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短編物語:【光の帰郷】~感動する物語をあなたへ~

光の帰郷


ある小さな町に、山田という老いた木工職人が住んでいた。

彼の工房は古い木の香りと手作りの温もりに満ちており、町の人々から愛されていた。

山田の手から生まれる家具やおもちゃは、どれも愛情を込めて作られており、特に子供たちにとっては宝物だった。

しかし
数年前、山田は最愛の妻・美智子を亡くしてから、心の中にぽっかりと穴が開いたような気持ちを抱えていた。

彼の手は相変わらず巧みだったが、その作品からはどこか陰りが感じられるようになっていた。

そんなある日、山田の工房に一人の少女が訪れた。

彼女の名前は彩香。

大きな瞳を持ち、明るい笑顔が印象的だった。
彩香は町に新しく越してきたばかりで、母親と二人で暮らしていた。

「こんにちは、おじいちゃん。私、彩香っていうの。おもちゃを作ってるって聞いて、見せてもらいたくて。」

山田は少し驚いたが、優しく微笑んで応じた。
「こんにちは、彩香ちゃん。入っておいで。何か好きなおもちゃはあるかな?」

彩香は目を輝かせながら、工房の中を見回した。「全部素敵!でも、特にこの木馬が好き。これ、私のお気に入りにしてもいい?」

その瞬間、山田の胸に温かい何かが芽生えた。
彼は彩香の無邪気な笑顔に、美智子の面影を重ねていたのかもしれない。

「もちろんだよ、彩香ちゃん。この木馬は君のものだよ。」

彩香は嬉しそうに木馬に乗り、それ以来、頻繁に工房に通うようになった。

彼女の明るさは、山田の心に少しずつ光を取り戻していった。

ある日、彩香が山田に一枚の絵を見せてきた。

それは、美智子と山田が一緒に笑っている姿だった。

彩香はこう言った。
「おじいちゃん、これは私が夢で見たおばあちゃんとおじいちゃん。おばあちゃんが、おじいちゃんにもっと笑ってほしいって言ってたよ。」

その言葉を聞いた山田の目から、自然と涙がこぼれ落ちた。
「ありがとう、彩香ちゃん。君のおかげで、また笑えるようになったよ。」

彩香の母親も、山田の工房を訪れるようになり、彼らは次第に家族のような存在となった。

山田は彩香と一緒に様々な作品を作り、その一つ一つに彼の新たな希望と愛情が込められていた。

そして
ある日の夕暮れ、山田は工房の外に小さな公園を作ることを決めた。

そこには彩香と彼が一緒に作った遊具が並び、町の子供たちが集まる場所となった。

公園の中心には、美智子への感謝と愛を込めた大きな木の彫刻が立っていた。

その公園は【光の帰郷】と名付けられ、山田の心の光が再び戻った場所として、町の人々にとっても特別な場所となった。

彩香の笑顔と共に、山田の工房には再び暖かい光が溢れ続けた。

年月が過ぎ、山田はその公園で子供たちに囲まれながら静かに息を引き取った。

その日も、彩香は木馬に乗っていた。
彼女の瞳には、愛するおじいちゃんへの感謝と、これからも続く未来への希望が宿っていた。

山田の工房と「光の帰郷」は、町の人々にとって永遠の宝物となり、彼の心の光は永遠に輝き続けた。

最後まで読んでいただきありがとうございます♪

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