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インドネシア華僑の悪知恵

最近、ミャンマーで起こった軍事クーデターによって、日本を始め諸外国から資本進出して現地工場を立ち上げた会社は、改めて不安定な政治体制の国に資本進出するリスクを噛み締めていると思います。特にアウン・サン・スーチーが政権に返り咲いて、アジアの中で最も将来性がある投資先として脚光を浴びていた矢先の出来事です。

母国の政府がいざというとき何かしてくれるの?

アメリカの企業が理由も無くインドネシア政府に接収されて財産を国有化されたとすれば、アメリカ政府は黙っていません。凄まじい影響力を行使して介入してくるでしょう。
日本国政府はそれほどではないかもしれませんが、やはり国対国の問題として介入してきます。(と思いたい。)

一方、インドネシア華僑が同じ目にあったら、中国政府は何をしてくれるでしょうか?華僑はすでにインドネシア国籍になっているのです。またアフリカや東南アジアに広く活躍している印僑(インド人商人)の場合は、インド政府は何かしてくれますかね?

日本の大企業がインドネシアに進出するとき、スカルノ政権下、またはスハルト政権下でこの種のリスクを本気で心配した様子はありません。日本とインドネシアの関係は安定しており、さらに投下される資本は、其処に派遣される経営者(本社社員)個人のお金ではありません。

親しくなったインドネシア華僑のバンバン氏、グナワン氏(お二人とも立派な漢字の名前がありますが・・・)は、言います。

「インドネシア政府に、(またはその高官の一人に)目をつけられたら逃げるしかない。」

しかし何処へ? 
又巨大な紡績工場を、かばんに詰めて逃げることは出来ないので、放棄して逃げる? 工場につぎ込んだお金は全て社長個人の財産です。
こんな疑問が浮かんできたら、夜も寝られません。以前、スカルノ政権末期に起きた暴動に巻き込まれて中国人が襲撃され沢山の死者を出した記憶もよみがえります。

全人口の3%しか居ない少数派の中国人がほとんどゼロから積み上げて、大きな工場のオーナーになり、かなりの財産を蓄えた後、国家による理不尽な仕打ちが無いことはないと思い始めたら、おそらく日本人には考え付かない、いや考え付いても実行しない知恵がわいてきます。

フェニックス・プロジェクト(不死鳥作戦)

実際にバンバンさんやグナワンさんがそれを実行したということではないのですが、一つの可能性として話してくれました。
本当は実行した人を知っていたのかも知れません。
(判りやすくお金は円で表示しています。)

1.自分の工場の土地建物、金額にして20億円が、狙われていると知ったらまず、シンガポールに出張して、アメリカの銀行、たとえば Bank of Amerika (バンカメ)シンガポール支店に行き、10億円を預金したいと申し込みます。勿論、銀行側に受け入れられます。
次にその預金を担保にして、同額を融資してほしいと申し込みます。条件は、銀行の貸出金利は世間が認めるレベル内で幾ら高くてもかまわない。(たとえば、5%など)ただし、その1%だけ下の金利を開設した預金口座の利子として受け取りたい。(つまり4%の預金金利)銀行は、現金で10億円預かっているので、事実上焦げ付きのリスクはゼロです。
ここでOKとなれば、もう一つ条件を出します。自分の預金に加えて、インドネシアの工場の土地建物に銀行融資の担保としての抵当権を設定して貰いたいと申し出ます。

表の担保はインドネシアの工場、裏の担保は、同額の預金というわけです。銀行側にはうまい話でノーリスクで毎年1%の利子が入ります。

2.次に、ジャカルタに帰って、国営銀行の頭取を訪問します。日本の日銀に当たるBank of Indonesia のほかに、5つの国営銀行があります。

そこで、国営銀行にも10億円の融資を申し込みます。担保は工場の土地建物ですが、外銀に担保として差し入れてあるので、2番抵当になります。しかし時価20億円の工場に、外銀が10億、国営銀行が10億ということでぎりぎり引き合っています。国営銀行はこのままでは担保が足りないといいますが、そこで頭取の特別決済を取得するために融資額の5%のキックバックを頭取に約束します。頭取は、国家のお金を10億円だけリスクにさらす代わりに5千万円もらえるので話がつきます。
国営銀行から振り込まれてきた10億円をシンガポールに送金します。

3.ここまでの収支を整理すると、2つの銀行からの借金は20億円で、シンガポールに預金10億円、手元に現金10億円。
頭取のキックバック5千万円の費用が発生しています。

4.このまま、何事も無く会社を経営すると、米銀に毎年5%の利子を払わなければなりませんが、そのうち4%は自分の個人口座にたまっていきます。支払った5%は、経費として落ちるので節税になります。
国営銀行にも利子を払う必要がありますが、10億円の運転資金を借りているので利子払いは仕方ありません。
利子負担が重いので、会社は赤字かとんとんの状態です。
会社が持ちこたえれば、個人の資産は増え続けるので精神的には気楽な毎日です。
このままで行ければ20年ほどでシンガポールの預金は20億になって何があっても安泰となります。

5.次に、国家による接収とか業績不振による倒産のような非常事態が起きるとどうなるか。
国や銀行が紡績工場を経営する能力は無いので、債権回収のため工場は競売に付されます。
当然、国営銀行の借金は返済しません。
工場は接収されますが、ここで米銀に担保として差し入れた抵当権が物を言います。
接収した政府に対して米銀は10億円分は自分の資産であることを主張します。
米銀の後ろにはアメリカ政府が居るので、やむなく、認めて工場を競売にしますが、倒産した工場が時価で売れるわけも無く、たとえば、12億で落札された場合、1番抵当権を持つ米銀は、10億を回収します。
国営銀行は2億円回収して8億円の赤字になりますが、頭取は個人的に5千万円貰っているので、何も言いません。

6.工場を12億円で落札したのは、当然バンバンさんの身内か友人なので、ほとぼりが冷めた頃、12億円+αで買い戻しに行きます。
シンガポールの預金がそれまでに12億円に増えていれば問題ありませんが、(ほぼ、5年でそうなります。)
貯まる前に起きてしまったときには、会社の運転資金の内から2億円程度は事前にどこかへ避難させておいた方が気が休まるというものです。

7.このプロジェクトのいいところは、その間、会社の法人税をほとんど払っていないということです。

バンバンサンは、言います。

「石井さん、こんなことはやろうと思えば出来る。私はやってないけどね。」

そういいながら、ジープのような形のベンツGクラスに乗り込んで、帰って行きました。
しばらくして、私は、あることに気がつきました。

確かバンバンさんは、若い頃に高校の数学教師をしていたことがあると!! 


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