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ブックレビュー「筒美京平の記憶」

近田春夫氏のブックレビュー「調子悪くて当たり前」で彼の師匠が筒美京平と内田裕也であることを改めて認識したが、2020年10月7日に亡くなられた筒美氏のミュージックマガジン追悼特集号である本書はその近田春夫氏の二つのインタビューで始まる。近田氏の筒美氏に対する評価が鋭くわかりやすい。

いいメロディを思いつく能力とスコアを書ける能力というのは別ものだよね。京平さんはその二つを兼ね備えていた
「やっぱりポップスって消耗的なものだし。”一生かけてこの曲を歌います”みたいな悲壮感とは、京平さんの音楽哲学は相いれないものがあったんだと思いますね。」
「あとは本格的な人より、ちょっと軽い人に書くんだよね。例えば山口百恵には書いていない。」

近田春夫インタビューより

近田春夫氏の筒美京平愛はハルヲフォン時代からよく知っていたし、またその影響からCD4枚組の「THE HIT MAKER-筒美京平の世界」も一通り聴いていたが、今回この特集号で筒美氏についてより深く知ることができた。特にご本人のインタビューでの自己分析が面白い。

「音楽を作るっていうのとヒット曲を作るっていうのはちょっと違うような気がする。音楽を作りながらその線上でヒット曲を作るってことが面白かったんじゃないかな。いつも上澄みみたいなのばっかしすくおうとしているわけだから。」
「ヒット曲って波があるから。調子が良く出るときもあるしダメなときもある。そういう波が下がったときに、もう好きなものに行きたいなって気持ちと、やっぱりこれをやるべきだっていう気持ちに分かれますよね」
シンガーソングライターの人の場合、ある意味で曲が幼稚でも、その人の表現方法が新しいからよく聞こえる。それが強みですね。(中略)でも、我々のほうは幼稚な曲だけを並べるわけにいかないから、必ずひねってくるわけでしょ。ひねったぶん、わかりにくくなっちゃう。そうするとシンガー・ソングライターの人に負けちゃう。」

筒美京平インタビュー

私は13-14歳ぐらいからロックやソウルの洋楽にはまり、これまで歌謡曲を避けようとして生きて来たが、それ以前は歌謡曲で育っていた訳で身体にも心にも沁みついている。

そして当然その中には筒美作品の数々があった。そういう名曲群(とそのアレンジの元ネタ)は本文の最後のApple MusicのPlaylistで聴いていただくとして、ここでは今やApple Musicでは聴けないものなど珍しい楽曲から素晴らしい作品をYouTubeでいくつか紹介したい。筒美氏の洋楽愛とそれをいかにプロとして歌謡曲に昇華していったかを理解する上での一助になろう。

1.  ダンシング・セブンティーン by オックス 

若い人にはGS(グループサウンズ)というブームがあったことから始めないといけないかもしれないが、そのGSの中でもオックスはファンのみならずボーカルの野口ひでと等メンバーが自ら失神することで有名だった伝説のバンド。そのオックスの第二弾がこれ。歌詞とサウンドの絶妙なミックスが筒美・橋本コンビの真骨頂だ。野口ひでとは後に真木ひでととして演歌歌手に転じる。

2. にがい涙 by The Three Degrees

昨年だったか近くのセカンドハンドショップで彼らの”Live in Japan”に巡り合ったが、それを聴くとメンバーがMCで日本語を交えて何とか話しかけるが観客とコミュニケーションがとれなくて困惑するところが可愛らしく好感が持てた。本曲は作詞:安井かずみ、作曲:筒美京平、編曲:深町純で、演奏はドラムスがポンタ、ベースが高水健司、ギターが矢島賢。

3. 冗談じゃない朝 by 平山みき

郷ひろみと並んで筒美京平が好んだ変わった声の持ち主である平山「みき」が作詞秋山康で87年にドラマの主題歌として発表したこの曲は、当時流行していたSwing Out SisterやThe Blow Monkeysの”It Doesn’t Have To Be This Way”がモチーフとして使われている。今回この本を読んで思い出したが私はこのシングル盤を所蔵している。名曲です。

4. 筒美京平AORシティポップ

筒美京平さんは他にもAORシティポップの名曲を数多く書いているがこのYouTubeはそれをすべて網羅しているので便利。松崎しげるの「銀河特急」はBoz Scaggsの”Hollywood”とそっくりで隠れた名曲。

5. Good Luck by 野口五郎

野口五郎もApple Musicで公開されている曲が少ないが、フュージョン好きだったこともあってAOR・フュージョン風の曲が多い。2014年に坂本慎太郎がカバーした。

6. 愛なき夜明け by アウト・キャスト

水谷公生が在籍したGSアウト・キャストで水谷自身が「とにかく普通の曲には興味が無い。AmのキーならサブドミナントのDmから始まる曲を」とリクエストしたところその通り筒美が書いてきたので驚いたという曲。

7. Dr.ドラゴン&オリエンタル・エクスプレス

日本の第一次ディスコブームに筒美が匿名でリリースした曲群で、日本発の”疑似洋楽”として全国的なヒットを記録した。バックはピアノが矢野顕子、ギターが鈴木茂、ベースは後藤次利、ドラムスが林立夫。その後筒美はディスコ歌謡の名曲を連発する。Sexy Bus Stop、ハッスル・ジェットは後に浅野ゆう子が、ピーナッツはブルーコメッツが歌い入りでカバー。

8. Last Train by 宮本典子

赤坂の伝説的ディスコ「MUGEN」から出て、後にJazz界に転じた宮本典子の本曲は、John Paul Youngの”Love is in the Air”がモチーフ。

9. 恋の弱み by 郷ひろみ

二十歳になった郷ひろみが大人への変身を図って到達したR&B/ファンク歌謡の金字塔。何と言ってもイントロと橋本淳の歌詞が格好良い。私はこれをハルヲフォンのアルバム「電撃的東京」でのカバーで知った。

10. 真夜中のエンジェル・ベイビー by 平山三紀

フィリーソウル調が多かった平山がロック調で疾走する名曲。こちらも私はハルヲフォンのカバーで知った。こちらも歌詞は橋本淳。

Apple Musicで作ったPlaylistの前半は、元ネタと筒美作品を交互に、中盤以降は筒美作品の名曲を並べてみた。こちらで存分に筒美ワールドを味わって欲しい。


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