コレクション展は楽しい #03 東京都写真美術館
4月中旬、東京都写真美術館 3階展示室で開催中のコレクション展「TOPコレクション 時間旅行 千二百箇月の過去とかんずる方角から」を鑑賞した。
「時間旅行」をテーマとするこの展覧会では、所蔵作品(写真・映像・資料)とともに、戦後から現代までの時空を超えた旅が展開される。
大正時代 新たな写真表現の模索
先月訪れた東京ステーションギャラリーの「安井仲治 僕の大切な写真」展でもこの時代の新しい写真表現が面白いと思っていたところなので、展覧会の基点となる1924年(大正13年)に制作された「ピクトリアリズム(絵画主義)」の作品が興味深かった。
印画の際に職人的な手仕事で加工を施した作品は、精密に書き込まれた鉛筆画のような雰囲気。柔らかい濃淡が生み出す質感が好き。
かつては「絵画と写真の折衷様式」として批判的に捉えられていたが、近年はその歴史的意義が再評価されているという。
昭和の東京 都会の景観
桑原甲子雄(1913~2007年)と大久保好六(1900~1936年)が見せてくれる東京の景色がカッコいい。
浅草の賑わいと、和洋折衷スタイルで決めたお兄さんたち。
近代建築には広告ののぼりがはためき、向かいには小屋が建ち並ぶ。
人も街も和と洋がせめぎ合い、活気のある風景。
こちらは銀座を闊歩する女性たち。
流行のスタイルに身を包み、楽しそうに街を歩く。こちらを見る表情と歩く姿が目を引く。
その他、都心の風景を撮った作品で素敵なものをピックアップ。
昭和初期の広告デザインあれこれ
所蔵品以外の展示物では杉浦非水(1876~1965年)の広告作品が見られたのが嬉しい。
国立近代美術館の展示を見て以来気になっている作家で、少ない色数で目を引くグラフィックデザインを作り出すところが魅力。
所蔵作品の中では福助足袋の広告が目を引いた。
モノクロで簡素なデザインがカッコよくて、一見すると写真ぽくないところも面白い。
サッポロビール恵比寿工場の記憶
東京都写真美術館のある恵比寿ガーデンプレイスが建つ場所にはかつて「ヱビスビール」の工場があった。
この場所の過去に思いを馳せる展示セクションで印象に残った写真をいくつか挙げたい。
1950年代の山手線の線路に蒸気機関車が走っていたことに驚く。
解体途中の工場内で静かに終わりの時を待つ醸造器。
平成2年、ここが恵比寿とは思えない景色が印象的な一枚。
20世紀 写真雑誌とフォトジャーナリズムの写真家
『LIFE』誌と『アサヒグラフ』誌関連の展示で一番印象的だったのは、マリリン・モンローの写真。
マリリン・モンローといえば、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン作品のイメージだけで、ちゃんとした写真を見るのは初めて。
さすが、という感じでめちゃくちゃセクシー。
笑顔とは対照的に憂いを帯びた目元が印象に残った。
このセクションではその他に『LIFE』誌に掲載されたユージン・スミスによるフォト・エッセイの代表作〈スペインの村〉(1950年)の展示が見ごたえがあった。
時間と想像力の風景
最後のセクションでは「時間」や「歴史」をテーマとする作品と「想像力」に関連した作品が紹介されていた。
鉄道橋を渡る列車。夕闇の時間なのか分からないけれど、列車のシルエットと前景の木々がまるで影絵みたいで、空想世界の一場面のような雰囲気がいい。
冬至から夏至までの半年間、設置したカメラで太陽の軌跡を捉え続けた作品。
眩い光の筋が降り注ぐ、とても幻想的な雰囲気。
昼と夜、冬から夏、すべての時間がこの1枚に凝縮されて、目の前にあるというのは不思議な感覚。
目に見えない時間の痕跡をとどめて見せることができる、写真表現の奥深さを感じた。
渋谷駅前の風景
東京の様々な場所を写した作品が展示されていたが、その中でも恵比寿のお隣、渋谷駅前を写した作品を最後にまとめてみたい。
1930年代から1990年代初めまで、並べてみると街の変遷が見えて面白い。
人の多さは変わらないけれど、時代とともに人の流れのスピードが速くなっているような気がする。
展覧会Data
「TOPコレクション 時間旅行 千二百箇月の過去とかんずる方角から」
2024年4月4日(木)~7月7日(日)
東京都写真美術館 3F 展示室
東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4812.html
[2024-007]
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