おっさんの読書感想文No.1「ぼくらの昭和オカルト大百科」を読んでみた!


台風が過ぎた後


「台風が過ぎた後なんじゃないか?」80年代にオカルトに触れていた小学生のときの自分はそう思っていた。この本で取り上げられているのは、70年代の子供たちだけど、80年代の子どもたちもオカルトに興味津々だった。自分も雑誌のネッシーの記事にワクワクしたし、テレビの怪奇特集「あなたの知らない世界」は食い入るように見てたし、クラスの女子たちは、みんなコックリさんをやっていた。でもなんとなく、自分たちが触れているモノは、いったん大ブームが起きて過ぎ去った後なんだろうな、という感覚があったのだ。

「ユリ・ゲラー」「ノストラダムス」「日本沈没」は80年代の子どもたちの間でも人気があった。でも、ああそれは少し前からあったんだ、と年上のお兄さん、大人たちが教えてくれた。床屋に置いてあった古い漫画の単行本には、少し前の熱狂が話で描かれていた。一大ブームの後の繰り返し。80年代の子どもたちにとって、オカルトブームは自分たちと同時に生まれたものではなくて、お兄ちゃんのお下がりを着させられているような感覚だったのではないだろうか。

本書は80年代の少し前、まさに「台風」のようなブームの真っ只中の70年代のオカルトブームについて、著者のサブカルチャー研究家・初見健一さんによる考察だ。

科学による「明るい未来」は、公害問題などをキッカケに暗い終末思想へと反転していく。不安を吸収して創作されたポップカルチャーが人の心をさらに不安にさせるという循環。当時圧倒的な影響をもっていたテレビが取り上げることで、70年代の日本がオカルトというカルチャーに飲み込まれていく様子が解説されていく。「ノストラダムス」「未確認生物」「UFO」「超能力」「心霊」といったジャンルごとに、その歴史と70年代に入ってからの様子が書かれているのも、流れを知ることができて興味をひく。本書は世の中の現象を俯瞰した視点も面白いのだけど、なんといっても読みどころは70年代に少年時代を過ごされた、初見健一さんの子どもとしての視点だ。

子どもの視点


初見健一さんによって描写される70年代の子どもたちは、目一杯オカルトを楽しんでる。テレビのユリ・ゲラーの番組をみては、超能力を身につけるトレーニング、心霊写真の本をみては教室のみんなが大騒ぎする。その一方でツチノコを探すんだけど、それは釣りに飽きたときの単なる暇つぶし。将来のことをきかれると、ノストラダムスの予言を持ち出して「どうせみんな死んじゃうんでしょう?」と大人を困らせる。熱狂する一方で、本気にはなっていない。ノストラダムスの子どもへの影響を心配する大人たちをバカにさえしていた。子どもは大人の社会を、みんな見透かしているのだ。

80年代の自分も、70年代の子どもたちに共感する。彼らの様子に、子どもってそうだよなと、すごく笑った。多くの大人が、オカルトときいて嘲笑したり、眉をひそめたりする原因のひとつは、そんな生意気な子供っぽさのせいかもしれない。社会の一員である大人は、自分たちの世界のホンネと建前を揺るがす存在に敏感に反応するということなのだろう。大人になってからオカルトを語ると、考え方についた贅肉が邪魔して、いろんなことと絡めて、どうにも高尚なことをいいたくなる。だけど、いつのまにか忘れてしまっている子どもの正直な視点というのは、オカルトを考えるときの道具になりそうだ。

信じる人信じない人


テレビの心霊番組は見逃さず、UMAが載ってる本を読み漁る。小学生の頃の自分は、結構な不思議大好きオカルト少年だった。あるとき「ムー」という専門誌のことを耳にしたので、本屋で買ってきて興奮しながら読み始めた。「わたしの前世は10万年前の火星戦争で・・・」とかいう記事に、う、うーん、さすがにこれは…と、ついていけなくて固まってしまった。あまりの内容に、自分の中のオカルト熱がグングン下がっていくのを感じたことを覚えている。

本書では初見さんが79年に創刊されたばかりの「ムー」に触れたときのことが書かれている。目を通したものの「なんか違う」と感じて、買わなかったとか。そのとき、初見さんは少年時代のオカルトへのひとつの区切りを感じたのだという

80年代の自分と、70年代の少年が、共にオカルトに一区切りをつけるキッカケとなったのが、オカルト専門誌だったというのは面白い。

本書のUFOの章で「ニューエイジ」についても触れられている。ここにムーのことも書いてあって、読んでみて自分に当てはめて振り返ると、自分がオカルトに求めていたのは、オカルト専門誌がとりあげるような精神世界ではなく、ドキドキワクワクだったんだなあ、と思う。

80年代以降の、自分の雑感を言えば、オカルトは「信じる人」と「信じない人」に二極化しているように思う。信じる人はどんどんノメり込んでるし、信じない人は「オマエ、そんなの信じてるの?」とバカにしてくる。両極端な対立は、あまりいい結果を生んでいるとは言えない。オカルトはなくならない。今後も形や言葉を変えて世の中に存在していく。バカにするでもなく、信じ込むのでもなく、適切なオカルトとの距離の取り方はないものか。本書が語る70年代のオカルトブームは、考え方のヒントになってくれる。









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