かれていた。右側には大きな館が見え、左側は、先が見えない山道が続いていた。
 ダンさんは迷わず、右の館に向かって足を進めた。左に行かない事にホッとした。左にそびえ立つ山は僕を拒んでいるようにも思えた。
大きな館は、館と呼ぶよりも学校と呼んだ方が正しい。建物の前には大きな広場があり、その広場を取り囲むように木が立っていた。玄関から繋がるまっすぐな道を歩いて行く。誰からも阻害されることがないようなそのたたずまいに、不思議と緊迫感が芽生えてきた。
 正門を抜けて建物に足を進める。玄関の扉は人が入ることを想定しているように開け放たれていた。
「ここから行く世界に、君は困惑するかもしれない。けど、ちゃんと見て欲しいと思ってる。帰りたかったらいつでも言ってね」ダンさんは、扉を片手で持ちながら僕に言ってきた。いつもとは違うダンさんの表情に一番困惑した。体中が硬ってくる。

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