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ギンカクラゲ

海亀も産卵に来る島一番の砂浜をいつものようにのんびり歩いていると、不思議な謎の物体を発見した。
小さな大根を輪切りにしたような円盤で、周りに綺麗な青いピラピラしたものが付いている。一体これは何だろう。

その日は写真を撮って帰った。
白い砂の粒々をバックに青いピラピラが映えて、その円盤みたいなものは写っていた。
うちで調べてみようとしても、何なのか見当も付かない。しばらくわからないまま日数が経った。

ある日、地元の海や山や川のガイドさんのサイトの、不思議な生き物達を紹介しているページに、この謎の物体が載っていた。
それはギンカクラゲというものだった。円盤のような丸いのは浮遊体で青いのは触手だった。

そのサイトの主な書き手はある女性のガイドさんだった。私は彼女の毎日の記録を楽しく愛読していた。ギンカクラゲの記述も彼女によるものらしかった。彼女もなかなか何なのかわからなかったようだ。

しばらくして、たまたま島の文化センターみたいな所で彼女の絵の個展に出会った。
彼女は絵を描くガイドさんだったのだ。
大きな画用紙に、自由にのびのびとまるで宇宙を描くように、たくさんの色を使った明るい水彩画だった。

彼女の絵が好ましいこと、島でこんな絵が見れて嬉しいこと、自分も色を扱うことが好きなこと、今は少し体調を崩していることなど話した。

彼女は、玉ねぎの芽が伸びて行くのを観察しながら描いた数枚の絵を順に見せてくれた。日を追うごとに玉ねぎの芽はぐんぐんと、何処までも何処までも伸びて行きそうだった。画面いっぱい力強い絵だった。

別れ際、二人で記念撮影した。

写真の中の彼女は日に焼けて引き締まった表情を見せている。私はやっぱりちょっぴり元気がなさそうに写っている。

あれから何年経つだろう。その後夫と私は島から引っ越して、今では夫の生まれ故郷に暮らす。
あの絵を描くガイドさんはどうしているだろう。島でガイドを続けているだろうか。
私はあの頃よりも元気になって絵を描くようになった。

彼女は今も描いているだろうか。描いていて欲しいと思う。
彼女に伝えたい。今、私も描いていますよと。

それにギンカクラゲ、あれは本当に面白い不思議な物体だったね。
ギンカクラゲは黒潮の海域にいるという話だった。

今こちらで、沖に黒潮の流れるお気に入りの砂浜がある。うちから車で南下して1時間半。浜に近い浅瀬は薄い緑がかったブルーで、遠くに行くほどブルーの青みが濃くなって行く。水は透明だ。

島の海を、海を眺めながら歩いた島一番のあの砂浜を思い出す。
じっと佇み打ち寄せる波音を耳にしながら、流れた月日に思いを馳せる。