手づくりの強み
技術の進歩がすさまじい。3Dプリンタがもはや当たり前の存在になるなど、ものづくりを取り巻く技術の発展がものすごいスピードで進んでいる。
それに対して、蹴って回していたろくろが電動で回るようになったくらいで、その他は江戸時代からほとんど進化していない自分のアナログ極まりない仕事の内容を改めて客観的にみると、ある意味すごいな、とたまにちょっと笑けてしまう。
そのうち、ろくろどころか土もほとんど触ったこともないような人が、3Dプリンタを駆使して陶芸家として登場する時代がくるかもしれない。いや、もしかしたらもうすでに僕が知らないだけでそんな人はいるのかもしれない。
おもしろい時代だなと思う。
いろんな人が、いろんなやり方で、自分が思うように表現するのは素敵なことだと思う。陶芸とはこうあるべきだ、というような閉鎖的な考え方をするよりも、おもしろいねー、とお互いにわいわい楽しくやるほうがいい。
ただ、ぼく自身はアナログなやりかたでつくるろくろの仕事に誇りをもっている。
誇りはもっている。だが、だからといって、ろくろでつくったものが絶対的にいい、とも思っていない。
型でつくるのもいいし、オートメーションでつくった工業製品の中でも好きなものはたくさんある。
ぼくは、「ろくろでつくる」というやり方が、一番強いと思っているのでこのやり方を採用しているにすぎない。
もちろん好きだし、誇りももっているが、決して固執はしていない。もし、もっといいやり方が見つかればそっちにいくかもしれない。
では、ろくろと機械生産を比べて、手づくりのろくろの強いところはどこだろうか?
手づくりならではの温かみのあるうつわがつくれる。
よく聞くフレーズだ。実はぼくも結構つかってしまう。なんとも便利なことばだ。
もちろんそういうこともあるのだが、味わいとか温かみとかは一般の人からするととても分かりづらいし、そもそも感じ方も人それぞれなので優位性にはなりづらい。
手づくりには、もっと分かりやすい優位性がある。
それは、小さなオーダーに対応できるというところだ。
そんなん当たり前やん。って言われるかもしれないが、この強みを理解していない人が実はつくり手にも多い。
当たり前だが、量産をベースにしている機械生産は、その生産力が売りだ。
手づくりは生産力では機械生産にぜったいに勝てない。生産量やコストで戦うのは無謀だ。
だが、少量の注文に対する対応力という点では、逆に機械よりも手づくりの方に軍配があがる。
機械生産という中にもいろいろなやり方があるのだが、まぁその辺はいったん置いておいて、型をつかって量産するようなやり方の場合、そもそも型をつくるのに手間=コストがかかる。
20枚のみの注文のために型をつくるというのはコストが合わない場合が多い。
その点、手づくりの場合は、そういう小ロットの注文に対応できる。
面倒くさいという最大の壁を乗り越える必要はあるが、その壁の先にはすさまじい需要がある。
ぼくはその点に、手づくりの最大の利点があると思っている。
特にろくろの場合は、スケッチを書くよりもつくってしまう方が早い、というくらいのスピード感でサンプルをつくることができる。(かたちだけではあるが)
もちろん、自分の頭のイメージ通りにつくれる技術があることが前提だ。
技術を獲得すれば無数にある小口の注文に柔軟に対応できる。今の3Dプリンタくらいなら比べ物にならないくらい手づくりの方が早い。
ろくろを勉強する場合、同じものを早くたくさんつくれるようになることと同時に、どれだけバリエーションのあるかたちをつくれるかという技術も同時に磨く必要がある。
同じかたちをたくさんつくる技術は必要だ。だってせっかく注文をもらったのに同じようにつくることができないと仕事にならないから。
でも、そこだけだと機械に対して強みにならない。
あとはどれだけ自分のなかにたくさんの引き出しをもてるかだ。
たとえば、口づくり一つとっても、そのバリエーションは無数にある。作家としてやる場合、自分の口づくりを一つ特徴としてもっていればいいが、多様なオーダーにこたえるためにはそれではしんどい。
あとは、釉薬にレパートリーがあればいろいろなオーダーに対応できる。ぼくはそこに無限の可能性を感じているので、今後その強みを生かして仕事をしていきたいと考えいる。
現代は、少量多品種という点で手づくりの仕事に対する追い風がぐんぐん吹いているのだ。
だから、若いうちは、自分の引き出しを増やすために、やったことない技法、釉薬にどんどんチャレンジするべきだ。それ自体は仕事として成立しなくてもいつかそこでやったことが生きるときが必ず来る。
ぜひ、やったことのない仕事を言われた際には、面倒くさい、自信がない、という壁を乗り越えて、どうやったらやれるだろうか。と前向きに考えてほしいなと思っています。
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