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小田嶋隆の本を三冊読んで「中二病」について考えた


日経ビジネスオンラインで連載している小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句を楽しみにしている。コラムニストの小田嶋氏が「引きこもり系」で「上から目線」という独特なポジショニングと炎上覚悟の批評的な切り口で時には強引な自らの意見を披露してくれる。

今回小田嶋氏関連の本「もっと地雷を踏む勇気」、「超・反知性主義入門」・「いつだって僕たちは途上にいる」を三冊まとめて読んだ。

最初の二冊は「小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句」を書籍化したものなので、一部は過去オンライン掲載時に読んだはずのもの。ちなみに「反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体」著者の森本あんり氏と小田嶋氏は小学校から高校まで同級生で、「超・反知性主義入門」には二人の対談が追加されていて面白い。

「小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句」は大体毎回世間が賑わっている時事問題を扱う。例えば「もっと地雷を踏む勇気」では

2011年10月 ウオール街でデモ
2011年11月 衆議院議員「トロイの木馬」に感染
2012年1月 オウム平田容疑者警察に出頭
2012年1月 朝日新聞が成人式で尾崎豊を引き合いに若者にカツ
2012年3月 東日本大震災後一年
2012年4月 神戸の食品メーカーの入社式で女子社員がバージンロードの儀式
2012年6月 大飯原発再稼働
2012年6月 AKB48総選挙
2012年9月 大阪市市職員に政治活動・組合活動について業務命令でアンケート調査

が題材となっている。

「超・半知性主義入門」では

2013年10月 阪急阪神ホテルズ「芝エビがバナメイエビだった事件」
2013年12月 猪瀬東京都知事(当時)医療法人徳洲会グループから資金提供
2014年6月 東京都議会で女性議員に「早く結婚しろよ」「子供もいないのに」のヤジ
2014年7月 長崎県佐世保市同級生殺害事件
2014年7月 兵庫県議会野々村議員政務活動費使途不明問題の記者会見で号泣
2015年1月 パリ「シャルリ・エブド」本社テロリスト襲撃

などが挙げられている。

我ながら恥ずかしいのは、それぞれ大きな事件なのにも関わらず、恐ろしいほど時間とともにいくつかの事件を忘れつつあることだ。古いので9年前、新しいのだと5年前だ。忘れるのは悪いことでは無いが、少なくとも小田嶋氏のようにこういった事件がある度に自分の考え方を整理するのは習慣とするのが好ましい(商売にはならなくても)。反省

さて、もう一冊の「いつだって僕たちは途上にいる」は小田嶋氏の高校時代の友人岡康道氏(クリエイティブディレクター、CMプランナー)との日経ビジネスオンラインでの対談「人生の諸問題・シーズン3」を書籍化したものだ。お二人とも1956年生まれなので私よりも6年上で、岡氏は今年の7月31日に急逝されている

「いつだって僕たちはと途上にいる」は対談形式なので前二冊とは少し様相が異なる。岡康道氏とメディア、コンテンツ、「青春の5本(映画)」、「青春の5冊(本)」、「課題映画」などの話題を中心としながら、日経新聞社の船頭役がうっかりするとどんどん脱線しまくるやりとりが持ち味だ。旧友同志のため幼稚園時代から大学時代、社会人時代の幾分恥ずかしい(?)エピソードが散りばめられているのも面白い。他人の同窓会での会話を横で聴いているような気持ちになる

彼らの「青春の5本」の会話の中で「中二病」という表現が出て来て、編集者に「(二人とも)中二病であることが分かりましたね」と指摘される場面がある。

さて私自身この「中二病」というのはわかったようでわからない言葉だったのでネット検索してみた。

まずWikipediaでは

「(日本の教育制度における)中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。 転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング

とある。ネットで生まれたスラングらしい。

ニコニコ大百科では

中学2年生(14歳前後)で発症することが多い思春期特有の思想・行動・価値観が過剰に発現した病態である。多くは年齢を重ねることで自然治癒するが、稀に慢性化・重篤化し、社会生活を営む上で障害となることがある。特異的な身体症状や臨床所見は見出されていない。
共通するのは自分を良く見せようとする自己顕示欲、あるいは自己陶酔、少年期による心の悩みなどである。またこの他にも個々の症例において特徴的な症状が存在するため、注意深い観察が必要である。「本当の自分を探す」等と言いはじめたら危険。即座に治療を開始する必要がある。

とあり、さらに「中二病」に元々脚光を浴びせたと言われる伊集院光氏が、彼の番組のリスナーと発見した症状例として次のようなものを挙げている。

急に親に冷たい振りをする(母親をおふくろやおかん呼び・プライバシーを尊重してくれなど)
・愛想が無くなり孤独を好むようになる(いわゆる“孤高”)
・突然ブラックコーヒーを飲みだす
急にロックや洋楽を聴き始める
ロングコートやマントに憧れ銃やナイフを携帯したくなる
・学校が武装集団に占領されて自分1人で戦う事を妄想する
・やれば何でもできるかのような万能感を感じるが、実際に行動に移すことは少ない
・メディアやインターネットで仕入れた知識を自分の考えであるかのように語る(『アメリカって汚いよな』など)
・上記に付随し、見た・聞いた知識を経験として語る。売上で優劣を付け人気作品を人気が出る前から知っていたなど
様々なものを批判しはじめる一方、ある種カルト的なものを崇拝する

なるほど。平井和正や大藪春彦を読んでマッチョでニヒルな女性関係に事欠かないヒーローになり切ったつもりになったり、レッドツエッペリンエアロスミスを初めとする洋楽ロックを聴いてその自堕落なSex, Drugs and Rock'n’rollなライフスタイルを羨み、ロッキンオンの岩谷宏をカルト的に崇拝してキングクリムゾン・デビッド・ボウイ・ロキシーミュージックに音楽趣味が移り、パンク・ニューウエーブから反権威主義を学び、Quadropheniaを観てスティング演じるモッズのリーダーに憧れたのは、まさに「中二病」だったのか(ちょっと期間が長すぎるかな?明らかに「高二病」もダブっている。)。

二人の対談で小田嶋さんは自らの「中二病」を開き直って、次のように締めくくっている。

小田嶋 ちゃんと組織で揉まれた人間は、そこのところ角が取れていくのかもしれないけど、そこを嫌だ、と言って俺も岡も組織から出ちゃった人なわけだから、その中二的な変な角がちょこちょこ、ちょこちょこ出るわけでしょう。
岡 取れないですよ。
小田嶋 だって日本で中二病から離れたおじさんって、東電の社長とか、民主党の上の方のおじさんとか、ああなっちゃうんですからね。
岡 あれか、中二病か、といったら、こっちしかない、選択肢が
小田嶋 あるいは間違えた病気の守り方としては、長渕剛みたいになっちゃうとか。
岡 なっちゃう(笑)。
小田嶋 長渕にならない、というのも、これはこれでなかなか難しいことなんだけど。

そうなんだ。「中二病」がちょこちょこ出るということは角が取れていないことでもあるんだ。それなら私もこっちしか無いな。

岡氏の手掛けたCMは「その先の日本へ」(JR東日本)、「モルツ球団」(サントリー)、「湯川専務」(セガドリームキャスト)、「カードの切り方が人生だ」(ライフカード)、「ペプシ桃太郎シリーズ」(サントリー)、「1UPシリーズ」(住友生命)、ふるさと納税サイト「さとふる」、「黒ラベル 大人エレベーター」(サッポロ)など。対談で語られる「環境が劣悪で、這い上がるストーリー」「泣かせる」「忠誠心や結束」映画好きの意味がよくわかる。

素晴らしき世界観。合掌。





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