連載 「こけしの恩返し」08 就職、楽しい!編


8月末に就職が内定し、初出社は9月1日だった。

なんと効率の良いことでしょう。

こういうことをトントン拍子というのですね。


私を雇ってくれたその会社は、麹町にあった。

麹町、その響きすら、なんかいい(かよ、心の俳句)

初出社して、私の席が決まって、いきなりもらっら仕事は切ったり貼ったりする仕事だったと記憶している。

ちょうど、ギフトショーに出展する日が近かったような、なんかとても忙しそうな雰囲気で、猫の手も借りたい、といった感じの中、何かを切ったり貼ったりしたような薄い記憶。。

切ったり貼ったり、という、手を動かす仕事は元々好きだったし、学生の頃からいろいろやっていたことだったので、全く違和感なくその仕事をこなすことができた。

しばらくそんな仕事が続いて、正直すごく楽しかった。

「こんなに自分の好きなこと(得意分野のこと)ができて、それが仕事になって、感謝されて、お給料までもらえるなんて、なんて楽しいの!」と思いながら帰る日が、その後3ヶ月は続いた。

切ったり貼ったりする仕事の他にも、いろんな仕事をさせてもらった。印刷会社という名からは想像できないような多岐にわたることを請け負う会社だったから、いろんなことが出来ておもしろかった。

私が美術系で作ったり描いたりすることが得意、と知って採用してくれた部長は、初めてのデザインの仕事をくれた。それは、部長がよく行くバーの何周年かの記念グッズにつける「のし」のデザインだった。小さい箱の中にはハンドタオルが入っていて、その箱の周りをぐるっと巻く「のし」。そこに、バーの名前と、00th Anniversary の文字を入れること。それ以外はおまかせだった。印刷は会社のレーザープリンターでやって、箱にのしを巻く作業は4階にいるパートさんたちがやってくれる、という、完全自社製の仕事だった。そういう仕事は割とあって、小回りが効くという点において、それはかなりあの会社の強みだったのだと思う。

デザインを考えて、部長の元に持って行った。

「どうでしょう。。?」

「いいじゃん」

即、採用だった。

こんなにすぐに自分の案が採用されるとは。。こんな簡単でいいんだろうか。。

困惑しながらも嬉しかった。

確か、100個くらい箱はあった気がする。その分ののしを、A4用紙に4面付けくらいでプリントして、次の日4階のパートさんたちに巻いてもらう用意をしたのだが、私はあることに気付いてしまった。

Anniversary の綴りが違う。。。!!!

私は、Anniversary の n をひとつ入れ忘れており、

Aniversary で100枚分ののしをプリントしてしまっていたのだ。

やばい、、と思った。

単純なミスである。

確認不足である。

今思えば、ちゃんと校正せずにOKを出した部長にも多少の責任はあるかもしれないが、当時の私は全て自分の責任と思って、

「なんてことしてしまったんだ。。。こんなに無駄を出してしまった。。。どうしよう。。。迷惑かける。。。怒られる。。。首になる。。。」

と、次の日、その誤植について部長に報告するまでずっとドキドキしながら青い顔で過ごしていたのだが、それを聞いた部長は、あっさりと

「じゃあ文字直してプリントしなおして」

と。

以上。終わり。問題無し。

こんなに簡単にプリントしなおして終わりにしていいんだ。。。と、あっさり許されたことが意外すぎて、こんな簡単に許してもらえるものなのか、仕事のミスって、、という、なにか新しい世界の住人を見たような気持ちになった。

結局、私は Anniversary に直して同じ部数プリントして4階に持って行き、任務終了となった。いきなりのミスから始まった初仕事のこと、そしてあのときの生きた心地のしなかった数十時間の気持ちを、今でもよく覚えている。


9月から12月の年末まで、そんな感じでとにかく毎日が新鮮で、やることが楽しくて、それまで就職できなかったことも相まって、仕事をしていられる、という現実が嬉しくてありがたくて、毎日充実感を味わっていた。こんなに楽しくていいのかしら、とすら思ってもいた。

が、しかし。。。

年を開けて1月が始まると、その楽しい気持ちが一気に失せていった。これはほんとうに不思議だった。なぜなんだろう。分からない。特に嫌なことがあった、とかいう訳ではなく、浮かされていた熱が正月休みを経て一気に引いた、という感じだろうか。なんだか知らないが、それまであった楽しさを、その後の私は感じなくなっていった。

きっと、慣れてしまったんだと思う。その現実に。

そして、冷めていくと同時に、嫌な面が見え始めてしまった。あああああ。。。。

そこから4年間、その会社に居た訳ですが、その会社でのあれこれはまた次回。。。


読んでいただきありがとうございました!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?