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市民のものがたりをつなぐ。「みんなの富岡フォト&エピソード展」の裏話(前編)

とある地域の観光協会の話が、まったく「にぎわい」や観光客を生み出す気のない取組をしています。

群馬県富岡市。世界遺産・富岡製糸場を擁する、人口5万人ほどの群馬県西部のまちです。そこにある富岡市観光協会が今回のお話。

メインストリートの宮本通り

事実から紹介すると、そのまちでは、2014年の富岡製糸場の世界遺産登録によって、観光客数が爆発的に伸びました。

そしていま、それがジェットコースターを降りているところにあります。一時的に人通りが復活した商店街も閑散とする中で、「このままでいいのだろうか」という声も聞こえます。もともと富岡は有名観光地ではありませんでしたが、「開発にあう」とはこういうことかということ教えてくれる町です。

そこで観光協会の中のひとつの委員会から、「この地に暮らす人の声を大切にしながら、あたらしい道を探りたい」ということで私たちに相談をいただきました。

そして、関係者との話し合いのすえ、「市民主体」をコンセプトにした取組を行うこととなりました。そうして立ち上がったのが、今回紹介する「みんなの富岡フォト&エピソード展」です。

いったい何をしているのか。

生活者と関係人口が「表現者/語りべ」となり、暮らしの目線から大切にしていることを、写真とストーリーで作品として展示します。

それに付帯したイベントも、市民が呼びかけ人となって毎週のように展開されてぃす。
動画でもどうぞ。2歳と90歳の参加者の様子や語りが入っています。

さらに、わかりやすく文字でご覧になりたい方は、こちらをどうぞ。都内の大学生から見た体験談です。

このnoteでは、さらにその舞台裏、つまり、立ち上がりからイベント実施までの道のり(の一部)について書き残しておきます。

この取り組みは様々な利害関係者が、それぞれの想いで参加をしています。人によって見えている景色がかなり変わっています。このため、このnoteはあくまで「私の目線からはこう見えているよ」という記録であるということをご留意してもらえたら幸いです。

これまでの道のり

2021年4月。観光協会の企画マーケティング委員長であり、富岡のまちなかで衣類の路面店を経営する4代目、入山さんがこの取り組みの呼びかけをはじめます。彼は20年来、富岡のまちなかでまちづくりに取り組んできたリーダーでもあります。

今、観光やまちづくりが「これまで通り」になりづらい。かといって、「こうしたらいい」という決まった答えもない。このピンチを誰か任せにしないで、 地域と関わる私たちが「こうなりたい」を話し合い、共に形にしていくチャンスにしませんか?

地域のことを自分ごとにするのではなく、地域で自分のことを話せるようにしませんか。

そのために、新しいやり方を学びませんか。

この呼びかけに共感した人たちが最初のチームとなります。観光協会委員のほかに、市役所、商店主、近隣市町村の若者(関係人口)です。

入山さんの提案はこうでした。その地に暮らす人が欲しい未来を表現するような地域イベントを自分たちで企画・運営してみよう。そのために必要なことを学ぼう。たとえばこんなことです。

  • 多世代、異業種のひと同士が、遠慮なく建設的に話し合いをするやり方

  • ほしい成果から考えていくロジックモデルなど企画デザインの仕方

  • それを自分たちで形にしていくための自律分散型/指示待ちではないはたらき方

こうした呼びかけのおかげで、具体的になにをなんのためにやるかはともあれ、まず「ここには、言いたいだけのご意見版、ご要望ばかりを言うお客さまではなく、地域の暮らしをより良くするために学び・行動する意欲がある人だけがいる」という共通の土台を確保することができました。それは場の熱意を高く維持するのを助けてくれました。

この約束があったらからこそ、出会った人がいて、お別れした人がいます。学ぶ気があるか、行動する気があるか。それがこの輪から出る/入るための線引きとして機能したのです。

1年間かけて15回以上

ニーズ/必要性

参加する人たちがなぜわざわざこの取組に参加しようとしてくれているのか、お互いの思いを知り合う時間がはじまります。「わたし」を主語にして、「なぜ」「なんのために」「だれのために」を話すことを徹底してやり続けました。

  • いま、私たちの地域で何が起きているのか。私たちの暮らしを脅かしそうなものはなにか。

  • 今あなたが仕事や生活の中で、希望に思ってやっていることはなにか。

  • それぞれ、このプロジェクトに関わることで得たい、自分なりの報酬はなんなのか。

これらの話し合いは私たちに熱を与えてくれました。

たくさんの「今こそ」の願い

目的

そして、私たちのチームとして、どっちが前で、何を目指していくのか。未来に生きる人たちは私たちの仕事について、どのように語るだろうか。

こうした度重なる話し合いの末、取り組みの目的が以下のようにまとまりました。

なにを目指してやっていくのか

この取り組みのキーワードである「交流」に込められた目的はこうです。

来訪者を、一時的な観光客/消費者ではなく、継続的なつくり手/コミュニティへの貢献者として歓迎するためのきっかけや仕組みつくること

マスメディアでキャッチコピーを届けることで消費者を集めるよりも、市民ひとりひとりからリアルな暮らしのストーリーや体験が伝わっていくことで、関係人口を集める発信が富岡らしいブランディングになるはずだということです。

このメッセージはデンマーク・コペンハーゲンの「The end of tourism/観光の終焉」を思い起こさせます。富岡の人たちはそれを先行事例として学んだわけではありません。ただ、「私たちはロンドン、パリ、バルセロナ、あるいはハワイなどと同じレースには出ない」ことを表明した「ふつうのまち・コペンハーゲン」と、富岡は一部の市民の感覚が近いか、現実的に考えて自分たちが生き抜くためにはそういう方向で考えざるをえないということなのかも知れません。

一方で、富岡地域の中には、行政主導のハード開発、伝統的な観光開発はまだ進んでいる現状もあります。「市民」の中にも今回のプロジェクト内で合意されたことと違う考え方を持つ人ももちろんいらっしゃいます。

ともあれ、私が今回のプロジェクトの方向性を支持したいのは、「富岡の地域でずっと暮していく意思がある」「自ら学び・行動する意欲がある人たち」の意見だからです。そして、それを腹を括ってサポートする観光協会、市役所のみなさんがいるからです。

また個人的にも、富岡の強みを活かした勝ち筋は、今回のようなアプローチだと思います。かつての消費主義レースの後ろを走っていた「観光資源に不足したまち」は、むしろこれからのSDGs時代、「暮らしへの回帰」の時代の先頭を走るリーダーになるチャンスを掴みやすい位置にいるのではないでしょうか。

こうした信念/世界観が、チームとしてはっきりしてきたことによって、それが「器」となりました。そこに、さらに多様なメンバーが加入しさまざまな実働チームが立ち上がっていきます。(器がしっかりしていない状態で多様な人たちがごちゃまぜに入れてしまうと、結局カオスか、声の大きな人によるコントロールしか待っていないことがよくあります)


まちの店主、お母さん、おじいさん、観光協会、学生、役所、若者、ヨソモノ。地域にすでにある取組とも合流しています。その一つが、上でシェアした記事を書いてくださった地元のライターチーム「まゆといと」のみなさんです。また、毎週末のようにイベントをおこなっているのは、後半で合流したメンバーのほうが多いのも興味深い点です。

サブ目的:地域活動のデジタル化

サブ目的のひとつとして「地域の高齢者がデジタルツールを学ぶ」が出てきたのは印象的です。

新型ウィルスの感染防止のため、意味のない会議や飲み会がなくなったのは良いこと。しかし、自治会や見守り、居酒屋やカフェなどの社会のセーフティネットや、お祭りなど文化行事が機能しなくなるのが残念だということは何度も聞かれました。

それに応えるように出てきたのが、「だから、私たちどうする?」という声。「いつかきっと元に戻る」を願うだけにするのをやめ、今できない理由ではなく、今できる方法を探ることになりました。「新しいお祭りやイベントの形を自分たちでつくり、提案していこう」

そこで、自ずと「地域のみんなが非接触・非同期化」≒「地域活動のデジタル化」がテーマとして現れました。地域の高齢者、子育て中のママパパなどが、デジタルツールに慣れ、デジタル空間でつながるためのきっかけを地域に作る必要がありました。

そこで、今回の企画準備〜イベント本番を通じて、zoom、slack、LINE、Instagram、Googleなどデジタルツールを使わざるを得ない機会を設けました。おじさんたちがヤングから学んでいる姿にはなんだかじんわりです。若者に説教垂れるのではなく、若者から学ぼうとするおじさんたちは、かっこいいし、かわいい。

地域と表現の誠実な関係をさぐる

ほかにもたくさんの大切な事が話されました。たとえば、はたらき方のプリンシパルについて。そのひとつ「地域とクリエイティブの関わり方について」は印象的でした。

冒頭に書いたように「クリエイティブなプロモーション」によって痛い目を見たと考える富岡市民たちにとって、広告や表現と、地域がどう付き合うかは考えどころだったのです。結論だけ残しておくとこんなことが確認されました。

この取組において、クリエイティブは、

  • 地域にないものをある/あるものをないことにする、つまり、ウソをつくための道具ではなく、ほんとうのこと表現する手段としてつかう。

  • 大きなものわかりやすいものではなく、小さくてわかりづらいものに訴求力を与えるためにつかう。

  • 「富岡といえばここに行け」みたいな作り手にとっての答えを指示するおしつけがましいものではなく、「あなたにとってはどう?」と参加者に問いかけるものとしてつかう。

結果的に、チラシやポスターなどは、富岡の地域に暮らす人の言葉や表現が多用されたものとなりました。これは、かなりめんどうなプロセスでした。メインタイプは、チラシを書いて何十年…入山さんの手書き文字です。

こうした主旨とすばやく理解し、お付き合いいただいたイラストレーター・デザイナーの小林未歩さん、フォトグラファー、ライターとして参加した市根井くん、西涼子ちゃん、齋藤たかおくんには心から感謝です。

ポスター

こうして様々な人の努力によって、イベントが始まりました。…しかし、イベント本番の運営が始まると思ってもみないこと、うまくいかないことがたくさん。ピンチに次ぐまたピンチ!

ということで今回はここまで。試行錯誤の道のりは、またどこかのタイミングでお話をシェアしたいと思います。この取組は、市民の声であらたな方向を探るための数年間〜十数年間に及ぶかもしれない動きのまだ「タネ」です。ぜひ関心を持って見守ってくださった幸いです。

ちなみに、このノートを公開する時点で、募集期間はもうわずか。ただ、展示は4月中までやっています。ぜひご覧くださいね。

チラシ

インスタで「#みんなの富岡展」または、公式アカウントを見ると作品の一部がご覧になれます。

つづく。

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