連載 「こけしの恩返し」14 新たなバイト決まるミラクル編


デザイン事務所を辞める少し前に、私はとても重要な出会いをしていた。

東日本大震災の後から、私はぽち袋の制作販売を始めていた。主に手づくり市で販売していたのだが、最寄り駅にある自然食料品屋さんにそのぽち袋を置いていただけないかとずっと思っており、ある日思い切って持っていったところ、気に入ってくださって置いていただけることになった。ぽち袋をなぜ雑貨屋さんではなく自然食料品屋さんに?とお思いでしょうが、なんとなく雑貨店じゃない方がいいような気がしていたのと、とにかくそのお店の佇まいや雰囲気、扱っている商品などが好きだったので、好きなお店に自分の商品を置いてもらいたい、という思いが一番だったように思う。

それ以来、しばしばそのお店に通うようになっていった。店主さんと会うとほっとしたし、店主さんの言葉はなぜかとても信頼できるものがあり、いつもバイタリティに溢れていて、お話しすることでとても刺激を受けていた。

ちょうどデザイン事務所に通勤し始めた頃にそのお店との交流が始まったように記憶している。デザイン事務所でうまくいかない自分を感じていたので、その店主さんのご意見を聞きたくて、早く帰れた時などはよくお店に寄っていた。店主さんの顔を見て話をするだけで、ずいぶん救われたような気持ちになっていた。

そうそう、しいたけを食べてアナフィラキシー症候群に陥ったのもこの時期だった。あの日、私は仕事が終わり最寄り駅に到着すると、まだお店が空いている時間だったのでお店に寄ることにした。するとちょうどその日入荷した肉厚の美味しいしいたけがあり、店主さんが網で焼いてご馳走してくれる、というではないか。私は喜んでしいたけをいただいた。しいたけを食べてしばらくすると、なぜかなんとなく貧血のような身体の異変を感じ始めた。寒気のような、ふらふらするような、そしてお腹の具合もなんだかおかしい。調子が悪そうな私を店主さんはアパートまで車で送ってくださった。身体の異変の正体を計り知れぬまま寝ようとしたのだけど、夜中、大々的に腹下しを起こし、それから眠ることができぬまま朝を迎えた。朝になると、いよいよ身体はおかしさを増した。震えが止まらない。寒気がする。喉がヒーヒーしてなんか苦しい。これはおかしい。今までに感じたことのないおかしさだった。そして私は思った。これはアナフィラキシー症候群というやつではないか、と。しいたけを食べた後から異変が現れ始めた、ということは、きっと原因はしいたけではないか。このままでは死ぬかもしれない、と思った私は、這いつくばるようにして駅前の医者まで歩いた。よくあの距離をあの状態で歩いたなあ、と思う。待合室でも座っているのがやっとなくらい具合が悪くて、診察してもらって点滴を受けたのだが、点滴が終わっても寒気と身体の震えは止まらず、お腹の具合も相変わらす悪く、ふらふらするので歩いて帰れそうにない。土曜日だったので診察時間がお昼過ぎには終わったのだが、とにかく具合が悪いので病院が閉まったあともしばらく待合室で休ませてもらった。あまりに具合が悪そうな私を見かねて、お医者の先生が車で家まで送ってくださると言う。本当にありがたかった。先生のおしゃれな小さい車に乗って、まだ震えは止まらぬままアパート前で降ろしてもらった。あのとき送ってくださったこと、本当にありがたかったので、数年後にその病院に行ったとき、「実は以前アナフィラキシーが出て先生に車で送っていただいたんです。あの時はありがとうございました。」と伝えたのだけど、先生は全く覚えていなかった。そんなもんですよね。


話は逸れたが、そんなこんなで仲良くなったそのお店の店主さんから、ある依頼を受けた。それは、街の地図を一緒に作らない? というものだった。その街のとある場所でマーケットのようなものを開催することになっており、それに合わせて街の地図を作ったらどうか、と、その店主さんは考えていた。その会場がとても分かりにくい場所にあるため、駅から会場までの地図を作らなければならない、でもせっかく地図を作るのなら、街に点在しているお店を載せて、ついでに新緑の季節だから街の木々も載せて、歩いて街を回りたくなるような地図にしたらいいのではないか、ということだった。「ぜひ作りたい!」と思った私は、地図の制作作業に入った。地図に載せるお店を募るため、一軒一軒回って説明し、ご意見をお聞きし、賛同してくださったお店には広告料をお支払いいただく、という、営業のようなこともした。この活動をしたことで、この街のお店の人と顔見知りになることができたし、街に少しずつ根付いていく感じがして嬉しかった。

店主さんとの二人三脚で、とてもすてきな地図が出来た。レトロ印刷を使ったので印刷の感じもとても雰囲気があって、手に取りたくなるかわいさがあるし、しかもちゃんとお店の宣伝もできてる、という、いろんな良さを兼ね備えた逸品に仕上がった。私はでき上がったその地図を、マーケットの会場となる場所に納品に向かった。地図を作っておきながら、そこは初めて訪れる場所だった。住宅街の中をてくてくと歩き、似たような小道がたくさんあって一度行っただけでは覚えられないようなその場所は、森のような鬱蒼とした木々に囲まれた素敵な1件屋だった。裏口のドアを開けると、スタッフの方がパソコンに向かって座っていた。「地図を納品に来ました」と言うと、その方は振り返り、親しみやすい口調で話しかけてくださった。その方と話をしていると、最近スタッフが1人辞めることになったそうで、バイトを探している、とのことだった。実はそのとき私は解雇宣告されたばかりで、この先どうしていこうか考えているところだった。そんなところにちょうど耳に入ったバイト募集の話、私はこれだ!と思って「私、バイトやりたいです!」と名乗り出た。すると運良く社長がいらっしゃり、スタッフの方が「この子バイトしたいって言ってます」と紹介してくださり、そこからトントン拍子でバイトが決定した。社長は突然現れた私を何の抵抗もなく受け入れてくれて、しかも履歴書すら必要としなかった。こんなふうに仕事が決まることもあるんだなあ。。と、呆然としながら、自然食料品屋さんに戻って「私あそこでバイトすることになりました」と報告した。あっという間の出来事で、こんなミラクルもあるんだなあ、、、と、とても不思議な気分だった。

そんなこんなで、デザイン事務所を辞める前に、次の新しいバイト先が決まったのだった。

ものごとって、本当にタイミングなんだなあ、と思う。

うまくいくときは、歯車がカチカチとはまるように、全てが仕組まれていたかのようにうまく回るものなのだ。

それまでの仕事の決まり方を考えても、私は何かに導かれるようにして、ものごとが決まって来たような部分が多いと思う。

何が導いてくれているのか、目には見えないけれど、こうやって実体験として体験してくると、その存在は確かにあるのだな、と感じる。

とてもとてもありがたいお導きだと思う。

大きな流れよ、ありがとう。

大きな力よ、ありがとう。


次回、森のバイト編です!

お読みいただきありがとうございます!


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