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学術界の目指すべき未来ー山口周「ビジネスの未来」を読んで

今回は山口周「ビジネスの未来」プレジデント社を読んでの感想を書き残す。本書はまさにビジネスの目指すべき未来を提示してくれる一冊だが、学術界の目指すべき未来も提示してくれているように感じた。まずは本書の内容を概観しよう。

ビジネスは、経済とテクノロジーによって物質的貧困を社会からなくすという使命を果たし、社会は明るく開けた「高原社会」に到達しつつある、というのが本書の大前提である。社会が便利で安全で快適に暮らせる場所になったことは、ハンス・ロスリング「FACTFULNESS」を読むと、より納得できるだろう。

この現状を踏まえた上で、著者は「経済性に根差して動く社会」から「人間性に根差した衝動によって動く社会」への転換を提案する。この「人間性に根差した衝動」に基づく経済活動を継続的に実現させるために、社会に贈与のシステムを導入することが必要であると著者は主張する。具体的なアクションにすると、社会を構成する個人レベルでは各人が真にやりたいことを見つけて取組み、真に応援したいものやことにお金を払うこととなる。これらを実現するために社会レベルではユニバーサル・ベーシック・インカムを導入することになる。ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入についてはルトガー・ブレグマン「隷属なき道」が参考になる。同じくブレグマン「Humankind 希望の歴史」ではユニバーサル・ベーシック・インカムの導入が如何に現実的なものであるか、人間の本質に踏み込んで議論されているので、こちらも参考にすると良い。

以上が本書の概要だ。最後に私の感想を述べよう。

「経済性に根差して動く社会」から「人間性に根差した衝動によって動く社会」への転換は、日本では2020年の新型コロナウイルスの発生以後に大きく進んできていると感じる。自分の好きなことを仕事にしたい、という声がよく聞かれることは、この転換が進んでいることの発露なのだろう。

学問も本来は経済性に根差して発展するものではなく、人間の知的好奇心が発展させてきた。知的好奇心はまさに人間性に基づく衝動だと言える。近年の日本の科学技術力の衰退の原因の一つとして、科学技術予算の投資が「選択と集中」に基づいて進められてきたことが挙げられる。この「選択と集中」こそ、目前に形として現れている最新技術の関連分野のみに経済力を投入することで、一層の経済成長を目指そうという経済性に基づくアプローチであって、そもそも科学の発展とは相性が悪い。経済と密着しているビジネス分野でも、人間性に根差した社会を目指そうという提案がなされたことは、科学界にとって朗報だろう。

人間性に根差した衝動に基づいて研究を進める研究者になりたいと常々思う。


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