走れカッパ 其の二

前回:

王国に呼び戻されたカッパの前に待っていたのは、先日ウェブ面談をした役員と、更にその上長の役員・暴君サンイチであった。彼は村を束ねる、実質国王直下2トップの一人だった。サンイチは、冗長な前置きと叙情を込めた上々な駄洒落を披露した挙句、おもむろに
「これ以上シン・鬼ヶ島で何をするつもりであったか。言え!」静かに、けれども威厳を以て問いつめた。無駄に広い役員室に響き渡る声。その顔は酒灼けで、10代にツーリング倶楽部で潰したという、喉から出る天龍のようなしゃがれ声が、彼の人生の全てを物語っていた。
「仕事だ!邪魔すんなや。」とカッパは悪びれずに答えた。張り合おうと思ったが全然声は響かなかった。
「おまえがか?」役員たちは憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしらの孤独がわからぬ。」
「言うな!お前らが言うな!この酒灼け!」とカッパは、いきり立って反駁した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。役員どもは、民の忠誠をさえ疑って居られる。」
「酒灼けではない。ゴルフ焼けだ。人の心は、あてにならない。信じてはならぬ。」暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはカッパが嘲笑した。「罪の無い人をトバして、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」サンイチは、さっと顔を挙げて報いた。

そしてニヤリと笑って言った。「お前はこれからおれの直属の部下になるのだ。お前がおれに言った暴言はそのまま、お前がこれからやる仕事なのだ。ブーメランでお返ししますわよ。後で泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「あう・・・直属ですか?村から出ろと?」
動揺するカッパに暴君サンイチは、勝ち誇ったように続けた。
「そうだ。お前の立ち回りは少々、村の規模を超えている。もう面倒見れないという民の声も上がっている」
「そ・れ・は・で・す・ね」カッパは少々前のめりになった。血圧が少し上がった。「貴方が私の配下の者共を地方の村に分散させてしまったからです。新しい戦闘(プロジェクト)の度にパーティー全員呼び寄せるの、んもう大変なんだから」ふーん!とカッパの鼻息が荒くなった。

「ですがもし、私の願いを聞いてもらえるならば」カッパは少し俯いてから続けた。「現在、手塩にかけた優秀な戦士が2名、私の村におります。私とこの2名がいつもパーティーを組ませてもらえるのなら、地方の村まで遠征しなくても良くなるので、自給自足で賄えるというわけです。そうすれば、シン・鬼ヶ島の仕事ももっと効率を見込めます。どどーんとこなしてババーンと売り上げて、んもうガッポガッポですわ!!」

サンイチは急に饒舌になったカッパに目を丸くした。「そうなの?じゃあおれの下に付いてくれないの?実はさあ、国王がお前を上げろ上げろってうるさいんだよなあ。おれも国王には逆らえないからさあ・・・」
「はい、お気持ちは大変嬉しいのですが、サンイチ様直属にならなくても、ちゃんと組織を作れば仕事は全う出来るのです・・・って国王が??」

役員と暴君とカッパは妙に和気あいあいな感じになって、あとはやっとくよ、と一方的な感じで濁されて会議は終了したので、結局どうなるのか分からずじまいだった。
近いうちに、国王とも面会しなくてはならないとカッパは思った。
王国に十年に一度の寒波が訪れようとしている、冬の日のことだった。(つづくのか)