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ブックレビュー”Factfullness”(邦訳本タイトル「FACTFULNESS-10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣-」)

2019年に発行されすぐにベストセラーになった「FACTFULNESS-10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣-」。

2021年4月1日時点で私の住む川崎市の図書館では所蔵数が37冊で予約数が767件。一人の予約で3週間循環するのにかかるとすれば、62週間待つ必要がある。今回それを避けるには効率は下がるが英文原書で読まざるを得ない、と渋々判断した。

実際読んでみると英文はかなり平易で、あまり英語で本を読むことに慣れていない人にもとっつきやすいと思う。著者が英語のネイティブで無いことも理由になっているのかもしれない。

さてこの本を読んだ最初の感想は、これはいわゆる「無意識のバイアス」に関する本だ、ということだ。

会社勤めをしていた時代、インクルージョン&ダイバーシティを担当していたころ、グローバルに「無意識のバイアス」のトレーニングを企画したことがあって、参考にした資料の一つにGoogleがre:Workで公開している無意識バイアスのワークショップ向けのスライドがあった。

そのGoogleのスライドの冒頭のエピソードで、無意識のバイアスの有効性と限界についてのものがある。正確な内容では無いが、次のようなものだったと思う。

「あなたが原始時代に生きていて、洞窟に住み、狩猟生活をしていると想像してみましょう。そこであなたは偶然ライオンに出会います。この時当然あなたは本能的に逃げ出すべきでしょう。もしあなたが冷静に、これは髪の毛の長い動物で、色が茶色で、猫の大きなような動物だ、と時間をかけて分析していたらあなたの命は無いでしょう。本能に基づく判断、すなわち無意識のバイアスはこのように必要な場合があるのです。しかし同時に時にはこのような無意識のバイアスが誤った判断を導く可能性もあることを忘れてはなりません。」

すなわち無意識のバイアスは、生き残るための本能として人に組み込まれたもので生死に関わる判断には必要不可欠であるが、そのおかげで逆に拙速の余り誤った判断をすることもある、ということを学ぶのが無意識のバイアストレーニングの根本であった、と理解している。

本書は1948年にスエーデンに生まれ統計学と医学を学んだハンス・ローズリングとその子供であるオラとアナが共著者としてクレジットされているが、主には父親であるハンスの世界中の国での医療経験と講演経験に裏打ちされた事実に基づいて書かれたものである。

彼自身の大きな失敗を踏まえて、人が事実に基づいて判断しない理由を10挙げている。

・The Gap Instinct(分断本能)
・The Negativity Instinct(ネガティブ本能)
・The Straight Line Instinct(直線本能)
・The Fear Instinct(恐怖本能)
・The Size Instinct(過大視本能)
・The Generalization Instinct(パターン化本能)
・The Destiny Instinct(宿命本能)
・The Single Perspective Instinct(単純化本能)
・The Blame Instinct(犯人捜し本能)
・The Urgency Instinct(焦り本能)

著者はマスコミの報道に誤りを多く見るが、決してそれを事実に基づく意思決定をしないことの犯人とはしない。また同様にとかく社会的な問題を政治家などに押し付けることもしない。むしろ本質的な問題は一人の犯人を挙げることで解決するものでは無く、むしろシステムそのものに問題がある、という。

統計について常に単純に二律背反で見たがるため、見逃されている事実があり、また解決する問題が見えにくくなっていることも指摘する。過去のトレンドを直線で予測しがちなことも危険だ、という。

人間はそれほど変わらない、という考え方も人材育成でよく耳にするが、宿命本能に近いもののように思う。

また次から次への意思決定を求められるビジネス社会で起きがちなのが効率化を重視するがために短絡思考に陥りやすいことだろう。これは焦り本能と言える。

これらの本能は人間としてどうしても持っているものだが、それを避けるためのコツを著者の豊富な経験とエピソードを散りばめて主張する。そこには数々の失敗と成功、そしてセミナーに参加した世界の名だたる聴衆でさえ彼が提示する13の三択質問の回答率が33%をも下回る事実が背後にある。

著者は最後にFactfullnessに基づいた判断をするために必要なコンピタンシーとして謙虚と好奇心を挙げている。これは偶然にもグローバルビジネスに必要と言われるコンピタンシーと一致する。

その意味で本書は意思決定に関わるリーダーの立場にある人全員に推薦できる本だといえよう。

そして実践する上では、忖度するのでは無く、お互いに誤った意思決定をお互いに指摘しあえるオープンでインクルーシブな環境が必須であろう。そういった環境を作ることが真のFactfullnessな意思決定を可能にしていくはずだ。



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