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我が家にやってくる夕方の救世主

メキシコで最も暑い季節がもうすぐ終わろうとしている。3月中旬から連日気温は30度を超え、マンション最上階で全面窓ガラスに囲まれている我が家のリビングは、朝から燦々と太陽光が差し込み、連日35度近い室温になっていた。

この時期、日中はめいっぱい外に出て、日影で涼んで乗り切りろう、という事前の目論見は見事に外れ、暑さが本格化したちょうどその頃から外出自粛の徹底が呼びかけられ、飲食店や商業施設は営業停止、唯一営業を継続しているスーパーも入店できるのは1家族につき1人で、赤ちゃん連れも例外なく禁止となった。

こうして私たちは、メキシコで初めて迎える真夏をひたすら猛暑の自宅内で過ごすことになった。昨年秋に紆余曲折ありながらやっとの思いで設置したエアコンを、朝8時から風量最大、18度の設定で動かすが、太陽熱の強さと部屋の容量に対して完全にパワーが足りない。暑さで娘の眠りも浅くなり、寝不足が重なった私はキッチンで料理をしながら熱中症になりかけていた。

こんな住宅環境の中、外出もできずに日々苛立ちがつのり、このままでは長期戦を乗り切れない、と不安に感じた私たちは、本気で解決策を講じることにした。暑さの原因があまりにも良すぎる日当たりにあるのは間違いないため、まずはリビングの窓ガラスに、透明な反射フィルムを貼ることにした。業者は普段でも約束通りに来ないため、この状況下では一生待っても来ないだろう、と夫婦の意見が一致し、アマゾン・メキシコのサイトから窓用反射フィルムを購入し、自分たちで取り付けることにした。

筒状に巻かれたフィルムを床に広げ、窓のサイズに合わせてメジャーでサイズを測り、カッターで裁断する。窓ガラスとフィルムの表面に霧吹きで水を吹きつけ、フィルムの端を窓の上部に貼り付ける。水滴と空気をワイパーで押し出しながら少しずつフィルムを窓に密着させていく。床に落ちた水滴を拭き取って終了。これを窓ガラス19枚分繰り返す。日中だけでは終わらず、娘を寝かしつけてから夜中の1時近くまで作業をした日もあった。

反射フィルムによって、リビングに差し込む太陽光はやや弱まったものの、部屋は午前中にじりじりと温められ、やはり昼ごろには35度程度まで暑くなってしまう。次はどうしようか、と話し合っている最中、部屋の奥からなんだか焦げ臭い匂いがする。慌てて行ってみると、配電盤が熱で黒く焦げ付いていた。「火事寸前だ」と大家を脅し、なんとか数日以内に修理をしてもらったが、エアコンを終日最大稼働させながら洗濯機や乾燥機、ドライヤーなどの電化製品を同時に動かすと、どうやら電圧的にまずいらしい。とは言え、家しかいる場所がない今、火事にはなりたくないが、電化製品の利用を控えるのも難しい。私たちはまたもアマゾン・メキシコから巨大扇風機を購入し、エアコンの稼働を少しでも下げることにした。1週間後、届いた扇風機を回してみると、びっくりするほど風が強い。3段階の1に風量を合わせても、顔を背けながらでないと近づけず、3では台風の時に海岸沿いにいるリポーターのような状態になる。ここでは何事も極端だ。

こうしたドタバタを経て、ようやく熱中症にならずになんとか過ごせるレベルまで暑さが改善された頃、唐突に雨の季節がやってきた。本格的な雨季にはまだ早くスコールほどの勢いはないが、夕方になると空が暗くなり、サーっと降ってまたどこかに雲が消えていく。窓を開けると外から入る空気がひんやりとして心地よく、本日の闘いもこれで終了、とエアコンと扇風機のスイッチをオフにする。朝から鳴り続けていた電化製品の「ブーン」という音が急に止み、なんだすっきりした気分になる。

いまなお恐ろしいペースで感染者が増加しているメキシコでは、まだまだ外でゆっくりと涼める日は遠そうだ。日本のサウナのような夏とはまた違う、トースターで焼かれるようなメキシコの夏。もうすぐ終わるこの季節を、朝から嫌と言うほど体感しつつ、我が家は今日も夕方の救世主を待っている。



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