見出し画像

走れカッパ 其の三

よく続いたね。

役員たちとの異動についての緊迫したやり取りを終えたカッパは、一日の体力気力の大半を使い果たしていた。役員にとって社員とは将棋の駒同然。地方へ飛ばそうが辞めさせようがあまり感情が湧かないらしい。
とりあえず、大掛かりな異動だけでも避けられたのは、脳内でのリハーサルの賜物だったなとひと安心。

這々の体で自席に戻ると、直属の上司マイクが待ち構えていた。育ちが良いのか、常に口元に笑みを携えている。
「ねねカッパ氏い、さっき役員たちと話し込んでたよね?あれ何話してたの?」と単刀直入に切り込んで来たものだ。咄嗟に、人事マターは公表前に話してはいけないのでは、という防御案が0.00001秒くらいよぎったのだが、結局話す事にした。


要点をまとめて手短かに報告していると、手短かにも関わらずやや食い気味に「そっかあキミも大変だよね、大体俺なんかも代わりが居ないからさあ…」と話し始めたのが運の尽き。さり気なく二言目から自分の話にすり替わってるし。合いの手を入れる隙も無く、さっきの役員の悪口に着地して悦に入って語り続けるところに、往年の名コンビ・ハナサーズも合流してマイク・ハナサーズ爆誕。身の上話が加速。話題はコロコロ変わり、いつのまにかフィリピンパブの話に。「ママが電話番号教えろってうるせえから会社携帯教えたら、昼間の商談中に掛けて来やがってさあ、声でかいから漏れてるっつーのよwww」周りで黙って仕事していた同僚も巻き込んでなんか大爆笑してる。・・・あれ、おれは何の話をしていたのかな?ここおれの席なんだけど、そろそろ退いてもらえないかなあ?
そんな自分が滑稽な気がして。
カッパはひどく赤面した。

みんな他人になど興味は無いのだ。ただ、自分のポジションを死守することと、会社がそこそこ順調であればいい。あとは面白い事に飢えているだけ。わかってる。
トイレに行くふりをして席を離れた。こういう時にまだ喫煙者だったら一服しに行くだろうが、もう吸っていないので結局トイレに行った。
マイクとハナサーズの甲高い笑い声と、周りの輩の愛想笑いの声は、トイレの個室にまで響いていた。
おれもしばらく安泰だな、とカッパはスマホを開いた。

国王に会いに行くのをすっかり忘れていたが、もはやどちらでも良かった。
(ハッピーエンドってことで)