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フォントは誤差と踊る

Fonts Dance With Errors  #?

English version is here.

プロダクトデザイナー、インダストリアルデザイナー、工業デザイナーと呼ばれる仕事をしていると、製品の表面に配置する文字をよく取り扱う。

Adobe illustratorを扱う中でフォントに含まれる誤差をどうしても無視できず、原因を探ったところアウトライン化時のフォントサイズによって生成されるパスが僅かに異なることを突き止めた。もしかすると自分以外の人には常識だったのかもしれないが….

ごく個人的な興味としてこの誤差をキチンと可視化しておきたい欲求に駆られ、「Fonts Dance With Errors」という作品群を作成した。またちょうどNFTへの興味も持っていたので、物は試しにopensea上で公開してみている。

https://opensea.io/collection/fonts-dance-with-errors

この記事ではFonts Dance With Errorsが何なのか、またどのようにして可視化したかを簡単にまとめる。

これは何か?:
フォントアウトライン化時の誤差の可視化

図の左がテキストオブジェクト、右がアウトライン化済みのオブジェクト

「Fonts Dance With Errors」はAdobe illustratorでテキストオブジェクトをアウトライン化した際に生じる誤差をなるべく見やすい形でまとめたプロジェクトである。

illustratorの表示を最大倍率まで拡大して分かるような微細な誤差を題材にした

アウトライン化時の誤差といっても非常に小さなもので、一般的な用途ではまず問題にならない。64000%まで拡大して、同じ文字を重ね合わせた状態でアウトライン表示して初めて確認できるような誤差である。データの取り扱い上問題になるとしたらせいぜい下記に挙げたシチュエーションぐらいだろう。
・CADにパスデータを取り込んで幾何拘束や寸法拘束を行う時
・二次元図面をひく際に誤差を丸めた結果寸法が意図した数字と変わる時
・過去に制作されたアウトラインデータと完全一致を要求された時

この誤差をGIFアニメーションにしてみると僅かにフォントが踊っているように見えたので「Fonts Dance With Errors」 というタイトルを与えた。

何故作ったか?:
編集や変換を挟む場合はデジタルデータでも劣化や誤差が含まれることを周知したいため

デジタルデータはコピーしても劣化や誤差が無いとよく語られるが、コピーではなく何らかの編集や変換をする際には誤差を含むことが多くの方から指摘されている。この誤差に起因するトラブルは様々あり、私自身しんどい経験をした。これは「デジタルデータはコピーしても劣化しない」という事実を誤って「編集や変換をしても劣化しない」と認識した結果起きるのではないかと考えている。

そこで私はデータの編集・変換時に誤差が存在することが今よりも広く知られることで誤差に起因する不毛なトラブルを減らせるのではないかと思い、この作品群を制作した。

このプロジェクトではフォントのアウトライン化という極めて限定的な事例を取り扱っているが、他にもデジタルツールを用いてクリエイションを行う際に誤差が発生する状況は存在するのではないだろうか。私自身あまり多くは知らないので、他に事例があればコメント、リプライ等で教えていただけるととても嬉しい。

どうやって作ったか?:
0.01ptずつのテキストをアウトライン化し、隣り合う二つのサイズのオブジェクトの大きさを揃えて重なっていない箇所のみを残す

今回の制作では見出しの通りの簡単な方法で行った。
また実際に使用したフォントサイズは0.1ptから1.1ptまでである。
今回取り扱う誤差はフォントサイズが小さければ小さいほどよく出るため、この範囲のみで生成した。
手作業では膨大な作業量が発生するので、illustratorをExtend Scriptで自動制御して作成した。

最後に制作作業の基本的な流れを紹介してこの記事を終えたいと思う。

①サイズの異なるテキストオブジェを二つ用意する
※通常のプレビューではなくアウトライン表示にしている
②それぞれアウトライン化する
③二つのオブジェクトの高さを揃える。その時縦横の比率が変わらないようにする。
④二つのオブジェクトを中央揃えにする。
同じフォントから生成しているのにパスデータに誤差が生じていることがこの時点で分かる。
⑤パスファインダーの中マドを行い、アウトライン表示からプレビューに切り替える


宣伝:3Dプリント用フォントの頒布

最後までご覧いただきありがとうございました。

普段立体物に文字を入れる方法を考える機会が多く、その延長線上でフォントを制作し、頒布しています。FDM/FFF式と呼ばれるタイプの3Dプリンターの製造方法に適したフォントです。もし3Dプリンターユーザーであれば是非ご利用ください。

また、過去に工業製品への文字入れ技法についてもまとめています。
本記事に興味を持っていただけた方であれば楽しめるのではないかと思います。

今回はこれにて。

制作や開発の資金源にさせていただきます!