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ほのぼの童話(1) 「子犬のワルツ」

    (絵/ 関戸 千香)

(ガタガタッ・・・・ガタッ・・・)
こきざみに窓をふるわせる物音に、おばあさんは、思わずふとんから起き上がりました。
「コロ、・・・コロや?」
静まりかえった部屋の外からは、冷たい冷たい木枯らしの声が聞こえてくるばかりです。
(やっぱり夢だったのか・・・)
おばあさんはコロの夢を見ていました。去年おじいさんが亡くなったあと、すっかり元気をなくしてしまったおばあさんのことを心配して、世話好きのおばさんが連れてきてくれた小犬です。
でも一週間ほど前、車に跳ねられて死んでしまいました。
( クウィーーン・・・・・)
泥だらけのコロの悲しそうな鳴き声が、おばあさんの耳の底によみがえって来ました。
「やれやれ、こんな寒い夜は腰が痛むのう」
おばあさんはそうつぶやくと、またふとんの中にもぐりこみました。

「おばあちゃーん、いるぅ?」
縁側でコックリコックリしていたおばあさんは、思わず目をさましました。
「おお、おお、真由美ちゃんかい。久しぶりやのう。今日はどうしただ」
「うん、お隣からミカンたくさんいただいたので、ママがおばあちゃんとこへ少し持ってけって・・・・あ、マンマアンしなきゃ」
 真由美はそういうと、仏壇のまえにちょこんと座りました。
「おじいちゃん、こんにちわ」
写真のおじいさんも、ニッコリしているように見えました。
真由美はふと、隣の部屋にあるピアノに目をやりました。
「おばあちゃん、あのピアノ弾いてもいいかなあ?」
「いいともいいとも・・・あんたのママが昔よく弾いていたピアノじゃからのう」
真由美はピアノのふたを開けると、勢いよく弾きはじめました。
「ほう、真由美ちゃん『小犬のワルツ』が弾けるようになったのかい」
おばあさんはピアノを聞きながら、死んだコロの事を思い出していました。
足元でいつもじゃれていた、かわいいかわいいコロ・・・
「おばあちゃん、泣いているの? どうして?」
「・・・この前生まれた真由美ちゃんが、上手にピアノが弾けるようになったのが嬉しくて・・・な」
真由美はポッと頬を赤らめると、また『小犬のワルツ』を弾きはじめました。
おばあさんはおじいさんの写真に語りかけました。
( あなた・・・あなたがよくオムツを変えてやっていた真由美が、こんなに上手にピアノを弾けるようになりましたよ。真由美は私に、生きる元気を持ってきてくれましたよ・・・
またあなたにお会い出来る日まで、コロと一緒に待っていてくださいね )
 おばあさんは心のなかでつぶやきました。
            

( 2000. 1. 30 中日新聞「みんなの童話」入選・掲載)
中日新聞社のご了解をいただき、新聞掲載時のイラストを転載させていただきました。
関戸千香様、素晴しいイラストをありがとうございました。

(作者ひとこと) 童話の公募というものにチャレンジするようになって、生まれて初めて入選を果たした、私にとって忘れられない作品です。
 中日新聞「みんなの童話」には、1999年の夏から投稿を始めました。
初投稿の「エリーゼの為に」は見事ボツ。ところが、どうせダメだろうと思っていた第2作目の「雨だれの前奏曲」が、意外にも佳作に選ばれ、ごほうびの図書券が送られてきました。そのときの嬉しさがバネとなり、家族との夕食時に、この作品のストーリーがむくむくと沸き上がってきたのです。少し昔風で、どこかで聞いたような話だという気もしますが、殺伐とした今日この頃、このような傾向の作品が少なくなっていることもあって、取り上げていただけたのかもしれません

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