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『クレセント』

それはある夜のこと。

年下の彼氏との別れを受け入れて、独り身にも慣れた頃のこと。

3年くらい一緒に住んでいたのは、大通りの交差点のすぐそばのマンション。多分道路向かいのコンビニにでも行こうと家を出て、信号待ちで立ち止まった。

見上げた夜空にふんわりと浮かんでいた三日月が、まるで情事の最中に肌に掻きつけた爪あとのようで、どうしようもなく切なくて、どうしようもなく美しかったんだ。


***


そっと見上げた夜空に浮かぶ三日月
君が背中に残した 爪痕のように
ひどく曖昧で 今にも消えそうな光で

想いを寄せれば寄せる程
君を遠く感じて 虚しくなった
本当は遊びなんでしょう そうでしょう?
無意味に問い詰めたりしたね

君の事を忘れたいよ
思い出もすべて 捨て去れたら
君の事を忘れるかな
知る理由のなかった痛みも

この交差点で初めて出会った
あの日に戻れるのなら次は
二度と君と出会わないように
行き先を選び直そうか

もう 君の事を忘れたいよ
思い出もすべて 捨て去れたら
君の事を 忘れるかな
知る理由のなかったはずの嘘も

そんな風に笑わないで
また少し期待してしまうから
突き放して 戻らないで
僕の事なんか 嫌いだと言って

そっと見上げた夜空に浮かぶ三日月
君が背中に残した 爪痕のように
ひどく曖昧で 今にも消えそうな光で

***


その子はキラキラした子だった。僕にはもったいないくらい底抜けに明るくて、前向きで、一緒にいると元気をもらえた。月じゃなくて太陽の光みたいな眩しい子だった。

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