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ブックレビュー 木崎賢治著「プロデュースの基本」

先日「国道16号線 日本を創った道」の著者である柳瀬博一さんのFacebookを見ていると、レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長で最高投資責任者である藤野英人氏の未上場企業の見極め方の経験則がシェアされていて大変興味深く拝見した。

ここで要旨を紹介すると、

・未上場企業を分類すると「でたらめ」、「スマート」、「社会貢献」、
「グレイト」の四つに分けられる。
・創業したらだいたい9割が「でたらめ」で3年以内に破綻する。
・「スマート」はいわゆる偏差値とか関係ない頭の良さを持つ経営者。「ヤンキーの虎」はだいたいこんな人。
・「社会貢献」は目線が高すぎて、十分な利益を挙げられず、結果的に自分の得られるべき利益を他のステークホルダーに結果的にわけあたえることになる人。
・「グレイト」はめったにいないが、右肩上がりに成長をすることができ、一定の新規性をもったビジネスをできる人。「社会貢献」と近い匂いがするが、バランスが良い。
・「でたらめ」は経験を積むと割とすぐにわかる。「でたらめ」を除いた残り100の中で稼ぐ能力と工夫の少ない人たちをのそいて10社までしぼれる。
・そこから3社(IPOまで行く会社は1000に3つくらいで千三(せんみつ)という)で打率三割。ベンチャーキャピタルで優秀な人はこの打率三割の人。

どうしてこの藤野さんの話が今回の「プロデューサーの基本」と関係があるかと言うと、今日のブックレビューの著者である木崎さんは上記分類で言うと「スマート」な人なんだろうな、と思ったからだ。

私の出身中高はいわゆる一貫6年生で、京阪神では受験校の一つだったが、同級生のキャリアを見ていると、商業的に最も成功している人は皆この「スマート」を身に着けているように見える。彼らの多くは偏差値競争では優秀では無い、あるいは学校からドロップアウトした人たちで、まさに「ヤンキーの虎」だ。

もちろん人生の成功は商業的な成功だけでは判断できない訳で、彼ら自身が人生全体を幸せに思っているかどうかはよくわからないが、ビジネスという切り口で言うと、彼らの行動を見るにつけ、やっぱり偏差値では無くて「スマート」かどうかが大切なんだろうな、と前から思っていた。

本書は、著者である木崎さんという渡辺音楽出版出身のプロデューサーが、いかに関わった人たちを「売れるミュージシャン」に仕上げていったかを書いた本で、その意味で「ヤンキーの虎」的だ。そして、そのストリートファイト的な生きざまには学ぶべきところが多い。

例えば一般論と異なる逆説的な言説が多い。

・部分を見ることで、本質がわかる。
・意識して逆から見る。
・自分の感性を信じることが大切。
・「新しいもの」とは新しい組み合わせのこと。
・違うと思ったら逆方向に行ってみる。
・聴いてよかったら法則はあっさり破る。
・強制的にドキドキワクワクする。

などが彼の実際に直面したエピソードを交えて語られる。

こういった話は、暗黙知を形式知にしてはいるが、決して理論化されたものでは無く、むしろ「けんか殺法」のような技術に思える。そこには理論のように首尾一貫したものは必ずしも無く、「売れればなんぼ」の世界で学んだ知恵、すなわち「スマート」さなのだ、と感じた。

彼が渡辺音楽出版時代に手掛けたミュージシャンには、アグネス・チャン、沢田研二、山下久美子、大澤誉志幸、吉川晃司、独立後に槇原敬之、トライセラトップス、BUMP OF CHICKENがある。正直、沢田研二を除いて私の好みのミュージシャンでは無い。が、それらのミュージシャンを「売るため」の「スマート」さにはテーブルで議論した学術的理論には無い説得性がある。

実は私は今月から社会情報大学院大学の実務家教員養成課程をオンラインで受講中で、今日の講義でも「実務家としての暗黙知をいかに形式化して実践の知識とし、かつそれをメタ知識化(要は実践の知識がどこでどのように効果があるのかをしっかり示すこと)することができれば実践の理論になる」と学んだところだ。

木崎氏の場合、そのストリートで学んだ「スマート」を実践の知識とまですることに関しては本書で成功しているのだと思う。それをもう一歩進んでメタ知識化すれば、「実践の理論」としてより広く多くの人に効用のあるものになる、のではないかと思う。

直接には関係無いが、先の藤野さんの「千三」は面白い統計数値のような気がした。私もよく専門分野である人材開発で、ハイポテンシャル人材は大体全体層のどれぐらいいるものか、という質問を受けるが、その時にある根拠から3-5%と答えて来た。千三つはさらにその1/10ということ、で相当少ない。そう考えるとやっぱり私はインデックス・パッシブ投資が性に合いそうだ。

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