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ブックレビュー「科学的な適職」

まずタイトルがEye-catchingだ。「4021の研究データ」「科学的」、そして「最高の職業の選び方」。今やデジタルメディアに押されて肩身の狭い紙メディアで生き残るにはこういうProduce力は必須なのだろう。

タイトルがEye-catchingだとは言え、今や残りの就業人生は短く、自分自身がキャリアを悩む可能性はほとんどない。それでも本書に興味を持ったのは経営人事コンサルタントという職業柄、キャリアを避けてはコーチングが不可能だからだ。

もちろんキャリアに関する知識が無くても、これまでの自分自身の経験でコーチングが出来ない訳では無い。ただ自分自身どれほどキャリア面で悩んだのかというと、それほどでも無いので、どうしてもこういった「科学的」という言葉に惹かれてしまう。

著者によると本書の目指すゴールは

みなさんの仕事選びにおける意思決定の精度を高め、正しいキャリアを選び取る確率を上げ、最終的に「人生の後悔」を限界まで減らすこと

「科学的な転職」鈴木 祐

にあるそうだ。

このゴールが果たせるのであれば、私も間違い無く若い頃には購入したことだろう。

著者はAWAKEという5つのステップで職業選択が「正しく」なるという。

そのステップとは

  1. 幻想から覚める(Access the Truth)

  2. 未来を広げる(Widen Your Future)

  3. 悪を取り除く(Avoid Evil)

  4. 歪みに気づく(Keep Human Bias Out)

  5. やりがいを再構築する(Engage in Your Work)

の5つである。

ただ働き盛りで忙しかったり、ライフステージで家族や子供に多くの時間を割かないといけない人たちにとって5つものステップに従うのは相当大変だろう。

その意味では5つのステップを愚直に進めるよりも自分の悩み事に沿って一番フィットするステップを選び、そのエッセンスを理解して参考にするのが良いだろう。

例えばまだ自分の職業選択自体に迷っている人は、一つ目の「幻想から覚める」を、既に職業を得ているがキャリアの将来に一抹の不安を持っている人は「未来を広げる」を、もしかすると今の職場は最悪ではないかと考え始めた人は「悪を取り除く」を、転職自体は決めたがどこを選ぶのかに迷った人は「歪に気づく」を、職場や仕事自体には不満は無いが一抹の不安がある人は「やりがいを再構築する」から始めればよいだろう。

個人的に一番面白かったのは「幻想から覚める」。

自分の好きなことを仕事にしようがしまいが最終的な幸福感は変わらない
・適合派(=好きなことを仕事にした人)の幸福度が高いのは最初だけで、1~5年の長いスパンで見た場合、両者(成長派=仕事は続けるうちに好きになるものだ)の幸福度
・割り切り派(仕事は仕事と割り切って日々の業務に取り組むタイプ)の方が仕事の上達が速く、すぐに仕事を辞めない傾向がある
仕事に情熱を持てるかどうかは、あなたが人生で注いだリソースの量に比例する
給料と仕事の満足度は「r=0.15」の相関係数しかない(註:1に近いほど関係が強い)
・私たちの幸福度が年収400~500万円のあたりから上昇しづらくなる可能性は高い
・給料アップによる幸福度の上昇は平均して1年しか続きません

「科学的な適職」 鈴木 祐

もちろん上記の内容は薄々は気づいていたもののこれだけしっかりと伝えられるとスッキリするし、若い人へのコーチングの際にも十分活用できる。

それ以外の4つのステップの内容は、多かれ少なかれHRの仕事で馴染みのある考え方だったので新たな学びとまでは言えなかったが、若い人には参考になるだろう。

著者はプロフィールによると10万本の科学論文を読破し、600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねたというから相当な努力をされた方だと思う。また全体的に大変読みやすくまとめてあると思う。

これまで述べた通り、内容的にはほとんど違和感は無かったのだが、一つだけ適性判断のところで、「どの手法も就業後のパフォーマンスを測る役には立たない」と断じていることについては、疑問を感じた。

単独の手法についての信頼度は高くないかもしれないが、それらを複数組み合わせることで信頼度は上がる、といのが実務家レベルでの理解なので「適性判断は役に立たない」と断定するのは言い過ぎではないかと思う。

とは言え全体的には若い人にお薦めできる本だと思う。

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