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小説 『その扉をたたく音』は、ノックなんかしない人だらけの話だった

『そして、バトンは渡された』を書かれた瀬尾まいこさん。 今回もタイトルがキーになると思ったこの小説。 いやいや、扉をたたく音なんかしやしません。 30歳を目前にして親の仕送りで生きているアマチュアミュージシャンの宮路が、老人ホーム「そよかぜ荘」の演奏会で出会った遠慮も問答も無用な人々との交流により、現実世界が動いていくというこのお話。 サックスが上手いことにより宮路にバンドを組もうとけしかけられ、そのうち泣き虫の宮路へぐだぐだ言わずに歌えとけしかけるようになる介護士の渡部君。

小説 『余命10年』~「ひとりぽっち」から感じること

人は必ず死ぬ、その過程はそれぞれ違うもの。 2007年に上梓され、2017年に加筆・再販されたこの小説には、再販の直前に病死した作者・小坂流加さんの最期の遺志が記されています。 それが特に表れているのが物語の終盤第21章で、病室で死へと近づいていく主人公・茉莉の内面を通して切実に伝わってきます。 私はこの章を読んで、死の一つのかたちを教えられました。 そしてそこには、あの歌が流れていました。 臨死体験をした者にしかわからない感覚、肌身に感じた恐怖が伝わってきます。 必ずやっ