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短編読切・テーマ:卒業「本当はね」

こんにちは。希与実と申します。
まずは、みんなのフォトギャラリーより引用させていただきました waraineko 様に感謝申し上げます。
いろいろな卒業の時期かと思います。ある少女の感情はこんなのかな?と。
気に入っていただければ幸いです。


おはよう私。今日、その日を迎えた。

高校を卒業した私は今日旅立つ。

都会の看護師専門学校へ通う為、この地を離れる。

私の家族は大家族。両親の結婚も早かった事から4世代にわたる。

でも既にひいおじいちゃんはいない。

ひいおばあちゃんは健在だけど介護が必要な時期になった。

そしてママがその世話をする姿に、自分の将来が重なった。

私が正式な看護師になる迄に間に合うかは解らないが、せめておじいちゃん、おばあちゃんのその時には私が世話をしてあげたい。

その日まで元気でいてほしい。

だから私のわがままを許してほしい。この地を少しだけ離れることを。

姉も兄も弟もいるから、大丈夫だよね、パパ、ママ。

行ってきます。またその時まで。


こうして電車に乗るのは何年ぶりだろう。

自転車で高校に通っていた風景とはぜんぜん違う。

そりゃそうでしょ。

同じ景色でも自分の感情が違うとね。


これからどんな時を過ごすのだろう。

独り暮らしも初めてで、不安しかない。

朝起きれない時は、ママが起こしてくれた。

ママが朝支度の忙しい時は、姉や兄が、また弟も起こしてくれた。

そしていつも朝の食卓には大勢で一緒に「いただきます」の大合唱。

私が何もしていないのに目の前に美味しそうな食事が用意されていた。

そう、これが普通と思っていた。今思えば贅沢な普通。

ある時、ママが入院した。過労が原因だった。

大家族の世話を一人で、何一つ文句も云わず、何一つ愚痴も云わず。

偉大としか思えないママ。


それからだった。

姉や兄やパパも。弟も。気づいた。私も。

独りでやるには限界がある。だから少し休んでママ。

ひいおばあちゃんやおじいちゃん、おばあちゃんの世話、家事は皆で分担しよう。

あれがキッカケだったのかな。


ママが退院しても、皆の協力は続いた。

少しでもママの負担が軽くなるように当番制にもなった。

あの家族がひとつのカラを卒業した出来事だったね。

無理なつくり笑顔をしていたママは、自然な笑顔に変わった。

あの笑顔。すごく心が落ち着く。

そして看護師だったママに成りたいと思う気持ちが強くなった。


ああ~でも本当に独りでやれるのだろうか。

朝ちゃんと起きれる?

ご飯も自分で用意して、お茶碗洗って、洗濯して、掃除して。

その間に勉強して。

いやいや、勉強がメインだろ。その間に家事だろ。

でももう電車で向かってるし。

荷物はもうアパートにあるし。生活道具も。

帰ってももう私の物はほとんど残ってないし。

そう、後戻りできないこの状況。

覚悟決めるしかない。


あ、車内販売。うう~もうお腹が減ってきた。

朝、あんなに食べたのに。

まあ育ち盛りだから、うん、食べちゃお。

あ~、なんか夢だったんだよね、こうして電車でお弁当食べるの。

なんか一つ夢叶ったな。

大丈夫、やれそうな気がしてきた。


さて少し勉強するか。どうせ先は長いし。

ええと、そうそう、昨日はここまで読んだからその先は、っと。

「・・・・・」


ああ~!寝た!お腹いっぱいになって、気持ち良くなって。

ここはどこ?

おお~、私がいた田舎とは大違いだ。大きなビルがいっぱい。

とうとう来たって感じかな。身が引き締まる思いです、私。

そういえば皆で都会に一泊した事があった。

そう、私が小学校卒業祝いにって。都会に行きたいって、ねだって。

やっぱりその頃になると友達とか云うからね。

私はあそこに旅行に行った、とか、私は海外・・とか。

そりゃ、人それぞれ、家族は違うから。でもちょっと羨ましかった。

だから、そんな遠くでなくてもちょっとだけ、って。

パパ、ママはほんと、あまいんだよね。

お金持ちじゃないけど、小さな奇跡はいっぱいあった気がする。うれしかった。

ああ、もしかしてそのせいでお金がないのかな。

考えてみれば、イベント事は・・誕生日だけでも兄弟で4回。ひいおばあちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんも、学校行事でもそれなりに。はは・・苦労かけてるな。

あの旅行は姉や兄はそうでもなかったけど、弟は喜んでた。

なんか好きなアイドルの聖地に行きたいって。なんだそれって思ったけど。

はあ、なんかいっぱい思いだしちゃう。


えっ?泣いてる私。

パパ、ママ、お姉ちゃん、お兄ちゃん・・・

寂しいよ。ほんとは行きたくない。

できれば一緒に居たい、いつも。

いっぱい話合ったね、私が看護師を目指す事。

そう、あそこでは資格がとれない。だから都会で学ぶって。

良いも悪いも云わない。ただただ私の意思を尊重して受け入れて。

なんだよ、少しは止めてもよくない?

いつも、いつも、私たちの云う事を優先して。

もっと自分を大事にしろよ。自分の意見を云えよ。少しは怒って。

間違ってたら殴ってもいいじゃない?

やさし過ぎるんだよ。パパもママも。皆も。ありがたい。


あれ?なんか外がさびしくなってきた・・ここどこ?

んっ?ああ~、逆走?乗り間違えた?

はあ~、一回家帰ろ。


---(終)---


ご覧になっていただきありがとうございました。
皆様に幸多からんことを。


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