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名著『ストーリーとしての競争戦略』をスタートアップ経営に活かす方法(新規事例付)

はじめまして、ギバーテイクオール株式会社CEOの河野(こうの)です。

2021年11月17日、ジャフコ グループ様をリード投資家にお迎えし、シリーズAの資金調達を完了致しました。


2017年2月に創業し、スタートアップが陥る罠という罠、落とし穴という落とし穴にすべて嵌まってきた自信があります…

ただ、そういった環境でもなんとか前に進むことができたのは、その時々に最適な良著・名著との出会いや気づきがあったからです。

今回は、私が何度も読み返した超名著『ストーリーとしての競争戦略』について、スタートアップ経営者目線で超重要ポイントを整理しました。

また、まとめ記事にはない要素として野村不動産の新築マンション事業「PROUD」を本書のフレームワークで整理した事例付となっています。

『ストーリーとしての競争戦略』は、何について書かれている本か?


全382ページある本書は、タイトルにある通り「いかに他社と競争しないか」について書かれてた本です。

折り目が付くまで何度も拝読しました。

私なりにまとめた要点は

①「『非合理』と思える要素」を「事業の核」に組み込んで、「競争相手が手間取っている」内に(=キラーパス・クリティカルコア)

②「時間軸を味方につけ、複数の要素を結合」させることで、長期的に成長・発展できるビジネスモデルを構築する(=戦略ストーリー)

という点です。

スタートアップに限らず、ほとんどの経営者は、長期・持続的に成長する会社や組織を作りたいと思っています。

しかし、現実を見てみると…
「競合にデザインをパクられた!」
「提携先にそっくり同じサービスをローンチされた!」
「大手資本が参入してきて一気に市場を奪われた!」
という話はとても多いのではないでしょうか。

実際、世の中そんなに甘くないですし、リソースが限られているスタートアップが、そう簡単に持続的な競争優位性を作れるはずありません。

そんな時、経営者の思考をより深く、より遠くまで拡張する補助線となるのが名著『ストーリーとしての競争戦略』です。

最強の競争戦略とは「競合から見れば、非合理的過ぎて真似できないことを戦略のコアに組み込むこと」から始まります。

キラーパス・クリティカルコアを理解すると、競争戦略の根底が変わる

上記の要素を、本著では「クリティカルコア=キラーパス」と定義しています。

「それだけを見ると一見して非合理なのだけれども、ストーリー全体の文脈では強力な合理性を持つ」というクリティカルコアは、部分の合理性と全体の合理性が別物であるということに着目しています。

戦略全体の合理性は、部分の合理性の単純計算ではありません

ストーリーとしての競争戦略(P322)

スターバックスの「直営方式」、中古車のガリバーの「買取専門店」のように、同業他社からすれば常識外・タブーに当たる事業の要素のことです。

クリティカルコアを前提に成立している事業は、競争相手からすると模倣困難というか「非合理的過ぎて、模倣する気すら起きない」という状態です。

住宅不動産業界の事例①:野村不動産PROUD

と言っても、イメージし辛いと思いますので、住宅不動産の領域で「キラーパスと戦略ストーリーによって革命を起こした」と思う会社をご紹介します。

都心部で新築マンションの販売を行っている野村不動産の「PROUD(プラウド)」と皆様ご存知でしょうか。

都心部でもハイブランドのマンションとして知られ、『いつかは自分もPROUDに住みたい』と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

そんなPROUDの裏側には圧倒的なキラーパス(クリティカルコア)が存在します。

キラーパスは「ロケーション以外で集客する」

野村不動産プラウド事業の戦略ストーリー

住宅不動産業界に関わらず、中古車ディーラーや小売業、その他全般に言えることですが、仕入れが発生するビジネスの究極的な悩みは在庫・売れ残りです。

「もし、確実に売れる(完売できる)ものだけ仕入ることができたら…」と思うのは、すべての経営者が考える夢であり、いつか実現したい野望です。

その夢を新築マンション販売の業界で実現したのが野村不動産のプラウド事業です。

業界慣習とはまさに発想の逆転で「仕入れる前には、完売見込みがたっている状態」を実現してしまっています。


コンセプトは売り出し後の「即日完売」

野村不動産のプラウドシリーズは、業界の中でも「即日完売」が多いことで有名です。

Bプラウドクラブによるプレ会員の囲い込み

経営的にいえば、建設中の仕掛在庫は当然ありますが、販売開始以降の販売在庫期間が極端に短い点がプラウドの特徴です。

その秘訣は、プラウドが独自に投資してきたB.「プラウドクラブ」というプレ会員の仕組みにあります。

プラウド会員は、マンションを購入検討する未購入ユーザーが入会する会員制度であり、2013年の段階で会員数は約23万人の方が登録しています。(現在の会員数は非公開の模様)


「不動産は立地がすべて」の業界慣習に完全逆張りしたキラーパス

A.業界常識は「ロケーション至上主義」
新築マンションに限らず、不動産業界の常識としては、「仕入れ」がすべてと言われています。

良いロケーションの物件を仕入れることができれば、その物件情報で集客もできるし、需要があるエリアだと成約率も高まる。だからこそ、不動産業界では「一に立地、二に立地、三四がなくて、五に立地」と言われています。

B.プラウドクラブへの入会促進
その中で、野村不動産は「(まだ、物件がどこにどんな価格・仕様設備でリリースできるか分かりませが)プラウドクラブという会員制度があるので、入会しませんか?」というオファーをユーザーに出したということです。

これは当時の不動産業界の常識としてはありえないことだったと思います。

皆様もマンションを探す時必ず「(地域名) マンション」と検索するのではないでしょうか?

また、販売会社としても物件の完成目途が経ってから、個別のマンション単位で地域に即した販促活動を行います。

プラウドクラブで集めるということは個別の物件の魅力度に依存せず集める必要がある、しかもそれを首都圏エリアという巨大マーケットでやりきる、ということですから、通常の見込み客を作る以上に大変だったはずです。

C.ブランド認知度投資との認知度拡大
そこで、野村不動産のプラウドは、「PROUD」というマンションブランドの認知度拡大に投資を行います。プラウドクラブでは、個別物件による集客ができないため、ブランド認知を高めないと会員に誘導するのが困難だったからです。

これは他社から見たら非効率過ぎて真似ししようとも思わなかった行動だったのではないでしょうか。

予想するにこんな感じで。

1年目:
プラウド:「プラウドクラブという会員制度を作りました!マンションを購入する皆さん、入会しませんか?」

競争相手:「マンション物件もなく、こんな広い首都圏でエリアで、会員集めるとか何考えているんだ??絶対失敗するわ」

2年目以降:
プラウド:「プラウドクラブの会員数を増やすために、ブランド認知の投資を拡大します!」

競争相手:「そんな無駄な広告費使っても無理だよ。マンション買う買わないなんてその年の気分で決めるもんだろう?投資が無駄になって終わるだけだわ。さ、我々は仕入れに集中しよう。」

そしてとうとう訪れる「因果の逆転」

そうこうしている内に、首都圏のマンション購入ユーザーにおけるプラウド会員の入会数はどんどんと増え続け、2013年の段階では約23万人が登録するに至りました。

2013年当時の新築マンションの流通戸数は約5.6万戸だったため、年間流通数の約4倍の会員がプラウドクラブに登録していた、ということになります。

対象エリアの年間の流通戸数の4倍以上の見込み客をプラウドクラブ上にストックできたことで、プラウド事業における因果の逆転が始まります。

会員情報から逆算して仕入れができる

D.会員情報から逆算した不動産仕入れ
もちろんプラウドクラブには、会員顧客のデータがあります。つまり、どのエリアだったらどれくらいの世帯年収の方が、何人いるのか?という貴重なデータです。

このデータがあることで、そもそもマンション用地の仕入れと設計における精度が飛躍的に向上するのです。

たとえば、こんな感じ。

このエリアは検討ユーザーがどんどん増えているから、強気に仕入れても販売できそうだ

このエリアは検討ユーザーは多いものの、年収が低めな傾向があるから、売価を下げて建設したり、仕様設備のグレードを低めに調整した方がいいな

このエリアは検討ユーザーの数は少ないものの、高収入な方が多いから小規模な高級分譲の方がよりニーズに合いそう。部屋数を減らして単価を高めてたとしても、充分に利益がでそうだな。

売り出し開始後、即日完売の常勝ブランドが完成

そして、ロケーション以外で集客するというキラーパスから、見事に時間を味方につけたプラウド事業は、創業から約10年以上経過したタイミングで、販売在庫期間が非常に短いという「即日完売」の仕組みを実現します。

その結果「仕入れる前に、既に売れることが確定している」という卓越した競争優位性を勝ち取ることができ、さらにこのプラウドクラブの会員構造をベースとした新規事業などに繋がっています。

1X年目以降:
プラウド:「今回も即日完売です!」

競争相手:「まじ?やっぱプラウドは強いなぁ。あの購入価格で即日完売とかヤバすぎる。仕入れでも指値を高く競ってくるし、まじで勘弁してほしい…」


と、今ではこんな感じなのかもしれませんね。(すべて私の妄想なので、ご容赦ください)

ストーリーとしての競争戦略を語ることが目的だったため、あまり触れませんでしが、新築マンション事業は、非常に景気に左右されるビジネスです。

大体10年~12年に一度の頻度でリーマンショック級の不況が来るため、その都度、銀行融資で回していたマンションデベロッパーが倒産する…ということをずっと繰り返している業界です。

そのため財務的に余力があって自己資金で運営することができる財閥系企業しか生き残れないと言われていました。

野村不動産のプラウドはそんな業界構造にまさに正に風穴を空けるような、素晴らしい競争戦略・ストーリーをもった事業だと思います。(めちゃくちゃ尊敬してるし、ベンチマーキングしてます。)

「ストーリー=キラーパス×時間」の公式がスタートアップを勝利に導く


いかがでしたでしょうか?

少しでも、キラーパスの重要性と、いかに時間を味方に付けるか?の2点をお伝えしたかったのですが、文章書くのが苦手なので、分かりづらかったらごめんなさい。

なぜ、この本をご紹介したのかと言えば、スタートアップ界隈では「PMF(Product-Market-Fit)こそがすべて」という思想が非常に強いなと思ったからです。

たしかに、優れたプロダクトはめちゃくちゃ大切です。しかし、その優れたプロダクトがより成長・発展していくためには、そもそも競争に巻き込まれないことが重要ですし、もっと言えば、「ここと競争しようと思われない」ことをやっている方が最高なわけです。

是非、
「自社にクリティカルコア・キラーパスはあるか?」
「経営戦略の中に、時間を味方に付ける要素は組み込まれているか?」
と考えてみていただけると面白いのではないかと思い問題提起でした。

ちなみに、一番恐れるべきは、「キラーパスがないけど、時間が味方になる」左上象限です。

どんどん新規参入されて資本によるたたき合いになってしまいますので、事業構築力よりも「資金調達力」勝負に持ち込まれてしまいます。

そうなると、自分達が頑張ってPMFしてきた事業を、大手の競争相手に市場ごともって行かれる(=言い換えると、競合先のPMFコストやリスクを自社が代わって検証してあげた状態)ことにもなりかねません。

また、「キラーパスがはあるけど、時間が経っても競争優位性が増えない」右下象限の場合、自社の成長戦略をブラッシュアップすることが大切です。今のままだとスモールビジネス向けの成長戦略になっている、ということですね。

弊社(ギバーテイクオール)のキラーパスについて

「偉そうに言ってるけど、お前の会社はどうなの?」というご指摘が入りそうなので、是非、弊社のキラーパスも是非、ご紹介させてください。

ただし、弊社の場合まだまだ「時間を味方につける」は現在進行中ですので、その点はご容赦いただけると嬉しいです。

弊社の場合、住宅不動産領域のスタートアップなのですが、キラーパスは「オンライン版の相談カウンターである」という点です。もう、説明した時に「は?」とか「え?」とか良く言われます。

A.オンライン相談カウンター
よく言われる質問はこんな感じです。
住宅関係者:「相談カウンターって、カウンターって言ってるのに店舗ないの?」
私:はい。店舗ないです。しかもZOOMなどのオンライン会議ツールもユーザーに対して使っていません。電話とLINEがメインですね。

IT業界の方:「マッチングアルゴリズムって自動化してないの?人が担当しているの?それで、まじでスケールするの?」
私:はい。完全自動化してないです。担当オペレーターが正社員で10人くらいいますよ。今、都道府県で言えば20県くらい展開してますよ。エリア制とかもないです。

B/C.地方の注文住宅市場から始める
さらに一般的にはプラウドが進出しているような首都圏エリアからは創業することが多いのですが、弊社の初期市場は「熊本県の注文住宅市場」でした。

現在の主要なマーケットも完全に逆張りで「地方×(不動産ではなく)建築」に特化してます。

という感じで、「真似しようと思わない」と言っていただくことが非常に多いです。(個人的には嬉しくもあり、悲しくもある複雑な気持ちになります…)

私として、はここから時間軸を味方に付けるストーリーがあるのですがそれは語ってみるよりも、実践することで証明していきたいと思っています。

もし、弊社にご関心ある方はいろいろディスカッションさせていただけると幸いです。

【第2回予告】住宅不動産業界の事例②(飯田グループホールディングス)

もともと2社ご紹介しようと思ったのですが、思った以上に文字量が増えてしまったので、2回に分けて記載します。

次回は、新築戸建の建売市場で業界シェア30%以上という圧倒的強さの飯田グループホールディングスについて、その戦略ストーリーを解き明かしてみたいなと思っています。

飯田グループホールディングスの戦略ストーリー

野村不動産のプラウド事業とは異なって、日本全国に展開している企業様なのですが、こちらも競争ストーリーも非常に美しいというか、凄いですね。

同じく仕入や在庫が発生するビジネスなのですが、、日本全国にマーケットが分散する中で、いかに飯田グループが仕入れのネットワークを構築しているか?という点がとても面白いです。

住宅不動産以外の他業界でも書けると思うのですが、私の大好きな建築・不動産領域に皆様も興味を持ってもらえると嬉しいので、極力、この領域で書いていきます。

最後に:『ストーリーとしての競争戦略』を読んでみて欲しい

最後にまじで良い本なので、是非皆様もストーリーとしての競争戦略読んでみて欲しいです!特に、経営者様は必読本かと!

長文ですが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました~

最近Twitter始めたので、フォローしてくれると嬉しいです。
Twitter:https://twitter.com/AAyvq


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