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器の価格の決め方

陶芸の世界は少し閉鎖的な世界です。とくにお金のことに関してはあまり語る人がいないというか、語ってはいけないというか、なんというかそういう暗黙のルールがあるように感じます。

ただ、ひと昔前の陶芸の世界と違い、今を生きている、とくにつかえる器のつくり手は、「価格」についてしっかりと考えている人が多い気がします。流されずに、地に足をつけて自己責任で価格を定めている、ということです。

陶芸は、特にバブルの頃に「今のうちに買っておけば将来値上がりする」という投機の対象になったことで、価格がどんどん上がり、ちょっとよく分からない、怖い世界のものになってしまった印象があります。

そんな器の世界が、最近少し変わってきている気がします。

アートではなく、つかえる器というジャンルで活動するつくり手の方が増えたことも一つの原因だと思います。

そういうつくり手は、自分たちより上の世代の方々がとても恐ろしい体験をされたことをなんとなく知っています。

バブルという時代の流れによって、他の様々なものと同様にどんどん価格が上がった末にバブルがはじけてしまい、それまで売れていたものが全く売れなくなる。そうなっても一度上げてしまった価格を下げるに下げれない、という地獄のような状況です。

物心ついた頃から不景気世代の僕からすれば、バブルというのはおとぎ話のような世界です。

僕が陶芸の世界に入った2003年ごろはほんとにひどく、「器はもう終わった」「器なんてもう売れない」「こんな世界によく入ったな」「やめるなら今のうちやで」こんなネガティブな言葉ばかりを聞いていた気がします。

そして、「あの頃はよかった」というおとぎ話のような話に続いていくのです。

そんなことをずっと聞かされていたので、技術を習得することと同時に、どうやって生活していくか、つまりどうやって器を売っていけばいいか、ということは常に頭のなかで考えていた気がします。

今となれば、その頃の危機的な状況が、がむしゃらに生きるという僕の土台をつくってくれたとむしろ感謝すらしていますが、修行時代から独立して、つい最近までのお金のない状況というのは、もう二度と体験したくない恐ろしい時期でもありました。

「価格」についてもその頃からとても色々と考えました。そして今もまだずっと考えています。たぶん僕と同じかそれ以下の世代は価格についてみんなかなり悩んでいるはずです。

考え方は色々だと思いますが、基本的に、「価格」は作り手が自由に決めるものです。

稲盛和夫さんの言葉にも、「値決めこそ経営」ということばがあります。

当たり前ですが、独立してすぐの陶芸家でも、茶碗一つ100万円という価格をつけてもいいんです。100万円が妥当かどうかは、市場が決めてくれます。

100万円で売るためには、どうすればいいか。それを考えるのが経営です。

ラーメン屋さんに例えて話をしましょう。

ラーメン屋さんをはじめるときに、「価格」「立地」「味」のなかで優先順位をつけるとすると、一番はじめに決めるべきは「価格」です。

つくり手は、どうしてもまず「味」にこだわりたくなりますが、本来は「価格」を先に決めなければ「味」にもこだわれません。

要するに、1杯10,000円で売る。と決めたときに使える食材と手間。

1杯500円で売る。と決めたときに使える食材と手間。

は違うからです。料理人さんはこのことを当たり前のように理解しています。

ただ、陶芸をしているのなかには、そのことについて理解していない人もたまにみかけます。

これくらいの価格で売りたい。というのがなく、今自分が持っている最高の素材と最高の手間暇をかけて、出来上がったものがこれ。だからこの価格にする。という順序でものづくりをしている人です。

一見つくり手として美しいストーリーで正しいことのような風にも感じますが、これは「作品」をつくる場合においての考え方です。

「商品」をつくる場合にこの考え方をするのは少し危険です。

では「作品」と「商品」は何がちがうのか?

作品は、自分がつくりたいものをつくる。ベクトルは自分に向いています。

それに対して、商品は誰かのためにつくります。ベクトルはお客様、消費者に向いています。

この作品と商品の違いは、「アーティスト」と「クリエーター」の違いとも言えます。

もちろんアーティストとクリエーターが両極だとしても、その間には大きなグラデーションが広がっていて、陶芸をしている人のなかでも、もちろん完全なアーティストとして活動している人もいますし、完全にクリエーター側で仕事している人もいます。

ただ、多くの人はその中間のグラデーションのどこかで仕事をしている気がします。ある時は、アーティスト寄り。またあるときはクリエーター寄り。なんてときによって立ち位置を変えている人も結構います。

陶芸をしている人、あるいはこれからはじめる人は、自分がどの辺にポジショニングするかを少し考えるといいかもしれません。

そして、クリエーターに近い立ち位置で、誰かが欲しい器をつくりたいという考え方で仕事をしたい人は、先にこれくらいの価格で市場に出したい。ということを考えることを僕はおすすめします。



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