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ロックへの道 ~私の彼は、ロクデナシ

私の彼はロクデナシと言われていた。
大学生やバンドマンによくある、日雇いのバイトをしていた。
特に気にしていなかったが、私が定職に就いて働きながらバンドをやる状況になり、徐々に変わっていった。

「何でコイツは働かないんだ・・・」

午後3時からお酒を飲み、酔っぱらった状態で私のライブを見に来て、
打ち上げでさらに酔っ払い、私が引きずって帰る事もしばしばだった。
私よりもロックな彼が最初はむしろ誇らしかったが、
ずっとウチにいるくせに電気代払え、などと喧嘩するようになった。

ある日会社の飲み会で、非常に優秀で尊敬している上司に、
彼氏が働かないという悩みを聞いてもらった。

「働かないって、全然働かないの?」
「いえ、お金があるうちは働かないですが、なくなると仕事に行く、という感じです。」

「・・・・・それは・・・理想的だな・・」

「え?」

「いや、俺も出来ればそうしたい」

Oh my god.

アリとキリギリスの童話を思い出した。
アリが毎日働いて食料を運んでいる間、キリギリスはバイオリンを弾き、冬が来てキリギリスがアリに食べ物を分けてくれと言ってもアリは分けてくれず、キリギリスは飢え死にした、というアレだ。
私は子供のころからこの話が嫌いだった。勤勉なアリを見習いなさい、という事だろうが、私はアリが意地悪だと思った。
楽器を奏でる事をイコール怠け者の象徴のように描いているのにも、もやもやしていた。
キリギリスのバイオリンを周りの虫達は楽しく聴いてたんじゃないのか?
それに対する対価を払うどころか、見捨てるなんてひどいじゃないかと。
もしかしたら、キリギリスのバイオリンが聴くに値しないヒドイもんだったのかもしれないが、それでもアリはキリギリスを助けました、の方が子供の教育に良いんじゃないのか?
と、子供のくせに考えていた。

今、私はアリだ。彼はキリギリスだ。
つまりは働き方の違い、それだけだ。
私は定職についてつい普通のサラリーマンのような事を言ってしまった。
ロックじゃない!

それにしても上司が必要以上に働きたくない、と思っていたとは知らなかった。
「辞めないでくださいね・・」
とだけ言っておいた。

論点が違うと言われそうですが、だったらバイオリンではなく一升瓶で泥酔、
にしてほしいもんです。


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